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赤い糸  作者: Happy Time
3/5

夢の中の彼女(崎浜秀)

 あれから、どの位の月日が流れただろう。彼女は僕の目の前から消え――。

 実際は、消えた訳じゃないのだろうが、僕には既に見る事が出来ない……。




 彼女との出会いは、元々夢の中でだった。オカシイと言う奴が居るかもしれないが、本当に夢の中で出会ったのだ。

 初めて会った時は僕も単なる夢だと思ったが、その後、何度も夢の中で彼女が現れ色んな事を話した。

 そんなある日、夢の中ではなく、僕の部屋の中に彼女が現れた。初めは驚き、まだ夢の中なんだって、思っていたがそれが夢じゃなかった。彼女はいつもの様に微笑み優しく僕に話しかけてきたのだ。

 そんな現実に現れた彼女は、僕以外の人には見えず、声も僕以外には聞こえない。だから、一人で部屋で話している僕の事を、家族全員が僕の事を白い目で見始めた。それでも、僕は気にしなかった。彼女が居ればいいと思っていたからだ。



 そして、彼女が消えた日……。僕は夕暮れ時彼女と一緒に公園に来ていた。彼女と何度も散歩した公園。しかし、それはいつも夜中になってからの事で、こんな時間に散歩するのはこの日が初めてだった。彼女が急に散歩をしたいと言い出したからだ。

 まぁ、滅多に人が来ないこの公園なら、彼女と話しても何も言われないと、僕は軽く了承した。彼女と話す事が出来るこの公園は僕にとっては、とても心の休まる場所だった。

 地面に落ちる枯れ草を踏むと、いい音が辺りに響く。もう冬が来るんだと思わせる。だが、彼女が落ち葉を踏んでも音はならない。それは、僕と彼女が違う存在だと言う事を物語っている。


「もう冬なんですね……」

「そうだな」


 彼女の何気ない言葉に、僕も何気なくそう答える。彼女は少し寂しげな瞳で、オレンジ色に染まる空を見据える。この後に会えなくなるとも知らずに、僕は彼女に言う。


「明日も、一緒に夕日を見にこよう」


 その言葉に彼女は一瞬、悲しそうな表情をするが、微笑みながら僕の方を向きゆっくりと頷いた。もちろん、この約束が果たされる事は無かった。

 それから、部屋に戻った僕は、何故か眠くなりベッドに横たわった。眠りに就いた僕は夢を見た。現実に彼女が現れて見る事の無かった、彼女の夢を。彼女は何かを伝え様と口を開いたが、その声は僕には聞こえ無い。僕も彼女に呼びかけるが、彼女にも僕の言葉は伝わらなかった。

 徐々に彼女の体は薄れて行き、その事に彼女は涙を流し始める。そして、彼女は消えた。僕の夢の中で――。




 あれから、どれくらいの月日が――。

 もう、冬は過ぎ春が訪れ、あの公園では桜が満開になっている。その桜の中を僕は歩き続けていた。彼女との思い出に浸るために――。

 その人気の無い、公園内には鉄の擦れる音が響いている。誰かがこの公園に来ているのだと、僕には分かった。だが、そんな事全く気にはせず、僕はただぼんやりと歩き続ける。少し斜面になった道を歩いていると、鉄の擦れる音が止み、その斜面を赤い毛糸玉が転がってきた。一本の赤い糸を道にスッと引き、僕の足に当たり毛糸玉はとまる。こんな時期に、毛糸なんてと思いながら、僕はジッと毛糸玉を見据える。

 そして、何も言わずにそれを拾い上げた僕は、その赤い糸を辿りながら前に進む。そんな僕の視界に、一人の女性の姿が見えた。後姿だが、綺麗な長い黒髪の女の人だ。急に心臓が勢いよく鼓動を打ち、僕の期待は高まって行く。まさか、彼女が……。

 そう思った時、黒髪の女性が振り返る。だが、その顔は彼女とは全くの別人だった。何を期待しているんだと、僕は心の中で叫び、赤い毛糸玉をその女性に手渡そうとした。

 その時、その女性の後ろで鉄の擦れる音が聞こえ、女性の背後から声がする。


「それ、拾ってくれたんですね」

「エッ?」


 僕の目の前にいた黒髪の女性は、変な顔をし僕の前から立ち去ると、その後には車椅子に乗った、彼女の姿があった。彼女と目があった瞬間、僕の頭は真っ白になった。そんな、僕に彼女は言った。


「私達、どこかでお会いしましたよね?」


 彼女はそう言い微笑んだ。あの時の様に――

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