情ーココロー
なんだか、急展開……
急に歌とか挟んできちゃってさ。
話が完結したら、歌詞とか作って載せます。
…………多分
さっきから全身の震えが止まらない。
足が思うように進んでくれない……
このままのペースで歩いていたら完全に授業開始のチャイムに教室にいることは不可能だ。
そう考えると、このまま救護室で休むかそのままバッくれてしまうか……
でも、クラスの中で目立つわけにはいかない……
今まで築き上げてきたものが、こんな何でもない日の何でもない行動によって壊されるなんて冗談じゃない。
人殺しだの、
化物だの、
散々言われてきたのが最近になってやっとおさまってきたっていうのに
捺樹は、被害者だ。
なのに、世間はそんなことには構ってくれない。
加害者なら、人殺しじゃねーか……と。
被害者なら、被害者ぶってんじゃねーよ……と。
どちらにしても罵倒される世の中でしかない。
そう思うと、捺樹を優先してしまう。
自分の意思とは別に、捺樹がどう思われてしまうかで判断してしまう。
そう、なると
ちゃんと、授業には出ないとな……
チャイムが鳴る前に教室へ席に着こう。
という、考えに到達する。
壁伝いに歩きトイレから出て目的地に向かう為、右に曲がろうとした時……
「吐いちゃったの?」
!?!?
……宮藤、深舩……
いや、ここでは……真崎捺樹か
忌々しい。
この男が一番捺樹のことを語ってはいけないはずなのに……
「吐いちゃったの?」
2回も同じことを言われなくても質問の意味くらいは、分かってる。
ただ、
弱ってるところに登場されても刃向かう元気がない。
全身が震えて、壁からは手を離せない状態だ。
でも、憎まれ口だけは叩くことが出来た。
「何、覗いたの?」
「やだなー、違うよー」
いちいち語尾を伸ばすなと注意してやりたい。
自分で自分が弱ってると分かってる今、ほんの小さなものにも引っ掛かりを覚えてしまう。
「辛そうな顔して教室飛び出してったからー、心配で……ね?」
何が、ね?だ。
ワタシは、信じない。
「本当の目的は?」
「嫌だなー、本当だって。」
信じられる訳がない……
ワタシは、そうやって貴方を完全に信じていて……大切な人を奪われ裏切られたんだから。
「まぁ、何でもいい……」
「顔色悪いよ?もしかして、そのまま授業出ようとしてるとか?」
ワタシと宮……捺樹は、20cm以上の身長差がある。
それのせいもあるのだろう。
お見通しみたいな涼しげな、それでいて本当に心配しているような顔で覗き込んでくる。
………ムカツク
「悪い?」
「悪いよっ、折角の新学期なのにー心弾む、出会いの季節なのにさーっ」
「貴方には、何の関係も無い……」
折角の新学期……?
心弾む、出会いの季節……?
そのワタシの平和を壊したのは何処の誰……!!
距離をとりたい
関係無いという言葉の語尾を強めて言い放った。
「関係あるよっ」
「何の、関係が?」
「………………っ」
困ってしまって言葉を詰まらせた相手を見て、優越感に浸ることが出来た。
意地悪をする……まるで、小さい子供のように。
「ワタシと貴方に何の関係があるの?捺樹が貴方の親友だったから?捺樹がここにいないから?捺樹が………っ」
ボーとして上手く頭が回らない……
舌が回らなくて……
「望月チャン……?」
「名前を……呼ばないで………」
「望月チャン……?」
「貴方がワタシの名前を呼ばないで……よ」
足が据わらない……
力が抜けて……
あ……倒れるっ
…………
歌が聞こえる……。
懐かしい、あの歌がワタシのすぐそばで聞こえる。
誰が歌ってるんだろう。
……もしかして、捺樹?
目を開けて、確認しなきゃ
「……捺樹?」
違う。
居たのは、宮藤深舩だった。
「あっ、目覚めた?気分はどう?まだ少ししか寝てないからもうちょっと寝てた方がイイと思うけどなー」
目の前に宮藤がいるのなんてどーだってよかった、
そこにいるのが捺樹じゃなかった事にショックだった。
「違った。」
「何が?」
「………………」
答える気力なんて無い。
何を思ったのか宮藤はアタフタした後、話題を変えた。
「そ、いえば……先生が言ってたよっ
栄養失調、睡眠不足、おまけにストレス性胃炎の疑いもあるって!!
どんな生活送ってんの!!」
その時、脳裏に捺樹との生活が過った。
『ほら、早く寝ないと』
『よく噛んで食べるんだよ?』
『怪我したのか?』
『遅刻しちゃうって』
言い方は、少しキツめだった宮藤の言葉・声・表情
それは捺樹の言葉と重なった……
「捺樹……」
「…………望月チャンが寝てるの見て、思い出したんだ。」
「…………」
「♪:~~~~」
……!?!?
「……紗那?」
「そ。捺樹が作った歌。」
捺樹が、お兄ちゃんがいつもワタシに聞かせてくれたあの歌がここにもまだ生きていた。
お兄ちゃんは、まだ生き続けている。
『望月』
救護室の窓から風が吹き抜けて、それに乗って捺樹がワタシを呼ぶ声が聞こえた気がした。
その瞬間、ワタシの中で何かが弾けとんだ。
ストッパーが外れ、今までどんな事があっても流した事なんてなかった……
捺樹を無くした痛みより深い衝撃なんて無かったから。
流したことのない、涙
「……な、つきぃぃ」
ワタシは、捺樹の名前を呼びながら頬に流れる涙を感じた。
「望月チャン……」
「なつ、……っ」
何が起きたのか分からない。
分かろうともしなかった。
宮藤の腕の中にいるワタシの身体。
宮藤の袖をキュと掴む……
その度に宮藤は、ギュとワタシの身体を抱き寄せた。
その時、思った。
この人は……
宮藤深舩は、何故ここまでワタシに気を遣ってくれるのだろうか。
憎むべき相手なのに……
恨むべき相手なのに……
情ーココローのどこかで、この人をもう1度信じてもいいんじゃないかと……
情が、
迷いがうまれてしまった。