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第八話 謎の装置

 やがて三人は、小川を越え、根が絡み合った坂を登り、深い森の切れ目に出た。そこには、まるで古代の神殿を思わせる石造りの遺跡が静かに佇んでいた。

 苔むした石柱が幾重にも並び、崩れかけたアーチの上には蔦が垂れ下がっている。だが、不思議なことにその一つひとつが今なお形を保ち、時間の侵食を拒んでいるかのようだった。


「……すげぇ……」

 楽助が息を呑む。柱や壁面には複雑な文様が刻まれ、ところどころに埋め込まれた結晶が淡い光を放っていた。静かに、しかし確かに「生きている」ような、奇妙な気配を漂わせている。


「この世界の……昔の文明の跡、なのか?」

「わからない。でも、私……ここに来たことがある気がする……」

 リオンが呟く。胸の奥で何かが疼き、遠い記憶が触れそうで触れられない。説明できない既視感が、彼女をそっと引き寄せていた。


「中に……何かあるのか?」

「たぶん……私たちが探してるものが」

 貴彦は短く息を吐き、気を引き締めるように頷いた。

「よし、慎重に行くぞ。何が待っているかわからない」



 遺跡の内部は薄暗く、しかし壁面の結晶がほのかな光を灯していた。天井から滴り落ちる水滴の音が、無人の空間に反響する。進むにつれ、床や壁に描かれた文様が脈打つように明滅し始めた。

「……生きてる、みたいだな」

「生きてる?」

 楽助の呟きに、貴彦は苦笑した。

「いや……そんなわけないだろ。けど……そうとしか思えない」


 リオンは黙ったまま、指先で壁の文様に触れようとした。しかし結晶の光が一瞬強まり、彼女の指が届く直前にふっと消える。まるで「まだ早い」と告げるように。


 最奥の広間は、円形の石床が中心にあり、その中央には複雑な装置のようなものが鎮座していた。金属でも石でもない、見たことのない材質で作られている。淡い青白い光が脈動し、まるで心臓の鼓動のように響いていた。


「……これが……」

「でも……何なんだ、これ?」

 楽助が近づこうとした瞬間、床に刻まれた文様が一斉に光を放った。まるで彼らを歓迎するかのように、しかし同時に警告を発するかのようにも見えた。



 広間の中央に鎮座する装置の前で、三人はしばし言葉を失っていた。青白い光が脈動するたびに、空気が震え、胸の奥に微かな響きが伝わってくる。


 それは鼓動に似て、心臓の音に呼応しているようでもあった。


「……これ、どう見ても……何かの装置だよな」

 楽助が口を開いた。声はかすれ、ほんのわずかに震えている。


「SF映画に出てくるテレポーター……ってやつか?」

「映画なんかより……ずっと、現実的に見えるぜ」


 貴彦は慎重に装置を観察した。

「でも……どうやって動かすんだ? ボタンもレバーもない」

 リオンは静かに装置へ歩み寄った。指先が届きそうな距離で立ち止まり、深く息を吸う。


「……触れば……わかる気がする」

「おい、本気かよ!」楽助が思わず叫ぶ。

「いきなりそんなことしたら……どうなるかわかんねーだろ!」


「でも……他に方法がない。ここまで導かれてきたのは……たぶん、この装置のため」

 リオンは振り向かずに言った。

「それに……私、思い出しそうなの。何か……すごく大切なことを」


 貴彦は少しの間黙っていたが、やがて小さく頷いた。

「……わかった。やろう。だが……俺たちも一緒だ」

「え?」

「お前一人を危険にさらせない。……三人でやるんだ」

 楽助は大きく息をつき、肩をすくめた。

「はぁ……こうなったら、付き合うしかねーな。……なんかワクワクしてきたし」


 三人は装置の周囲に並び、手をかざした。脈動する光が強まり、広間全体が低く唸る。

 床の文様が鮮やかに輝き、幾何学模様が立体的に浮かび上がった。


「うわっ……!」

「光が……浮いてる……!」

 三人の手先が、目に見えない膜に触れた瞬間――

 装置は突然、深い音を響かせた。


 それは鐘の音にも似て、宇宙船の起動音にも似ていた。そして――光が弾けた。

 広間の床が一瞬、宙に浮いたかのように揺らぎ、視界全体が白く染まる。


 風が吹き抜けるような感覚、身体が粒子になり、空間に溶けていく感覚。

「……ッ……!」


 声を上げようとしても、口が動かない。いや、口そのものが存在しているのかすら曖昧だった。


 意識だけが、光の中で進んでいく。


 やがて――光が薄れ、空気が肌を包む感触が戻った。光が弾け、三人の体を包んだ。

 地面が消えたような感覚と、耳の奥で鳴る低い振動音。


 そして、足元に確かな感触が戻ったとき、目の前には先ほどまでの遺跡とは、まったく異なる風景が広がっていた。


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