温もり
まだ、握られたままの右手首だけがワタシ達をココに引き戻す。
「望月チャン?」
「………」
「無視?今告白したつもりなんだけどなぁー」
告白?
宮藤深舩が?
ワタシに?
ない、ない、ないっ
「ないっ」
宮藤の手にワタシの右手首が握られてるのを見て、胸が1度ドクンとなったのが分かって手をほどこうとする。
……ほどけない。
「何が?俺が望月チャンを好き、て事?それとも……俺、振られた?」
ほどこうと緩めた手をもう1度宮藤が強める。
「どっちもっ」
ほどけない。……バカ力っ
「離してよっ」
「何で?」
「バカじゃないの?」
「元々。」
殴ったって良かった。
正当防衛とか適当な事言ってしまえば良かったのに。
「……」
宮藤の顔がいつもより真剣に見えてしまって……
抵抗出来ない。
「キスして、い?」
「はっ?そーゆーつもりないか……っ」
口を手で塞がれて、言葉を発する事ができない。
「俺は、そーゆーつもり。」
力ずくで退かす。
「ないからっ」
「何で?」
「何でもっ!!」
何を言うのかと、何故自分を攻めるのかと、
「俺が捺樹を殺したから?」
心の底から思った。
「な、に……?」
「そうだろ?」
さっきとは、まるで違うように胸が1度鳴った。
「本当……?」
「………」
何も言わなかった。
でも、何も言わないという事それは肯定になってしまうから…。
宮藤の口からこんなハッキリと聞くなんて思ってもいなかった。
少し……ほんの少しだけ、違うという可能性を願った。
「でも、望月チャンを好きなのも本当。」
あぁ……
確信してしまった。
『でも』『なのも』なんて質問を肯定してるからこそ出た言葉だ。
「そう……」
今だけは、怒りが憎しみじゃなく……悲しみや痛みがワタシを襲った。
真実に落胆している。
「望月チャン?」
「離して……」
「俺、本当に望月チャンが……っ」
「離してっ!!」
もう振り回さないで……
「……」
「……」
何に対して苛ついているのか、何がそんなに気に入らないのか、分かっていた。
分かりたくもなかったけど……
「分かった。」
宮藤の手で握られていた右手首が開放的で風を受けて冷たく感じた。
「………」
離された手は、制服のポケットの中へと消した。
どこへ行く訳でもない。
ワタシは、目的も無いまま歩き出した。
路地を抜ける。
カビ臭くて、今のワタシには1番お似合いの場所に思えた。
ふと、ポケットにしまわれた手を出す。
まだ、少しだけ宮藤の手の感触が残っている。
知りたかったはずの真実が、ワタシに重くのし掛かる。
悔しい……
知りたくなかったと思っているなんて。
さっきまで宮藤に握られていた右手首を自分の左手でなぞってみる。
ワタシは……
「真崎サン……?」
同じクラスの彼女に話しかけられたのは、カビ臭いこの路地裏が初めてだった。