第6章
いつもどおりの放課後。
周平が鈴香の机に近寄り、小声で話し始めた。
「昨日、ロボット研究部のなつきちゃんから聞いたんだけど、神戸さんの支援があってから、部の雰囲気がガラッと変わったってさ」
当然のように女子の名前を出す周平に、颯太は茶化すように問いかけた。
「お前の情報源は、はるかちゃんじゃないのかよ!」
周平は口元に含み笑いをこらえ、颯太を軽く見返す。
「いやまあ、前回訪問したときに何人かと仲良くなったんだよ」
鈴香は周平の言葉を受けて深く息を吐いた。周平の報告から伝わるのは、加藤部長を中心に部員たちが協力し、笑顔で作業に打ち込む姿。机の上に部品や工具が散らばる中、活気ある声が飛び交い、失敗を恐れず挑戦している光景が手に取るように目に浮かんだ。
その数日前。
神戸邸の豪奢な応接室には、普段にはない緊張感が漂っていた。ソファに座った加藤と佐々木は直角に背筋を伸ばし、額に汗をにじませている。微かに震える手、呼吸の乱れ、瞳の揺らぎ――期待と不安、そして戸惑いが入り混じった表情に、鈴香は思わず口元を緩めた。
そして、鈴香の父が唐突に豪快な声を轟かせる。
「よし! 金は出そう。だが金だけじゃ足りんだろう! 人も付ける!」
場の空気を一瞬で支配するその宣言に、加藤と佐々木は思わず椅子から転げ落ちそうになっていた。二人はすぐに背筋を伸ばしたものの手は震え、目が大きく見開かれている。
鈴香は肩をすくめたものの、父の突拍子もない宣言に、幼い頃の思い出にあるのと同じ安心感を抱いた。財力を振りかざすのではなく、目標に向かって進む者を縁の下から支えるその行動に、胸の奥が温かく満たされる。
加藤は自らの強みと弱みを認識し、さらなるレベルアップを目指して、支援を受け入れる意思を固めた。神戸邸の庭に設置されたロボット工房はロボット研究部へ寄付され、部員たちが情熱を胸に再び開発に取り組む準備が整ったのだった。
――そして。
工芸高校ロボット研究部は、夏休みに開かれた地域の高校生ロボット大会で見事に優勝を果たした。会場は歓声と拍手に包まれた。観客の熱気がスタンドから波のように押し寄せている。壇上の加藤は汗ばむ手でマイクを握っていた。声は震えながらも、目は真っ直ぐ前を見据えている。部員たちは肩を組み、互いに笑顔を交わし、歓喜を分かち合った。
「僕たちのロボットは、たくさんの人の支えがあって完成しました。特に……僕の才能を信じ、可能性を信じてくれた、ある女性に感謝しています。そして、全国大会での優勝に向けて、部員全員でこれからも努力して行きます!」
学園のカフェテリアに設置されているテレビ越しにその姿を見つめていた鈴香は、静かに微笑んだ。目の奥には、満足感と探偵としての誇り、そして未来への期待が宿っていた。
「ねえ、颯太。わたしの探偵活動、まだまだ続くわよね?」
鈴香の瞳は輝き、次の挑戦を待ち望むように見開かれている。
「……知らねえよ」
颯太は素っ気なく応じたが、口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。言葉には出さなくとも、彼の心の中には鈴香への賞賛と信頼が宿っていた。
こうして、神戸鈴香の探偵活動は、鈴香自身の成長とともに、新たなステージへと進んでいくのであった。




