屋上の冷たい風
5月直前の風はまだ冷たくて、スカートを履いたワタシの足を容赦なく攻撃してくる。
「あ……」
鈴堂クンらしき人物が声をあげた。
「用事、て?」
この妙な空気も、
冷たい風も嫌ですぐに質問した。
さっきの宮藤との事もあって、すこし……いや、だいぶぶっきらぼうだったかもしれない。
ワタシのイメージが違ったからか、急にオドオドし出した。
ハッキリしない人。
「あ、うん。捺樹に聞いたかもしれないけど……」
何、この空気……
「実は……」
やっぱり、こんなとこ来なければよかった。
「好きですっ、付き合って下さいっ」
イライラする。
「ワタシはーーーーーー……」
「望月チャン……」
どうして、待ってるの?
「宮藤……」
下駄箱の壁に寄りかかっている。
手には何もない……多分、この30分間何もしないでただただ待っていたんだと思う。
「行ってきたの?」
「さぁ、どうでしょう。」「行ってきたんでしょ……?昔から素直な子だからね。」
何でも知ってるみたいに言わないでよ……
「悪い?」
「全然、で……言われたんだ」
「何を?」
惚けてみる。
「好きだー、て」
宮藤が笑った。
確かに笑っているのに…
「言われたよ?」
「何て答えたの?」
「関係ないと思うけど」
「………」
ほら、何も言えな……
「関係あるよ……、望月チャンが好きだから」
また、だ。
「何、それ……」
「好きな人が、他の人に告られてんのに……
気が気じゃないよ……」
ほら、また……
「何て、答えたの?」
真剣な顔をするから……
逆らいたくても逆らう事なんて出来ない。
「断った、よ……」
「どうして?」
矛盾。
断って欲しかったのか、そうじゃないのか……
「知らない人だったし。」「嘘。」
なんで……
「やっぱ、嘘下手だね……本当は?」
なんで、分かるの?
「他に好きな人いる。」
「誰?」
本当、バカ……
「断る口実に決まってるでしょ?」
「嘘。」
「………」
本当、バカ……だよな、ワタシ。
でも……
「言えないよ」
宮藤だなんて、言えないよ。
「何で?」
「どうして、そんな詮索するの?」
決まってる……
「望月チャンが好きだから」
ほら、ね?
「ワタシは……」
「教えてよ、気持ち」
期待が……
「ワタシは……っ宮「「捺樹クーーン」」」
「あ……」
「探したんだよ?今日、カラオケ行かない?」
「ごめん、今……」
そうか……
「前に約束したじゃんか~っ、ねっ?」
やっぱり……
「行こーよっ」
期待なんて……
「……ねぇ、もしかして彼女?」
「違うっ!!!!」
宮藤が、怒鳴るような声をあげる。
けど……
私に気づかせた。
期待なんて、してない。
「行ってくれば?」
「望月チャン……?」
してない。
「じゃあ、ね」
してない。けど、
そんなハッキリ言わなくてもいいじゃんか……
宮藤に背中を向けてから喉元に込み上げるものを感じた。
熱く……
冷たく……
頬に流れるそれを声を殺しながら、手の甲で拭いた。
『教えてよ、気持ち』
そんなの……
「こっちが、知りたいよ……」
立ち止まってしまった。
前に進めない。
後戻りも出来ない。
胸の中にあるこの大きな蟠りが何なのか……
知ってしまったから。