楽しい、よる
スピカの心臓は気持ち悪いくらいドキドキしていた。
「イメージが大事だからね!あ、あと指紋は残らないし、今の姿は似ても似つかないから大丈夫!」
「わかったよ」
調整した美しい声で返事をした。初めてだから扇ちゃんも優しい。手をつないで、イメージした。あいつの元へ。
紫野透子は、優等生だった。第一印象も良かったし、優しくしてくれた。
「澄香ちゃん、ここはね、、、」
塾にかよっていて、勉強もとてもできたのでよく教えてくれた。ふんわり香る良い匂いや、愛らしい顔立ちから、みんなに好かれていた。親友の羅蘭に音楽活動のことを話したときに透子はしつこく
「ねえ、星ヶ城さんと何話してたの?」
それは言えないよ、と断ると
「なに、私の悪口言ってたの?」といらいらしてヒステリックに捲し立てられたので透子にも話した。
「絶対に他の人には言わないでね」
と言ったのに、次の日には学校中に広められた。
「澄香だからスピカ?ダサすぎ厨二病かよ」
あははっと響く笑い声と甘ったるい香水の匂いに吐きそうになった。
「何で言ったの!?言わないでって言ったのに!!」
そう言っても透子は
「だってぇ隠し事って良くないと思うんだもん。」と答えられた。
何となくできた「澄香をバカにしていい雰囲気」はエスカレートして、教科書の名前を書き換えられたり、水を頭からかけられるような陰湿な行為が広がっていった。机にびっしりホッチキスを打たれたときは逆に感心したくらいだ。
だから、壊して良い。いないほうが、世界は綺麗だから。
ふぁん、と部屋の前にたっていた。ぎゅっとナイフを握りしめる。ただドアを開けてもつまらないから、小さな声で
「透子さん透子さん」
とささやいてみる。部屋の中からガタッと音が鳴った。
「だっれっ、、、」
この時間に透子の親はいない。そうイメージした。
スピカはふわりと部屋の中に登場して、透子を見下ろす。
「────────っ」
透子は声を出せない。目尻にたまった涙が恐怖を感じていることを示している。にこりとスピカが笑って透子に近づく。ドアは開かないようにした。ナイフの刃先であごをもちあげる。
「透子、ばいばい」
透子の胸にナイフを振り下ろした。ごぼっと血の泡が吹き出る。
「がっ、、、」
なんども、なんども、スピカはナイフを突き刺した。これで終わりにはしない。スピカは紫野透子が生きている姿をイメージすると、また、透子の体が再生した。記憶はあるようで、逃げ出そうとする。即座にイメージした鎖で縛る。今度は鎖を強く締める。ばきっという嫌な音とともに、透子の体ががくんと力が抜ける。また再生させる。今度は、命乞いをしてきた。
「ごめんなさいっ、、、ごめんなさい、許して、、、お願いっ、、、、、、、」
「透子」
許してもらえたのか、と上げた顔にナイフを突き立てた。
「許されると、思わないでね」
透子の体は、また、再生する。筋肉を貫く感覚がたのしい。透子の体の中に針をイメージして、中から刺し殺す。強酸を頭から浴びせる。足下から輪切りにする。
ホッチキスの針まみれになった透子は動かない。密室だと不思議かな、と思ったので窓を割る。そして、扇ちゃんと一緒にまた家に戻った。