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Zwei  作者: マサキ
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一緒に……

『見ちゃったの……救護室に2人でいた時の事……』

「え……?」

「名前呼びながら抱き合ってたでしょっっ!!」

ここまで聞いて、やっと分かった。

彼女があの時の出来事を見ていたという事に……

今更……だ。

「それは……」

「それは?」

口に出してみたものの“実は捺樹って名前はワタシの兄のもので、アイツの本当の名前は宮藤深舩という”なんて、どう考えたって言えるわけもない。

というか、言ったって信じてもらえるわけがない。

そう考えると言葉に詰まってしまう。

「抱き合ってたでしょ?」………っ

「……うん。」

今は、ただただ頷く事しか出来ない。

「好きなの?」

色んな葛藤があった。

“宮藤を好き”という言葉に異常に反応してしまっている胸がワタシに本当の気持ちを気づかせようとしている。

「違う。……それ、だけは」

無理矢理気持ちを押し込めたからか、言葉が不自然に途切れてしまった。

そんな口調だったから、相手の反応が気になった。

「捺樹クンは?真崎サンが好きなの?」

その言葉を聞いて、さっき起きたばかりの出来事の一部始終が頭に浮かぶ。


『俺が望月チャンを好き、て事?』


こんな事……

「知らない。」

「どうして?」

「関係ないからだってば」

「どうして?」

質問の意味が分からない。「どうして関係ないって言葉で捺樹クンから逃げようとしてるの?

………っ!!!!

「何、それ……」

「その通りでしょ?」

「だからっ、何がっ!!」

思わず、力が籠る。

「まるで、関係ないって自分に言い聞かせて捺樹クンの存在を消そうとしてるみたいに見えるっ本当は、アタシが捺樹クンって言う度に波打ってるくせにっ!!!!」

「思ってないっ!!」

「好きなんでしょ!?」

「違うっ!!」

「嘘、言わないでよっ!!」「アナタに何が分かるのっ!?」

「ならっ……」

彼女の声が、急に落ち着きを取り戻したように静かになった。

「なら……捺樹クン、アタシに頂戴よ……」

彼女の声が微かに震えているのが分かった。

きっと……悩んで、悩んで、悩んだ結果に言ったのか……

それとも、初めからなのか……

苦しそうで、辛そうで、同情さえ芽生えた。

……のかもしれない。

あげる、あげないなんて簡単に言えない。

宮藤は、ワタシのものじゃないんだから……

もし、言うとしても“あげる”って言うに決まってる。

なのに……バカ。

「嫌……」

無意識だった。

独占欲が……独占欲だけがワタシを支配していた。


「………っ!!!!!!!!」

パンッッ


しばらく、何が起こったのか分からなかった。

数秒後、ワタシの右頬にヒリヒリとした痛みが走った。

あぁ……

「ズルいよ……、そんなの」

何も言えない。

「ねぇ?」

あぁ……

「何で、捺樹クンなの?他の人じゃダメだったの?」

答えなんて、分かっていたけど。

「アナタと同じだと思う……」

戻れない。

「アタシ、結構捺樹クンと仲良かったの……学校で会えばいつでも話してたし、いつでも笑ってた。……アタシにもチャンスとか、あるんじゃないかなって。」

矛盾してる。

なら、ワタシにこんな事言わなくたっていいのに……

「じゃあ、何でワタシに……?」

「………」

沈黙の中、彼女の言葉を待った。

「いつも話をするのは、ワタシ。捺樹クンは、ただ聞くだけ。」

「それでも、いいじゃん……」

「でもっ、たまに話してくれたりした。その時の話題は、必ず真崎サンの事で……」

何……?

「真崎サンは、何処に行った

何が好きなのか、とか

何が嫌いなのか、とか

笑うのか、とか

怒るのか、とか

友達いるのか、とか

全部、全部、全部……真崎サンの事ばっか」

そんなの……

「ねぇ?捺樹クン、頂戴よ」

ごめんね……

「それは、捺樹自身が決める事だから……」

また、宮藤の事利用してごめんね……

「どーして……?

また、捺樹クンの事利用して逃げてっ!!……最低っ」本当だ……

ただ、利用してるだけ。

最低だ……

でも……


パンッッ


ワタシがやられたように彼女の同じ場所へ

「お互い様。」

私は、この生き方しか知らないから

「……っ」

彼女は、泣きそうな顔をしていたかもしれない。

泣いてしまっていたのかもしれない……。


彼女を見る事は、出来なかった。

もう日が落ちて、薄暗くなった。

カビ臭い路地裏のアスファルトにヒールの駆けていく音がした。

ワタシの頭に響いた。

だんだん遠くなっていくその音に、下を向いていたワタシは、どんな顔をしたらいいのか分からなかった。

追いかけない。

相手を見ない。

何も言えない。

何も言わない。

……何も言ってはいけない。


『最低っ』

彼女のその言葉が、私の胸に突き刺さった。

分かっていたから……

本当は全部……分かっていた。


本当に……

ワタシは、卑怯だ。

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