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第13話:兄と弟の境界線(後編)

ヒロさんは、悠真とともに近所の老婦人・松本トシに話を聞いていた。


「ええ、覚えてますよ。お兄さんが“登記は自分がやっとく。家のことは弟に任せる”って、はっきり言ってました。あの時、私は台所にお茶を持っていこうとしてたから、ちゃんと聞こえました」


トシの証言は、何よりも重みがあった。


「ありがとうございます。行政書士に同席してもらって、陳述書にまとめてもらいます」


ヒロさんは、その足で鷹志に再び会いに行った。


「兄さん、相続の時の“口約束”について、証言が取れました。近所の方が、はっきり聞いていたと」


「……そうか。あのばあさん、まだ覚えてたのか」


鷹志は苦笑した。だが、表情からはどこか安堵の色が見えた。


「俺もな……本音を言えば、あの家が消えるのは寂しいよ。でも、老後資金のことも考えて、動かないといけないって思ってた」


「なら、ひとつ提案があります」


ヒロさんは、新しく計画されている地域型住居の設計図を見せた。


「このプロジェクトの一角に、住み続けたい人向けの“地縁者優先住居”があります。再開発地域内に限って、一定の条件で“住み続けられる形”が取れるよう、調整されています」


「……それなら、家も人も、残せるのか?」


「はい。登記の持分を調整し、売却額の一部を住まいの権利に変換できます。兄弟双方にメリットが出せる形です」


鷹志はしばらく沈黙したのち、ゆっくりとうなずいた。


「分かった。ヒロさん、任せるよ」


数ヶ月後。


かつての農家跡地には、新しい集合住宅が建ち、敷地の一角には、小さな家庭菜園付きの区画があった。


そこに、悠真の姿があった。汗をぬぐいながらトマトの支柱を立てている。


「……変わったけど、残ったな」


ヒロさんは遠くからそれを見ていた。


土地を守るとは、元の姿をそのまま残すことだけではない。


“想い”を、形を変えてでも次へつなぐこと。


ヒロさんは、心の中でそうつぶやいた。

「兄と弟の境界線」後編、いかがでしたでしょうか。


この話は、相続にまつわる“法と感情のズレ”をテーマにしながら、兄弟という最小単位の人間関係に焦点を当てました。


ヒロさんがやっているのは、買収でも調停でもなく、"人の気持ちをつなぐ仕事"だと思っています。


土地という動かぬものの中に、実はたくさんの"動く感情"が詰まっている。


次回からもまた、新たな出会いと交渉のドラマが始まります。今後ともよろしくお願いします。

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