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富豪令嬢探偵  作者: 大神杏平
第二話 富豪令嬢探偵、試練
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第5章

一週間後。

鈴香たち四人は工芸高校のロボット研究部を訪れていた。今回で三度目の訪問だ。

部室に入ると、佐々木副部長が勢いよく駆け寄った。

「神戸さん、事件が解決する目処が立ったんですか」

期待をにじませた声。その眼差しは真っ直ぐだが、期待と不安が入り混じっていた。

鈴香は、毅然とした表情を浮かべ、首を横に振った。

「いいえ。まだ、解決には至っていません」

佐々木に依頼して部員たちを集めてもらうと、鈴香は一歩前に進んで全員を見渡し、落ち着いた声で告げた。

「残念ですが、私たちには、犯人を特定できませんでした」

その言葉に、部員たちの間に動揺が走る。佐々木の顔にもいぶかしげな表情が浮かんでいる。

鈴香は一旦深く息をついてから、視線を上げて高らかに宣言した。

「だから、わたしたちにできるのは、これだけよ」

鈴香の言葉に、周平は待ってましたとばかりに背中のリュックを下ろした。

「よっ、と……」

少し大げさに声を漏らしながら、大きな箱を取り出す。箱の中から現れたのは、壊されたものとまったく同じものに見えるロボットだった。

「え、これって……」

佐々木と部員たちは声を漏らし、驚きを隠せない。

その中で、加藤だけが一歩後ずさった。額に汗をにじませ、瞳は揺れ、呼吸も乱れている。手を伸ばそうとするが、指先が震えて途中で止まってしまう。その表情には驚きと諦めが浮かんでいるように思えた。

颯太はゆっくりとロボットに手をかけ、加藤の視線をまっすぐに捉える。

「加藤君、これは壊されたロボットと同じものだ。これを使って開発を再開してほしい」

さらに、周平がもう一つ箱を持ち上げた。

「そしてこっち。万が一に備えて予備のロボットもあるんだ。もしまた壊されても大丈夫!」

続けて差し出された二台目に、部員たちはどよめいた。

加藤は唇を噛み、目を伏せた。

その仕草に、鈴香は、思考の混乱と激しい葛藤を感じ取った。

机の上に置かれた加藤の手は微かに震え、止まったままだ。

やがて加藤は、震える声でつぶやいた。

「……僕が……やりました……」

震えるような声の告白が響いた瞬間、部室の空気が一気に凍りついた。罪悪感に押しつぶされたように加藤は床に膝をついた。

「そうなんです……僕には、ニュースに取り上げられるような才能はないんです。周りの期待に応えられず、ロボットの開発は思うように進まない……。完成のめどが立たないのに、誰にも言えずにいました。だから、完成できなかったのは壊されたからだと……言い訳にしたかったんです……」

加藤の震える声は部室の空気をも震わせたようだった。その肩は小刻みに揺れ、目には涙が光る。

鈴香はその告白に静かに耳を傾ける。探偵としての使命を果たした安堵と同時に、加藤の抱えていた重圧と孤独を目の当たりにし、胸の奥に複雑な感情が広がった。才能と周囲の期待の狭間での苦悩が、文字どおり体からあふれ出ていた。

綾音は一歩前に進み、加藤を見つめてUSBメモリを差し出した。

「正直にお話しくださって、ありがとうございます。ここに、ロボットの解析結果と改善ポイントを記したデータが入っていますので、よろしければ参考になさってください」

その声音は包み込むような響きを持っていた。

佐々木の顔には信じられないという表情が浮かんでいたが、やがて静かに息を吐き、USBメモリを受け取って深く頭を下げた。

「加藤、すまない。君にばかり開発を任せっきりにしていた。僕たちは、君の苦しみに気づいてやれなかった」

その言葉に続くように、他の部員たちも一斉に頭を下げ、心からの謝罪を口にした。

「みんな……」

加藤の声はかすれていたが、さっきまでとは違った明るさを含んでいた。これまで抱えてきた孤独が、少しずつ和らいでいくのが分かった。

「そうだ! これからはみんなで協力すればいいんだ! 神戸さんたちが持ってきてくれたこのロボットとデータを使って、全員でやり直そう!」

周平の激励に佐々木もうなずき、声を張った。

「二度と加藤に『才能がない』なんて言わせないようにしよう!」

その言葉に、部員たちは力強くうなずいた。

緊張の解けた笑顔が部室に広がり、加藤の瞳にも明るい光が戻ったように見えた。


そのとき――どこからともなくファンファーレのような音が鳴り響き、部室の扉が勢いよく開いた。まばゆいエメラルドグリーンのスーツを着た男が、まるでレッドカーペットの上を歩くかのように現れた。

スーツの袖口には金糸の刺繍が施され、胸ポケットには赤い薔薇が誇らしげに咲いている。

「私の可愛い娘の探偵活動に、金の力が必要だそうじゃないか!」

神戸グループ会長にして、鈴香の父である。彼は満足げに頷きながら、堂々と娘の隣に並び立った。

「鈴香、今回はまた違った手法で事件を解決するとは、お前がさらに成長した証だ! 父として、これからも君が興味を持ったことは、最大限に支援しようではないか! 自宅の庭にロボットの専用工房を作っておくから存分にロボット開発を楽しむがよい!」

突然の見知らぬ男の登場に、ロボット研究会のメンバーは、驚きで声が出ないようだった。

鈴香はその男に向けて声を張り上げた。

「うるさいわね! わたしの探偵活動の邪魔をしないで!」

「おや、ご機嫌斜めのようだな。探偵助手がロボットで、AIで推理してくれるというのも素敵だろう?」

その男は、鈴香の拒絶反応を見越したように微笑んだ。

「ロボットの助手なんていらない! わたしは自分で推理して事件を解決したいの!」

颯太はため息交じりに苦笑する。

「ほんと、この父娘はいつもコントみたいだな」


事件は解決した。

しかし、鈴香の胸に広がるのは、ただの達成感ではなかった。前回の事件で得た興奮や満足とは異なる、静かで力強い感情――それは、「金の力」とは、ただ高額なものを買うための道具でも、権威を誇示するための武器でもない。

――人の心を救い、未来を創り出すためにこそ、使う価値のある力なのだ、と深く理解した瞬間だった。


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