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エピローグ:その後の、どこかのまちで
夕暮れの空の下。
一人の若者が、小さな空き家の前に立っていた。
建物は傾きかけていたが、軒先には風鈴が揺れ、かすかな人の気配があった。
若者は首をかしげながら、スマートフォンで地図を確認する。
「この住所、たしか空き地だったはずだけど……」
ふと、壁に視線を移すと、誰かがスプレーで描いた文字が目に入った。
「地上げ屋って、悪いことじゃなかったんだろ?」
その言葉は、もう色褪せかけていたが、不思議と力を持っていた。
若者は少しだけ笑って、扉の前に立った。
「さて……俺なりのやり方で、やってみるか」
風が吹き、風鈴が鳴った。
どこかで、また新しい物語が始まろうとしていた。
エピローグ「その後の、どこかのまちで」では、本編が終わった後も続いていく“土地と人の物語”の予感を描きました。
地上げ屋ヒロさんの物語は、ここで一度幕を下ろします。
けれど、その想いは静かに、誰かの中で息づき、また別のかたちで語られていくかもしれません。
本当に、ありがとうございました。