勘違いと空回り
彼女の名前は、長谷川つぐみ
同じクラスの委員長。
週に4回、学校の近くにある『リユーウ』という喫茶店でアルバイトをしている。
と、今本人に聞いた。
クラスの人には興味ないから、もちろん彼女の事も
「そーいえば……噂、凄いね。」
やっぱり、信じてる人が大半なんだ。
「信じてるの?」
「何で?」
何で、って……
「皆、信じてるじゃん」
「本当じゃないの?」
迷った。
この人に“あんな噂は全部嘘”だと言ってしまえばいいのに……
ワタシの中では、あんな噂が流れた事にもうっすらと喜びを感じている。
だから……
「ご想像にお任せします。」
言わなかった。
「じゃあ、信じない。」
「そう。」
「……友達にならない?」
「………」
さっきから話題が飛び飛びで何を言っているのか分からない。
「なろーよっ」
「……どうして?」
彼女と友達になる理由……
「週4回もバイトだと、友達とか全然居なくてさぁー」
これだけ明るい性格なら友達が100人いても不思議じゃないのに。
……意外。
でも、
「ワタシじゃなくてもいいでしょ、他の人に言いなよ。」
関係ない。
「友達になってくれるの!?」
「違う。」
今のをどーやったら肯定と受け止める事が出来るのだろうか……
1つ分かったのは、この『長谷川つぐみ』という女は、スーパーポジティブシンキング。
「何でーーー!!」
「人と関わりたくない。」「……嘘つき」
「え?」
ポツリと何かを呟いた彼女の声は、ワタシの耳には届かなかった。
「ねぇ、好きな人とかいないの?」
また、話題が変更。
「いない。」
「気になる人とかは?」
「いない。」
「本当?」
「だからっ、人と関わりたくないんだってばっ!!」
しつこい……
「本当に?」
あまりにしつこ過ぎる。
彼女のスーパーポジティブシンキングを考えてもここまでしつこく言われると、正直イライラする。
「どうして、そんなにしつこく聞くの?」
「え……」
「そーゆーとこだと思うよ?友達いない理由。」
「あ…」
下を向いてしまっている顔にうっすらと涙が浮かんでいるのが分かった。
……面倒くさ。
言いすぎてしまったか、と後悔しそうになったけどこの気持ちの方が上回ってしまった。
「泣かないでよ……」
「……だ、って」
「理由があるなら話せば?そんな事で怯んでないで」
「………」
何も言わない。ただ、鼻を啜る音だけが聞こえて……後は、沈黙。
でも、その音は息を整えている事が分かる。
「何?」
次の言葉を催促すると、迷い混じりで答えた。
「……に、なって……それ、で………」
殆ど聞き取れなかった。
「何、も1回言って」
今度は、ちゃんと聞き取る事が出来た。
油断していたワタシは、思わず目を瞑ってしまった。それに返事はしない。
「真崎クンが好きなの?」
「全然。」
「えっ」
何に驚いたのか、笹野サンは間抜けな声をあげた。
「でも、一緒に……」
笹野サンが不思議そうにしているのが面白かった。
本当の事を言うべきなのだと分かってはいた。
でも……
「そうだよ?」
彼女に嘘をついた。
「好きじゃないのに……」
「じゃないよ?」
沈黙があった。
口を開いたのは、笹野サン
「……真崎クン、下さい。」
「は?」
「どうして気づいてあげないんですかっ?」
いきなり怒鳴られて驚くというよりかは、不思議という単語が頭をグルグル回る。
「真崎クンの気持ちっ」
「何、それ。」
「真崎サンが、好きなのに……」
さっきまで起きていた出来事がフラッシュバックして、彼女に顔が見えないように下を向いた。
「それ、嘘だよ。」
「嘘じゃありません。」
「嘘。」
「言ってましたもん。」
「………」
「望月チャンには、ずっとツライ思いとかさせちゃったけど俺は傍にいるんだっ、て。」
ワタシには、言わない言葉も思いもこの人には言えてしまうんだと胸の奥で疼いている感情を見つけた。
「ワタシには、関係ない。」
本当に。
「真崎サンは、ワガママですっ」
「で?」
「真崎クンを下さいっ」
同じ事を繰り返す彼女に苛立ちを覚えてつい言い返してしまった。
「何?それで?
勘違いしてんじゃない?」
「何を、ですか」
「ワタシは、貴方みたいに真崎クンに何か言われた訳じゃないし、」
「あ……」
「それに下さい、下さいってそれを決めるのはワタシじゃなくて真崎クンだからっ」
「………」
「真崎クンに言ったら?
ワタシのものになって下さいって、ね。」
「そんなのっ」
「結局、自分の事しか考えてないのは貴方でしょ?」
次を冷静に判断できた。
笹野サンが、顔を真っ赤にして腕を振りかぶっているのを……
「……っ!!」
「………っ」
数秒後、
頬に痛みがはしるのが分かった。
ワタシは、どんな顔をしていたのだろうか。
彼女は、自分のした行為に酷く罪悪感をもってしまったんだろう。
走って行ってしまった。
『口実……』
「こっちは、既成事実だよ……」
ワタシは、まだ気づけない。
あの時、胸の奥で疼いていた感情が
『嫉妬』
という醜い感情だと。