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赤い糸  作者: Happy Time
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新約赤い糸解釈論(槻弓)

「…あのさ、ゆーくん」

カラッと晴れた7月の朝。

私、高城タカシロ 理恵リエは勇気を出して口を開いた。

今は色々な事情があって森の中にいる。

木々のおかげで夏なのにそんなに暑くない。

はずなのに。

私の手はうっすらと汗ばんでいた。

「どうしたりっちゃん?」

そう聞き返すのは幼馴染の透野トウノ 悠太ユウタ

背丈は180越え、髪は茶髪、おまけにファッションサングラスなんかをしている。

一見遊び人にしか見えないけど、実際はただの変人。

小学校の頃からの腐れ縁。

だと思っていた。

「あのさ、その、あ、暑い…ね?」

「そうか? 森の中だからそんなに暑くないと思っていたが。 少し休むか?」

「ううん、大丈夫! 全然暑くないからっ!」

「そうか?」

あぁ、何言ってるんだ私は!

そうじゃないんだ、言いたいことは…

大体察してくれてもいいじゃないか、もぅ。

心の中で不満を叫んでいると、前を歩いていた悠太がいきなり振り返った。

「なぁ、りっちゃん」

「うわぁ!? な、なんだよ?」

悠太は立ち止まって、前のほうを指差した。

そこには小さな川が流れていた。

「川か… やっと脱出できそうだね」

「あぁ、まったくだ」

脱出。

そう、私たちは迷っていたのだ。

事の発端は少し前に遡る。



「よし、山に行こう」

終業式の後、いきなり悠太が提案した。

「「「はぁ!?」」」」

そこにいた全員が驚いた。

「いつ行くんだ、ついでに何処?」

いつも一緒に遊ぶ柴原シバハラ 慶次ケイジが聞いた。

こいつは最近彼女が出来た。

相手は私の友達の深水フカミ 小夏コナツ

物静かでいい子だ。

スタイルも良いし…

今は柴原の隣でうなずいている。

「よくぞ聞いてくれた! では答えてやろう!!」

そう言うと、いつの間にか用意したホワイトボードで説明をしていった。


「っというわけだ諸君」

簡単に説明すると、悠太は『急に山に行きたくなった。 この学校の近くにある山に登ろうと思う。 ちなみに明日』とのこと。

「異議がある者はいるか?」

「じゃぁ、はい」

控えめに小夏が挙手をする。

「異議は認めん! ここは独裁国家なり!!」

「じゃぁ、最初っから聞くなぁ!」

私の拳が鳩尾に決まり、悠太は崩れた。



そして、今現在、悠太が勝手に走り出し、それを追いかけた私も迷子になってしまったのだった。

「とにかく、脱出の目途はついた。 ここで少し休もう」

そう言いつつ、悠太は靴を脱ぎ、足を川に浸した。

私もそれに習い、隣に腰を下ろした。

川辺のせいか、日に当たっているのに涼しい風が吹くおかげで気持ちよかった。

「ところで、りっちゃん」

「なに、ゆーくん?」

「本当に言いたい事とはなんだ?」

「…っへ?」

この時の顔はさぞかし間抜けそうだっただろう。

「いや、さっき小声で『言いたいことはそうじゃないんだ』とか『大体察してくれてもいいじゃないか』と言っていたはずだが?」

「嘘!? 心の中で叫んだはずなのに…」

「ふむ? 俺はてっきり話す時間が欲しくてわざと小声で聞こえるように言っていたのかと思ったが?」

まさか口にしていたなんて。

「で、なんだ?」

二人の間に沈黙が流れる。

しばらく黙っていると、悠太の方から声がした。

はずである。


「…っへ? なんだって?」

本日二度目の間抜け面である。

「だから、俺はりっちゃんのことが好きだと言ったのだ。 わかっていただけたか?」

「ちょ、ちょっと待った!」

顔が熱い。

汗がダラダラ流れ出る。

辺りの音も掻き消えた。

「その、えと、な、なんで?」

私のバカ!

何聞いてるんだぁ!?

「ふむ、では答えよう。 長くなるが聞いてくれ」



「ってわけで、俺はりっちゃんが好きだ」

「は、はぁ。 えっと、ありがと」

「いやいや、礼には及ばん」

話は本当に長かった。

出会ってから今までの私に対しての気持ちを聞かせてくれた。

嬉しかった。

私と同じように、悠太も好きだったんだ。

「さて、そろそろ答えをもらいたいんだが?」

「あ、あぁ」

答え?

そんなの決まっているじゃないか!


「私も――


大好きだよ、ゆーくん」



その後、二人でしばらく話をしていた。

「そろそろ行くか?」

「そうだね」

二人そろって立ち上がる。

いつの間にか、空は橙色になっていた。

「ちょっと話すぎたかな?」

「いや、全然大丈夫だろ」

やけに自信たっぷりなゆーくん。

空は次第に朱色から茜色へ変わっていく。

「きっと、赤い糸で結ばれてたんだね、私たち」

「いやいや、それはないだろう」

数秒の沈黙。

―バキャ

「ぐはぁ!?」

「いきなり彼女のセリフを否定するかい!? 普通!?」

「ま、待ってくれりっちゃん!? ちゃんと説明する!」

咳払いを一つして、ゆーくんは語りだす。

「俺は、赤い糸は繋がっていないと思う。 きっと途中でみんな切れているんだ」

「否定派なんだ?」

「いいや、違う。 繋がっていない代わりに、それぞれが糸を絡ませようとしているんだ」

「絡ませる?」

「そうだ。 赤い糸で『繋がっていたら』普通は別れないだろ? でも、絡まっているだけなら…」

「解けても、『別れても不思議じゃない』と?」

「その通りだりっちゃん!」

私の答えに嬉しそうに微笑むゆーくん。

でも、

「それじゃぁさ、私達もいつか解けちゃうのかな?」

不安だった。

そんな事を言っておいて、別れたときの口実にするんじゃないかと。

だけど、そんな心配は無意味だった。

「いや、それは無い。 断言する」

「は、はぁ?」

「なぜなら、俺のは『糸』ごときの様な軟いものじゃない」

無駄に自信満々なのは昔からまったく変わらない魅力の一つだ。

「俺様のはさしずめ赤い『ロープ』だからな!」

「…ップ。 あははははははっ!」

思わず笑ってしまった。

自分の器の小ささに。

そうだ、解けるはずがないのだ。

『私達』は赤いロープでお互いをしっかり縛っているんだから。

「むぅ、笑われるのは少し堪えるぞ?」

「ご、ごめんねゆーくん。 あはははっ」

空はいよいよクライマックス迎えていた。

茜・蘇芳・紫紺・青褐

いろんな色を混ぜ合わせた空の色。

まるで私達の気持ちのようだ。

笑う私に、へこむゆーくん。

この世界は最高だ!

「…ゆーくんっ!」

「ん? なんだ?」



「あ り が と う」

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