死と生
「花咲さん、今日もいい天気ですねぇ」
「そうですねー、青空が冴えて見えます。今日は何の花を届けるんですか?」
毎週水曜日にくるおばあさんは、入院中のおじいさんにお花を毎週送っている。そのお花を一緒に選ぶのが、水曜日の私の楽しみだ。
「そうねー、なにか愛を伝えられるお花はある?」
口角をほんのりとあげて、優しい表情でそういうおばあさんの瞳には、おじいさんが写っているように見えた。
きっと、いつまでも枯れずにおじいさんへのおばあさんの愛は続いていくのだろう。そういう思いを込めた植物を、送ってもらいたい。
「…サボテンなんてどうでしょう?」
「どういう花言葉なの?」
「枯れない愛、です」
そういうと顔をパッと光らせて、「いい言葉ね」と穏やかに言い放った。
そうしておばあさんは、サボテンを一つ買ってまた来ると言い帰って行った。
「今日もいい日だな」
『花咲凛』とリンドウのお花の絵を描いた名札を胸につけ、お花に水をやる。
今日もこの街は穏やかだ。小さい子供が犬を連れて散歩していたり、サラリーマンがネクタイを緩めながら歩いている。雲も、この街の雰囲気に合わせて緩やかに流れている。
「ふー」
外に置いてある植物に水をやり終わり、室内の花たちに水をやろうとしていた時のことだった。
クラクションが響き渡っていた。反射的に音のなる方へ目を向けた。トラックのナンバープレートがすぐそこにあった。少し上を見上げると、顔を赤くして目を見開くおじさんがいた。
「あ」と声をあげようとしたが、本当にあがっていたかはわからない。
しかし気がつくと、はるか昔に告白した現場が目の前に広がっていた。そこには私と好きだった男の子がいた。そして私は気づいた。
「これ、走馬灯かぁ」
変に落ち着いていて、こちらも気味が悪くなってくる。告白は無事成功したようだ。まあ、今ではもう笑い話にもならないようなことだが。
「もしもしー?聞こえてる??」
「…え、私ですか?」
走馬灯で話しかけられることがあるのかと困惑していると、誰かわからない者が話を再開した。
「俺神なんやけど」
前置きのように話した自己紹介の内容が、少しの間理解ができなかった。
「え、神様?」
「あぁ、そっちの世界ではそうやって呼ばれてるやっけ?」
「ま、まあ」
「様かぁ、なんかええな。かっこええな!」
少年のようにキラキラさせた声をあげながら、興奮している神様の声を前に、私は未だに混乱している。
「って、ちゃうよ。今からあんたが行く世界についての説明をしに来たんや」
「今から行く世界…?」
「せや、そこにはあんたのような『人間』はおらん。でも似たようなモンはある。それに名前はついとらんが、まあ仲良くできたらええな。」
「え、え?」
今から行くらしい世界には、人間がいない?
それって、私は何になるの?
「そしてそれ以外にも、魔っつうモンがいる。あんたは今からそれになるんや。名は『ハナヤ』。まあ、なってみればわかるやろ。じゃあ、いってら」
「は、はあ?」
そして目の前に急に黒い扉が現れる。入れとでも言われているかのようにドンと待ち構えるそれのドアノブに手をかける。甲高い音を鳴らしながら開くとその先には、果てしなく続く黒い空間が広がっていた。
「本当にこの先にさっき言ってた世界ってあるんですか?」
「あるある」
神様のその言葉を背に、扉の向こうへ足を踏み出した。




