第2話:正しさの境界線(中編)
岡村が初めて“あの男”と接触したのは、都内の古い空き家の買収現場だった。
「その土地は、もう売却の段取りに入っています。正規の登記も完了済みです」
そう言って書類を突き出してきた男は、妙に静かだった。
「……あんたが、ヒロか」
岡村は、その一言だけで悟った。目の前の男が“正しすぎる交渉人”だと。
「登記上は合法に見えても、実態が虚構なら、それは“偽り”です」
「偽り? 正しさなんて、誰が決めた。俺は“見捨てられた土地”に名前を与えてきただけだ」
二人の言葉がぶつかる。だが、声はどちらも冷静だった。
***
ヒロの調査により、岡村が関わった登記の一部に“不自然な申請タイミング”が指摘される。
岡村はすぐに察する。「若いのが……雑な真似をしたな」
組織内での分裂の兆し。
「お前らはな、“仮面”の意味も知らずに動いてる。ただの成り上がりの道具にしやがって」
岡村は、裏ルートをすべて切り、自ら動き出す。
「ヒロ、お前と俺の戦いはまだだ。だが――」
彼は、ある古い登記簿の写しを封筒に入れ、役所宛に送る。
その土地は、10年前に彼が最初に偽名で登記した場所だった。
「……これは、俺の始まりであり、終わりにすべき土地だ」
中編では、岡村とヒロの初対峙、そして「正しさとは何か?」という問いが物語の中心に置かれました。
敵と味方、正義と悪。
その境界が揺らぐ瞬間こそが、この物語の“核心”かもしれません。
次回はいよいよ完結編――「最後の仮面(後編)」。
岡村の選択が、この世界に何を残すのか。ぜひ、見届けてください。