初めてのお仕事
「ちょっと、なりたい姿をイメージしてみて。」
扇ちゃんに言われても、
「なりたい姿って、どんな?」
とふてぶてしく返す。
「そのままのいみだよ!!例えば、、、この子は?」
扇ちゃんが指したのは伊織スピカのキャラデザだった。自分で書いたそのキャラデザになりたい!!と念を込める。
「そうそう!もっと具体的にイメージして!!」
すっかり主導権を握られている。むっとしながら、イメージする。白い肌、紺色の和服風の衣装、瑠璃色にところどころラメを効かせた髪の毛、白くて長いブーツ、めちゃくちゃ時間をかけて塗った宝石みたいな水色の目。どぷんと、水に入ったみたいな感覚。キラキラしながら変わっていく様に、女児向けアニメの変身シーンみたいと思う。ぶわっと肩の下の長さだった髪も腰くらいのロングにのびて、星座模様のヘッドドレスが装着される。
「よし!ないす!」
いつの間にか水みたいな感覚も消えていて、立ち上がろうとするとがくんとよろけた。立ち上がると、背がいつもより高い。扇ちゃんが懐から鏡を取り出す。なんで懐から全身鏡が?四次元ポケットつきの懐?
鏡に映った自分の姿にびっくりした。すらっとした体と長い髪の毛、水色の綺麗な目が映っていた。
「う、、、そ、、、、、、」
スピカにしか見えなかった。
「よっし!!思ったよりうまくいったね!最初はうまくできなくてぐちゃぐちゃになるって聞いたのに!!妄想力が強いね!」
え、ちょまって。がちで。ぐちゃぐちゃにされるとこだったの!?なんてことしてくれてんだ。あと誰が妄想力がつよいね!だよ。しばくぞ。でも、これってまさか、、、
「えっこれ、実体?」
「よし!別の姿も!」
話聞けよ。
「つぎは、これ!」
カチャカチャとパソコンを操作して出していた画面は、装飾がたくさんついたナイフだった。
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あ、なるほどね。扇ちゃんの「消したい人も消せる正義の見方」の意味がわかった。消せる、もきいたら普通はそうだもんね。でも、澄香は迷わずに、また、ナイフをイメージした。すとん、と澄香の手に収まるナイフ。恐ろしいくらいに澄香の手に馴染むナイフの銀色の刃は間違いなく本物で、上品な掘り細工がスピカの雰囲気に合ってるなと思う。
「この姿はイメージしたことができるようになってるよ。瞬間移動もできるし、なんなら声も変えられる。戻りたいときは戻りたいと思ったら戻れる。スピカ、わかった?」
扇ちゃんはわくわくした早口で言う。
「夜になったら、初仕事といきますか!!」
スピカはこくんと頷いた。