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赤い糸  作者: Happy Time
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運命の……?(詩斗)

「むー……いつまでたっても終わらん……」

 春の気配も麗らかな某日。

 ぽかぽか陽気も気持いいというのに、私、鶴崎喜代(つるさききよ、と読みます)は自分の部屋に引き込もってマス。

 何故かって、それは致し方ない理由からで。

 ――とどの詰まり、主な原因は、まさに自分の手元に存在する。

「くっそ〜、なんでうまく出来ないんだろ……。折角柚(ゆうと読みます。普通はゆず、よね)に教えてもらったのに」

 あ、柚っていうのは私のクラスメイトで、尚且つ幼馴染みである、一番の親友ね。

 私とは正反対の容姿&性格の持ち主。

 髪はまさにヤマトナデシコ!ってな具合に真っ黒だけど艶やかで、さらりさらりと風に舞うその姿だけで卒倒する学生(大半は男子だけど、一部女子を含む)続出。

 次、顔。すごく綺麗に整っている柚の顔は、髪以上に直視できないものだ。

 長い付き合いである私でさえ、無理。綺麗すぎてたまに怖くなる。

 あまり表情がでないから、まかりまちがって着物でも着てしまうと日本人形にしか見えない。

 私も、柚の着物姿を初めて見たときは[お化けがいるっ]と泣き叫んだものだ、うん。若いってスバラシイ。

 ま、だから[鉄仮面を被った舞姫]なんていうアダナがつけられたわけだけど、本人は特に気にしてない様子。

 ステッキーな彼氏も出来たようだし、いやめでたいめでたい。


 ん? なんの話してたっけ……。あ、そうそう! 引きこもりの原因だった。

 手元にある、引きこもりの原因であるブツをちら見しながら、私は大きく溜め息をついた。テンションがいきなり急下降する。

 私の視線を下に伸ばすとアラ不思議。そこには運命の赤い糸……ではなく、赤い毛糸がぐるぐるぐるとこれみよがしに存在を主張していた。

 この糸を辿れば運命の人に巡り逢えるかしら。

 そんなことを感じて無意識に糸を辿ってみても、実際に繋がっていたのは手に持つ2本の木の棒だ。

 そう、私は今、大変時季外れなことにマフラーなんていうものを作っちゃったりしているのでした。


 どうせなら冬の始まり、クリスマスあたりにでも完成品をプレゼントして、ついでに告白なんてできちゃったらよかったんだけど、そういう方向性でマフラー作りに着手してたんだけど、うん。敗因はきっと、自分の不器用さを計算に入れてなかったことね。

 完成予定日は延びに延び、時はもう二月後半。バレンタインですらとっくに過ぎちゃったよ。。

 どんなに編んでも一向に長くなってくれなくて、それでもきっちり、かかった時間の分だけ人のヤル気と根気を奪っていったマフラーを横目で眺める。

 首尾よく完成できたとしても、これ、本当にプレゼントできるほどの価値があるのかな。

 編み棒の両端から垂れ下がるマフラーのカケラ。その所々から飛び出す毛糸の切れ端。

 ……無駄だわ、これは。。はっ、いやいやそんなことはない!

 “手作り”ということだけで価値はある!……はずだ。

 そんな自問自答を繰り返しながら時間だけ過ぎてゆき、季節はそろそろ防寒具を必要としない春になりはじめた、ということなわけでした。チャンチャン♪

 ――終わっちゃダメだから、私。



 ピンポーン。

 引きこもり生活真っ只中な私の耳に届いた玄関のチャイムは、誰にも会いたくないと望む私を無理矢理にも動かせるほどの力を持っていた。

 いや、今、家には私以外に誰もいないしね。

「はいはい今開けますよ〜開けますからそれ以上チャイムを鳴らさないでね〜」

 ピンポンピンポンと、迷惑なくらいチャイムを押し続ける訪ね人。誰かは知らないけど、なにごとにも節度ってものがあるのよ?

 だから連打するのはやめろ〜っっっっ!!!

「人んちのチャイム連打してんなっ!」

 がちゃりとドアを開けつつ、私は叫んだ。そして、犯人の正体を知って唖然とした。早い話が、開いた口が塞がらないって感じ。

「ゆう? あんた、なんでうちに来てんの?」

「喜代の性格ならそろそろ諦める頃合だと思って。マフラーはできた?」

「……わかりきった結果を聞くのは反則だと思う」

「いや、一応社交辞令で。あがっていいかな」

 社交辞令、という言葉が適切であるのか疑問に思いつつも私は柚を家の中に招き入れる。

 私が台所で適当に飲み物とお菓子を見繕って自分の部屋についた頃には、柚はできかけ、というよりは編みかけといったほうが正しいマフラーを手にとり、それをしげしげと眺めていた。

「折角柚に教えてもらったのに、それ以上はうまく編めないよ」

 精一杯の誠意をこめて言ってみる。

 編み方を教えてくれた張本人だもんね、柚は。

 下手に嘘吐けないし、なにより例のブツが真実を物語っているのだ。嘘を吐く必要も、意味もないだろう。

「これはもう見事なまでに……」

「そこでとめなくていいから」

「や、でも喜代に失礼だし」

「その発言自体失礼だし」

 少々の、間。

 じっと柚を見詰める私。見詰め返す柚。先に折れたのは柚だった。

「……これは、思った以上にステキな出来栄えデスね」

「オホメに預かり光栄です。で、これ……回復の見込みは」

「ないね。もうこれは捨ててしまえ」

 そこまできっぱり断言するなっ。自分はちょっと編み物がうまくて綺麗だからっていい気になって!

「誰がいい気になってるんだ。喜代、全部声に出てるから」

「あ、マジすか。別に聞かれてもいいけど」

 そんな気の置かないやり取りをかましつつ、それでも最終的にはやっぱり例のブツの話に逆戻りだ。

「ん〜。これ捨てて、もっぺん新しく編み直すかなぁ」

「喜代の壊滅的編み物能力では無理、いや無駄だ。編み物は諦めよう」

「言い換えても失礼な発言には変わりないよね」

 名残惜しく感じつつも、私もきっとそうするのが無難だろうなって思っている。

 編み物エキスパートである柚と話し合った結果、これ以上無駄な努力はせずに別の方法で告白をすることにした。

 編みかけのマフラーは、ゴミ箱にぽいっと捨てた。



***



 マフラーをゴミ箱に葬り去ってから後日、私はデートで忙しいであろう柚に教えを請い、連日学校が終わってからいろいろなことに挑戦してみていた。

 幸いなことに、私と柚には各部の部長である友達がたくさんいたから、拝み倒してそれぞれの部屋、器具などを使わせてもらえることになった。ラッキー。やっぱり人徳かしら。

 そんなわけで、まずは華道。

「きゃー!! ちょっと待って鶴崎さん指っ指っ!」

「うん、さすが喜代だ。そんなに指を詰めたかったなんて知らなかった」

「「指を詰めたい女子高生なんているかっっ」」

 剣山に触って“キャ、痛い☆”なんて可愛らしく言ってみることもなく、花よりも先にハサミで指を切断してしまいそうだから、というわけで却下。

 お次は茶道。

「キヨーっっ。あんた、抹茶がどれだけ高いか知ってんの?! うち部員が少なくて存続も部費も瀬戸際なのよ!!」

「ならば抹茶をたてるときに和菓子は必要ないだろう」

「柚……いま、その正論言わない方が……」

「……あんたたち二人とも出てけー!!」

 抹茶の量が覚えられず、高価な抹茶を無駄にするな、というわけで却下。

 はい次縫い物。

「あたし喜代に何色の布渡したっけ」

「えーと、クリーム色じゃなかったかな?」

「……その布に、赤い水玉模様なんてついてた?」

「何を言ってる。これは喜代の血だぞ」

「血……血……」

「あ、こら待て倒れるなーっっ。柚も、こういう時は嘘でも“ついていた”ていうのっ」

 これはマフラーと同様の理由、無駄、という柚の一言で却下されるはめになった。強いていうなら[鉄の処女]状態になるのを未然に防いだということらしい([鉄の処女]てなんだ?)。

 はい次きました料理。

「ストップ、まずストップ、とりあえずストップ!」

「な〜によ、なんか文句あんの?」「包丁の下に指を差し出さないでくださいっ」

「別に好き好んで差し出してるわけじゃないよ。包丁振るう度に何故か接触事故を起こしそうだけど」

「喜代……もう諦めろ」

 華道よりも高い確率で指を切断してしまいそうだから、というわけで却下。


 ……結局“可愛らしい女の子をアピールして告白するぞ☆大作戦”(いつそんな作戦名がついたんだというツッコミは却下)で考えついた方法のほとんどを却下されたんですが、私はなぜこんなにも不器用なのでしょうか。こんな私に、もう打つ手はないのか。

 私に明日はあるのか?! 頑張れ、私!!

 なんて熱血している場合じゃない。告白と同時に女の子らしさをアピールするためナニカをプレゼントするんだコノヤロウという大前提がある以上、できそうなことがもうこれくらいしか思いつかなかったので、包丁を使わないで作れるお菓子を手渡そうという話になって。

 私は、それはもう一生懸命お菓子を作り続けた。朝も昼も夜も、頭の中を占めているのはお菓子作りのことばかり。

 柚を家まで強制連行して、お菓子の作り方を教えてもらいながら小麦粉や卵なんかを混ぜまくる。

 クッキーやらケーキやらパイやら饅頭やらに手を出し大量の食材を無駄にしては、母親はもとより父親にまでお叱りを受ける日々。

 大量の食材を無駄にしながらも一向にスキルアップしない私を見兼ねて、いろんなものに手を出していくよりも分量さえ間違えなければ無難なものができるはず、という柚からのアドバイスにより、作るお菓子はクッキーに限定されたのは、お菓子作りをはじめてから一週間後のことだった。……ちょっと遅いよ。

 ともかく、そのアドバイスを信じて、来る日も来る日もクッキーを作り続けた私は約二か月後……。


「A君(仮名)大好きですっ。このクッキーを食べつつ私と付き合ってください!!」「あ、ごめん無理」

 私にしては今までで最も上出来なクッキーを携えて告白したというのに、その一言でモノの見事にフラれてしまった。

 しかも相手のA君は、その後呆然と立ち尽くして動けない私を捨て置き、目の前から姿を消した。消息筋からの情報によれば、その後すぐに下級生の多分彼女であろう女の子と仲良さそうに手をつないで帰っていったらしい。

 マフラーは完成させることもないまま捨ててしまって、さらには最終兵器であるクッキーを受け取ってもらうこともできずに、私の今までの努力が水の泡と化した。私に協力してくれた柚をはじめとする各部部長クラスのみんなの苦労も、無駄になった。

 だけど、フラれた理由は、実は彼女がいる、ということのほかにもまだあったようで。

 これは人づてに聞いた話なんだけど、どうもクッキーが見た目からして最悪で、手に取ろうとする気にすらならなかったらしい。 自分としては最高な出来だと思ったけれど、うーん、やっぱり、いくらサクサクとはいえ、黒焦げなのはまずかった……のかな?


 こんな感じで、私の恋は実らず散った。


 ――捨ててしまった赤い毛糸。あれと一緒に、運命の赤い糸も捨ててしまったのかしら……。

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