表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/29

第17話:最後の抵抗運動(後編)

再開発に向けた最終説明会の朝。


会場に入ってきた住民たちの表情は、前回よりもずっと穏やかだった。

ヒロさんはその空気を感じ取りながら、一人ひとりに小さく頭を下げていった。


壇上に立った市の担当者が制度の再説明を行い、住民たちの質問に丁寧に答えていく。


「再建後の団地には、旧住民優先の入居枠が設けられます。また、希望される方には現地に近い仮住まいが手配されます」


ヒロさんが補足する。


「皆さんが“この場所に戻ってこれる”こと。それが今回、最大限努力した部分です。戻る先に“帰る場所がある”と感じられることが、心の支えになるはずです」


宮前がうなずき、立ち上がった。


「わしら、よう考えました。このままこの建物で何か起きたら、あのとき話し合っておけばよかったって、きっと思う。

だから今回は……納得して、次の場所に向かうことにしました」


ざわついていた場内が、静かに拍手に包まれた。


ヒロさんは、静かに拳を握った。


***


数か月後。旧団地はすっかり取り壊され、仮設住宅に移った住民たちはそれぞれの新生活を始めていた。


ヒロさんが訪れたのは、仮住まいの一角。

宮前が、植木鉢に水をやっているところだった。


「ヒロさん。あんたには感謝しとるよ。わしらの“暮らし”を、ちゃんと考えてくれた」


「それが、俺の仕事ですから」


「いや、あんたは“仕事”以上のことをしてくれたよ」


ヒロさんはわずかに微笑んだ。


“土地”という名の記憶装置に宿った人の声を、きちんと引き継いでいくこと。


それが、この仕事の、本当の意味なのかもしれない。

長編『最後の抵抗運動』三部作、ここに完結です。


団地という“集団の暮らし”を描くなかで、ヒロさんが対峙したのはただの反対ではなく、そこに積み重ねられた人生と想いでした。


このエピソードを通じて、「人が住んでいた」ということの重みや、“壊す”ことの責任について、少しでも伝わっていれば幸いです。


次回からはまた、別の土地と人の物語をお届けしていきます。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ