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自称不良と霊媒美少女



奥さん奥さん、キーパーソンの二人が登場するんですって。


午前9時35分―――






舞台 屋上―――












「アンタは何か悪い霊に憑かれてるわ!!」


それは、突然の出来事。俺は、初対面の女に面と向かってそう言われてしまった。



俺の名前は笠松かさまつ しょう

自分で言うのも何なのだが、結構名の通った不良だったりする。

簡潔に説明すると、今俺はつまらん授業をサボって屋上に来ている。


そんで、俺の幸せの結晶“ニコチン”を涼しい風に吹かれながら摂取しているところだった。


某火の魔導師ステ〇ルさんの偉大なるお言葉には、こんなモノがある。



“ニコチンの無い世界は、ただの地獄だ”と。



本当にそう思う。

俺だってニコチンが存在しない世界なんて、考えられない。

考えたくもない。


もしそんな世界があるなら、真っ先に大統領か総理大臣か知らんが、とにかくお偉いさんを暗殺して代わりに俺が就任。

20XX年、その勢いで“ニコチン大国”を築き上げてやろう。




……おい、本気にするなよ。

言葉のアヤだ、これは。俺はそこまでニコチン激ラブのアヤシい頓珍漢ではない。

まあ中毒ではあるがな。


……とまあ、そんなこんなで無駄な知識を授業で詰め込むよりも、寮で教科書読みふけってた方が点数取れる(そう思ってんのは俺だけか?)。


というワケで、残りの約5時間いつも通りに屋上でサボる事にした名の通った不良、俺。


いつだって俺みたいなならず者を優しく迎えてくれる屋上。

文句も何も言わずに、こんな荒みきった俺に心地良い風を提供してくれる屋上。



ああ屋上。

あなたはどうして屋上なの?

とある有名な寸劇を出来損ないの脳味噌の中で思い描いていたその時。


孤高のウルフを強調させる屋上でただ1人のこの俺の前に、ソイツは立ちはだかった。


そんで、煙草をふかす俺の顔に指を差して、高らかに宣言。




「アンタは何か悪い霊に憑かれてるわ!!」


風でスカートが捲れ上がり、水色のパンツを丸見えにした女が、仁王立ちで自信満々にそう叫んだ。








…………………。


いえーい、変なフラグ立てちゃったぜコノヤロー。

出来れば一生関わりたくないタイプの人間にルート直行だなー、と俺の中で激しく茫然認識後悔葛藤の四段流れ作業。


そんなイタい子オーラ200%醸し出しているソイツの顔をチラッと見てみる。



率直な感想は、かなり可愛い。


童顔?

まあ少なくとも高校生には見えねえな。

ちょっとやらしく言えばロリ顔ってとこか。



頭にはベレー帽を巨大化させたような、デッカい薄ピンク色の帽子。


髪は、さっきからずっと風でスカートが捲れて全開になっている水色と同じ色。


でも髪はどっちかっつーと、ちょっと薄い水色だな。

んで多分かなりロング。

横で二つ縛り(つまりツインテールだな)にしてんのに、腰の高さまで届いてるし。



そんで気になる格好は、月浜学園の制服完全無視。

どこの高校のヤツ、それ?

と思わず尋ねてしまいたくなるほど奇抜なデザインの制服。

チェック柄のミニスカに付いているデッカいウサギのアップリケが、やたらと俺の目を引く。




俺のEYESから予測した結果、上から75・53・74ってとこか。


ふむ、典型的な日本のロリ女子高生の体型だと考えられる。

背もかなり低いので、いわゆる幼児体型。



総合評価。

順々に、A・B・B・C・Z。

よって総合得点、27。



コイツは27点の女。

残念ながら不合格だな。

パンツ内申入れたとしても、せーぜー57点が限度。

幼児体型にはかなり厳しい孤高のロンリーウルフ、俺。




……と言うわけで、俺のささやかな休憩時間を邪魔をするこの貧乳女からサッサとおさらばしたかったのだが、その前に色々知っておきたい事があるのに気付いた。

仕方ないから、コイツの悪くはない顔に免じてとりあえず質問してやる。



「……お前誰よ?」


俺がそう言うと、水色パンツ女は、『よくぞ聞いてくれたわね!!』という具合に薄い胸を張って、こう答えた。



「よくぞ聞いてくれたわね!!」


ホントに言いやがった。


「私の名前は黄桜きざくら 水色みしき! 趣味で霊媒師をやっているわ!」



霊媒師は趣味で許される範疇の仕事では決してないだろう。


どうしてこんなに大声で自信満々に言えるのか、いっぺんキャトルシュミレートして脳の作り調べてやろうかこの変態女。


俺のコイツに対する怪しさ指数が10アップ。

あと30アップしたら、警察を呼ぶor屋上から突き落としてやろう。



……てか変わった名前だな。

ミシキ……美識?

いや、実色?


まあどうでもいいわ。




――でも“黄桜”は聞き覚えがある。

何故だ?

なんかどこかで聞いた名前のような気が………

あー、全然思い出せん。 クソ、俺記憶力乏しいかもしれん……。


明日病院にでも行って見て貰おーっと。


……あれ?

明日病院どこ空いてたっけ。確か石黒病院は空いてたハズ。

小林病院も確か―――

「………………ぉ−ぃ、…………………ぉ−い。…………おーい!!」



「ああ?」


何やらとても川井らし…………いや、可愛らしい声が聞こえて来た。

どうやら無視されてると思って、必死に呼び続けていたらしい。

俺の目の前には、若干瞳が潤んでいる少女がいる。



「なんで無視するのよ!! 絶対聞こえてるでしょ……………グス、うう………」





……あ、あれ?

マジで泣いてんの?

意外と涙もろいという事を知ってちょいと驚愕。

黄桜は少し困った俺の顔を見上げ、小さく咳をした。


「……………こ、コホン。と・に・か・く、アンタに取り憑いてる幽霊、私が祓ってあげる。初回料は5000円でいいわよ?」



いや、金取るんかい。

世の中ナメてんだろ、このアホガキ。

そんなインチキ商売今時誰が引っかかるかっつうの。



――こういう類の馬鹿は無視して逃げるに限る。と、言うわけで早速実行に移す俺。

不言実行とは正にこの事。

ちっ、せっかく屋上を独り占め出来ると思ったのによ。

ホント面倒くせ……。



俺が無言でのそりと立ち上がり、背を向けて歩き出すと、

「ちょ…ちょっと待ってよ! 待ってってば!!

ホント待ってよ!!

………あああ! 待ってって言ってるじゃないの―――――――っ!!!」



ダダダダダダダダ!!!

という突進音が後ろから聞こえて来る。



……あん?

何だこの音。

なんか妙に俺の近くに迫って来てるんですけどちょっとヤバくね? そろそろ俺にぶつかるんじゃね?

この音の正体は一体なにぶべらっ。




「……よーし捕まえた!! 逃げるなんて卑怯よ!

いいから私に除霊させなさい、この不良!!」



水色パンツ女は俺に馬乗りになって、そんな戯れ言をほざきやがる。



……除霊?

冗談じゃねえ。

霊よりも真っ先に取り除くべきは、お前という存在だろうが黄桜 ミシキちゃんよォ。


「どけ」



「あうっ」


俺は乱暴に黄桜をどかした。

てか払いのけた。


こんな幼児体型がいくつ襲いかかってこようと、俺の力は止められねー。そうやってアホみたいに自分の力量に心酔していると、俺にどかされた哀れな女が、涙目でこっちを見て来ている。



……涙もろいヤツだなぁ、オイ。




「うぅ………お願いだってばぁ…………ぷりーずみーシゴトー。初回料は1000円に減らすからぁ………させてくれたら“何でも”言うこと聞いてあげるからぁ……………」




……ほう。

興味深い条件を出して来たな。

初回料が5分の1になった事?

いやいや、そんな小せえ条件なんかじゃねえ。





――“何でも言うことを聞く”と。

言ったぞ?

コイツは今そう言った。その言葉、後から後悔すんなよ黄桜ミシキちゃんよォ。





――俺はぐいっと黄桜の小さな顎を上げ、俺の顔に近付けた。


「えっ……?」



黄桜はいきなりの事態にどう対処すべきか判断が追い付かず、驚きの声を上げた。

黄桜の色素の薄い白い肌が、段々赤く染まっていく。

顔が近いせいか、生温い吐息が俺の顔にかかる。


「ばっ……ちょ、ちょっと………!!

アンタ、一体何する気っ…………んっ」


黄桜は頬を真っ赤に紅潮させながら、じたばたと暴れ出す。

よっぽど動揺していると見た。


しかし、小さな反抗。

男の俺の力に適う訳もなく。

今にもキス出来てしまいそうな程黄桜の顔を俺の顔に近付けた後、俺は静かに口を開いた。



「“何でも”………言うこと聞くんだったよなァ」


グッ!! と手に力が入る。少し強くし過ぎたのか、黄桜は目を閉じながら小さく「あっ…」と悲鳴を漏らした。


俺は苦しそうに吐息を荒げる黄桜に、追い討ちをかける。



「……お前は“何でも”っつった。

ならばキスしたって文句はねぇよなぁ。どうなんだよ、霊媒師さん?」



俺は自分でも引くぐらい悪役なセリフを、真顔で言ってのけた。

しかし、すぐに黄桜は反抗的な目で俺を睨みつけて、こう言った。



「……ええ、そうよ。

でも願いを聞くのは、私がアンタを除霊した後。今じゃないんだから……」



分かったら早く離してよ、という具合に、生意気にも俺を睨み続ける黄桜。


コイツの目……………………ああ、俺の大っ嫌いな目だ。

正義感に満ち溢れた、真っ直ぐに悪を見つめるような、お前の考えなど既にお見通しだと言っているかのような…………プライドの高さを主張させる、そんな目。


俺は軽く舌打ちをし、黄桜を乱暴に振り払って解放した。

黄桜の小さな悲鳴と共に、俺の頭の中に薄暗い過去が侵攻して来る。












――俺は、1人が好きだ。


他人と仲良くしようと思った事なんざ、生まれてこの方一度もねぇ。



……なのに。



関わって欲しいなんて微塵にも思ってないのに、俺にはいつも人が寄ってくる。



目つきが気に入らねぇ。

態度が悪い。


生意気なんだよ。


ムシャクシャするから殴らせろ。


とにかく死ねよ。


死んじまえよ。



死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。






……昔から、ずっとそんな汚ぇ言葉ばかりを浴びせられ続けて来た。

庇ってくれるヤツなんざいなかった。

驚く程にいなかった。


その代わりに、俺の周りにはバカばっかり集まって来やがった。

人を平気で傷つけて、ヘラヘラと笑っているような、正真正銘のバカ共が、それこそホントに何かに取り憑かれているかのように、俺の周りに集まって来やがった。


俺は静かに過ごしたいだけなのに。

1人でのんびりと過ごしたいだけなのに。


何故俺の周りにはクズばっかり集まって来やがるんだ?

ソイツらを蹴散らしていく度に俺はドンドン強くなり、望んでもないのに徐々に名前も広がっていった。



……だけど、それが何だって言うんだ。

俺はこんな事をしたいんじゃない。

クズ共を何人足蹴にしたところで、俺の願いが叶うワケでもねえ。

誰かを倒せば、それより強いヤツが現れ、それを倒せばまた強いヤツが現れるという悪循環。


俺が求めているのは、そんな日常じゃねえ。



ただ、1人でいたい。

それだけなんだ。

そんな小さな願いなんだ。

プロ野球選手に成りたいだなんて大それた願いなんかじゃない。

叶えられて当然の願いのハズなんだ。




――なのに、何故叶わない?俺は一体いつになれば、1人になれるんだ。俺の願いは一体―――

「…………っと。…………………ちょっと。ねえちょっと、ねえってば。あああもう聞いてんの!? 無視しないでよぉ!!

なんか一方的に喋ってる私が馬鹿みたいじゃない!!!」





――はっ、すげえ長い間考え事してた。


どうやら俺は人の最中に考え事をしてしまう、かなり厄介な癖があるみたいだ。

まあどうせコイツの話は8割方どうでもいい話だろうし、あんまり気にかける必要は無いな。


残り2割も、ホントに大切な話かどうか危ういぐらいだし。



「……なんか言ったか?」


俺がそう言うと、黄桜はうがぁぁぁ!! と小さな怪獣のように吠え、

「だ・か・ら!!

何度も言ってるじゃないの!

いいから、私に除霊をさせなさい!!

このままじゃアンタ、霊に飲み込まれて死んじゃうわよ!

そうなりたくないなら、この天才霊媒少女黄桜 水色に心も体もゆだねてみなさいって無視してどっか行こうとするなバカバカバカバカバカぁ―――――――――!!!」



まるで駄々をこねる子供のように腕や足をブンブン振って、黄桜はサッサとその場から立ち去ろうとする俺に向けてそう叫んだ。


「……やかましいんだよアホ。俺に構うなっつの。それとも何か?

この自称不良のロンリーウルフの俺にキスされる事を望んで、わざとしつこく自分の宣伝をしているような変態さんなのかテメエは?」



「ばっ………!!

そ、そんなワケないでしょ!? 私は親切でアンタを助けてやろうと思ってんの! 初対面のヤツにわざとキ………キキキキ、キスなんて望むほど節操が無いと思ったら大間違いよ!」


黄桜が顔を真っ赤にしながらそう言った後、俺はあくまで冷静に黄桜を睨みつけながら、静かに口を開いた。



「……その素晴らしいボランティア精神には感涙せざるを得ねぇな。

けどよ、さっきのお前の発言は失敗だな。

失敗した発言と書いて“失言”だ。

『何でも言う事を聞く』。そんな言葉、性欲を持て余した野獣どもに言ってみろ。

あっちゅー間に処女奪われてハイ性奴隷決定―、みたいな事だって有り得るんだぞ?

もちろん俺だって例外じゃねえ。……それでもテメエは俺を除霊しようってのか。あァ? どうなんだ?」



「うっ……」



黄桜は言葉を詰まらせた。


……ふん、ビビりが調子乗ってるからだ。

所詮その程度の覚悟しかないクセに、無理に強がろうとする。


結局、コイツも俺の願いの妨げ。

俺がそう心に浮かべながら見下していると、黄桜は頬を紅潮させた状態をキープさせながら、



「……確かに、アンタの言う通りだわ。

“自分が言った事には責任を持て”。

いつもお父さんが言ってた………」



「分かってんじゃねえか。テメエの糞親父」



「……でも。でもっ!!

私はホントにアンタを助けたいと思って!!

道楽なんかじゃない……………いやちょっと道楽かもしんないけど。

でも、心からアンタを助けてあげたくてっ―――」



黄桜の声に、熱が籠もる。

しかし、それとは対照的に、俺は冷ややかな表情と共に侮蔑の意を含んだ声で返す。




「……いらん世話だ」



「なっ………!?」



俺の口は、止まらない。

「――いらん世話だっつってんだよ、アホガキ。『確かにアンタの言う通り』? 『心から助けたい』?

……馬鹿も休み休みに言え。なんで初対面のお前が俺みたいな人間のクズを助ける?

俺とお前には、なんの接点もねぇ。

なのに、なんで助ける? ……偽善だろ?

周りから浮いた奴を見て可哀想だと思い、手を差し出す。そしてソイツを救世主が如く救い、他人から尊敬の眼差しを受け取る為の、そんな安易な行為なんだろ?」



「ち、違う!!

そんなんじゃ―――」



「……本当に人を救いたいって思うんならな。

人の意見に流されず、自分の意思表明だけをぶれない軸として、堂々とした声で喋れるハズなんだ。そんな弱っちい覚悟で生活してっから、俺の言葉の言う通りだとかふざけた事ほざくんだ」



「う………」



「さっきもキスされる事を拒んだよな?

本当に自分の言葉に責任を持ってんなら、それを拒む事は無いハズだ。

それをしたって事は…………………もう分かるよな? 分かったらサッサと俺の前から消えろ」





――俺がそう言い終えると、しばし屋上に渇いた風の音だけが響いた。

その音が、俺の聴覚のほぼ全体を支配する。



……静かだ。

本っ当に静かだ。


さあ去れ、馬鹿野郎。

そして俺を一人にさせろ。

俺は、ただただ無言で黄桜の『分かった』という返事を待つ。




しかし目の前の少女の口から聞こえてきた声は、「……やだ」









あ……?


コイツ、今『やだ』っつったか?

俺の『去れ』って言葉に、コイツは『やだ』って返したのか?


生意気にも。

糞生意気にも。

弱ぇ女一人の分際で、俺に逆らったと。

そういう事か?



――ふざけんな。


ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!

最高潮の怒りをグツグツと煮え立たせながら、俺は怒号を吐き出す。



「テメエ…………………消えろっつってんだろ!!」




――しかし黄桜は怯む事なく、怯むどころか今にも襲いかかりそうな勢いでキッ!! と鋭い眼光で俺を睨み付け、一気に言葉を紡ぐ。


「……やだって言ってんのよ!!

バッカじゃないの、アンタ!!

だからアンタの言う通りだって最初から言ってんじゃない!

確かに私には、労働という規範からは外れてて、それ相応の覚悟は足りてないかもしれないわよ。……でもね、アンタを助けたいって思ってるのは本当に嘘じゃない!!

嘘だったら、屋上で一人サボってるイタい奴なんかに声なんてかけないわよ!!」



――その激しい剣幕に圧され、俺はただただ黙り込んで聞く。


「……自分が面倒事に巻き込まれたくないからって、とりあえず結果をマイナスの方向へと移行させようとする。結果なんて、過程をクリアしてからでないと明確に分かるモノじゃないじゃない!! 終わってからなら、キスでも何でもしてやるわよ!! アンタが望む通りにやってあげる!!

……あと大体ねぇ、ぶれない軸を心構えにしろなんて事、どっかの懇切丁寧なマニュアルにでも載ってるワケ!? そんなの誰が決めたのよ!!

いい!?

“コレ”は私が私の考えで決める!!

別に他人の意見に流されたって良いじゃない。

それが私の“考え”って事なんだから!

だから、私はここから去らない!! アンタが『去れ』って言っても、私は絶っっっっ対に去ってやらない!!

…………ほら、どう!?

これでまた私の責任増えたわよ!!

アンタが『消えろ』っていっても、“自分で言った事には責任を持たなくちゃいけない”から、消えられないもん!!

アンタこそ分かった!?

分かったなら、サッサと除霊させなさい!!」



――息を荒げ、ひたすらに肩を揺らす。

大きな瞳が、更に大きく見開かれている。

そこには、完全に俺に刃向かう小動物が、犬歯を剥き出しにして立ち誇っていた。




………ああ、腹立たしい。

実に腹立たしい。

殴って殴って、殴り殺してやりたい程に。

道理に叶った言葉を僅かながら認めてしまった俺を侮蔑しつつも、コイツを腹立たしく思う。


なんか上手く丸め込まれた感が、凄く否めない。

……最悪だ。

最悪の1日だ。



――俺は、呟く。

頭を片手で抱えて、ため息混じりの声で呟く。

情けないと思いつつも、確かな言葉を紡ぐ。



「……もういい、分かった。勝手にしろ」



――認めた。

認めてしまった。

超絶面倒くさい事を、あっさりと引き受けてしまった。

あれだけ拒絶していた事を、すんなりと受け入れてしまった。


すると黄桜は俺の言葉を聞いて、さっきまでの剣幕が嘘のように、最高にポカンとした表情を見せてきた。



……ああ、殴りてぇ。

マジでムカつく。

てか、俺が腹を立てるのは仕方無いと思う。

不可抗力だ。

一人を邪魔されて、意味分からん女に除霊とか言われて、それに反抗したら逆ギレされて、物凄い剣幕で説教されて、そんで除霊を許可させられて。


俺がキレたって、何もおかしくない。

俺は、絶対悪くない。




――本当に、今日は散々だ。マジで嫌になる。

もう絶対こんな日に出会いたくない。

もし出会ったとしても、避けて通り過ぎる事請け合いだろう。






――でも。

でも、何故だろう。



口論で『負けた』のに。悔しいハズなのに。

俺の中では、“満足”という言葉がぐるぐると螺旋していた。


俺の中の俺は、『これで充分だ』とほざいてやがる。



……願いなんて跡形もなく消え去ったハズなのに。

だから、俺の感情は極限まで高ぶっているハズなのに。


何故だか、コイツの勝ち誇った笑顔を見て、少しだけ安心してしまう。



……ああ、うざってえ。だから女って生き物は嫌いなんだ。

コイツらの泣き顔や笑い顔は、いっつも俺の心をおかしな方向へと歪曲させやがる。

ホントに厄介な代物だ。俺がこの世で苦手なモノを挙げてみろと言われれば、真っ先に女の涙と言うだろうな。


……なんて、滅茶苦茶クサいセリフを考えた俺は相当な馬鹿なのかもしれない。


けれど、そんな馬鹿でもコイツが泣く顔は見たくない。

これくらいの戯言で泣かれるなんて、なんか、かなり癪だ。




――だからこそ。

だからこそなのだろうか。

コイツの笑った顔が何故か見たかったから、俺は今安心しているのだろうか。




――俺はどうしてこんな女の笑顔に満たされてやがる?


ただ思う、なんの捻りもない馬鹿げた感情。




――どうして願いを邪魔されたのに、不快感が無い?

考えれば考えるほどに、疑問は次々と湧いてくる。




――俺って、こんな難しい人間だったっけ?


ただ、自分が1人になれる方法だけを考えるような、そんな簡単な人間じゃなかったっけ?



――俺って、何なんだっけ?

そんならしくもない事を考えていると、黄桜が喜びに満ち溢れた声色でこんな事を言って来やがった。


「ふ……ふふん、良く言ったわね不良クン!

でもね、初回料はキチンと払って貰うわよ!!

……ええと、仕方無い。最初はサービス!!

1500円でいいわ!!」


増えてる増えてる。

俺の乏しい記憶力が確かなら500円ほど増加しておりますがクソバカ女。

……ってか、俺にはもう1つ聞きたい事があった。



コイツの正体なんかよりも、ずっとずっと知りたかった事。


その確かな思いを言葉に載せて……歌います、俺。(ホントは歌わない)



「お前……何で俺がここでサボってんの知ってんだよ?」





――考えてみればおかしな話だったんだ。

俺には友達とか言うモンがいねえ。

つーかそんなのいらねー。

どうせなら美人の幼なじみか姉ちゃんが欲しい。

……そこ、哀しそうな目で俺を見るな。




まあとにかくそんなロンリーウルフな俺が授業をサボってるのは知っていても、“何処でサボってるのか”を知ってるヤツは、心当たりがある中で恐らく3人ほどのハズ。

もし仮にその3人の内の誰かだとしたら、ちょっと今からソイツを半殺しにしに行かなきゃなんねぇな。



俺は黄桜の顔を見る。

文字通り、きょとんとした顔してやがる。

……ホントある種のマニアに喜ばれそうな顔してやがるな、コイツ。


すると、しばらくの間黙り込んでいた黄桜は、ようやく口を開いた。



「ええと、これは……言っても良いのかな?」



「いいから言え。

お前も半殺しにされてえか。 あァ?」



俺の顔に怒りの血管が浮き上がってるのを知ったのか、黄桜は一瞬ビクウッ!! と体を強ばらせてから、恐る恐る返事をした。



「わ…分かったわ。

でも殺しちゃダメよ?

今のアンタ、平気で人殺しそうな顔してるから……………ええと、生徒会―――」





俺はそこで、黄桜の言葉が脳に入り込むのを遮断させた。

今の言葉で、誰がここを教えたのか分かったからだ。




……殺す。

絶対に殺す。

今日こそ確実に息の根をトめてやる。

首洗って待ってろ、あのエセ洋風女め。


「ちょ、ちょっと!?

不良クン聞いてんの!?

殺しちゃダメだよ!!

なんかブツブツ呪いの呪文っぽいのを呟いてるけど、人殺しは絶対に―――――!!」




外野から何か声が聞こえるが、気にしない。


俺の意識はもうあのクソアマに向いちまってる。多分アイツもサボってるだろうから、授業中に乗り込むなんて非常識な行為をしなくて済むはずだ。


チクリには制裁を。

この言葉を大切に胸にしまいながら、俺は筋肉質な足を一歩一歩動かして行った。








そう、“生徒会室”を目指して。


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