第32話『適合者たち』
星歴10017年8月23日午後9時3分、南の大陸・首都国家『レルリオス』。
その国の中央に構えるデヤタ教の教会本部は恋作ことラヴクラフト様と、彼が率いる人工神話、宣告者たちの本拠地である。
その地下深くの部屋にて、イタクァは拷問を受けていた。
「イタクァ?なんで君は2回も失敗するのかな?今回は『宣告者』と『神成薬』も持たせたのにルナを確保できないとか何やってるの?ねぇ?」
「す、すみませんラヴクラフト様ッ!ですが…」
「言い訳はいいんだよ!」
ラヴクラフト様がイタクァの顔を握りつぶし、その吐き気のするような気持ち悪い音が部屋中に響き渡る。
「…たくっ、僕に仕える神のくせしてさぁ?弱いやつはいらないって知ってるよね??」
「はっはい!ですが今回に関し…」
「イタクァ五月蝿い。負け犬の癖して言い訳しかできないの?」
イタクァの言い訳に嫌気が刺したのか、隣で立っていた『適合者』の1人『死者』ヘルヘイムがイライラした顔で舐めていた飴玉を噛みながらそう言う。
「…はぁっ!?最近『造られた』お前に言われる筋合いはねぇぞ??」
「はぁ、ですが貴方が作戦の一つも遂行できずこうやってコトコト帰ってきているのも事実。そんな人を先輩ズラで見れるとお思いで?」
隣でとてつもない喧嘩が始まりそうな上、ヘルヘイムの持つ能力の影響を直に受けそうな為仲裁に入ろうとする。
だが其れを行動に起こそうとした瞬間、彼女らの間に1人の青年が割り込んできた。
「喧嘩はよくないよお二人とも。それも崇高なるラヴクラフト様の前でなんてご法度だよ」
青みがかった白髪が特徴的な彼の名は『ニヴルヘイム』、『霧』の適合者だ。
「…そうですね、あんな負け犬に時間を割くのは馬鹿みたいですし今回は止めにしておきます」
「負け犬だぁ!?訂正しろ『死者』!」
「嫌ですよ、それより貴方はニヴさんに感謝するべきです。私が本気を出したら死んでましたよ?」
「はぁ?神に向かって生意気な口聞いてんじゃねぇぞ『九つの龍王』その依代のくせして!」
「はい、止めようね2人とも」
パンッと手を叩く音が部屋に響き渡り、全員が一斉に沈黙する。
その音の鳴った方向には玉座に座ったラヴクラフト様の姿があった。
「…『神』『豊穣』『人間』『巨人』『小人』『黒妖精』『霧』『炎』、そして『死者』。うん、みんな揃ってるね」
今ラヴクラフト様の挙げた用語、それはかつて北欧にあった世界の名を冠した龍の頂点『九つの龍王』、その中で滅んだ『妖精』以外の8の龍王の魂その依代として造られた私たち『神造人間』の真名である。
「君たちを呼び出したのは、帝国で少しやって欲しいことがあるからなんだ」
「…やって欲しいこととはなんでしょうか」
『炎』ムースペルスヘイムが質問をする。
彼は計画を命令通りに遂行するため、いつも聞けることは全て聞く。
「そうだね、簡潔に言うと『妖精』を殺してルナを取り返してきてくれ」
「『妖精』…ラヴクラフト様の娘であるルナ様を誑かす『竜人』の生き残り『アルヴヘイム』ですか」
「ああ。今は『アル・V・ヘイム』と名乗っているらしいけど」
「…バニッシュメント?」
「彼は己にバニッシュメント…その名の通り『刑罰』を課しているのさ。ほんっと人間臭いよね〜。愛する者を守れなかった己を殺したいほどに憎んでて、そして…その者が唯一残した少女を守るためにそんな感情を殺して、それが罪人たる己に課せられた唯一の使命だと思い込んでいる。ほんとに哀れな者だ」
ラヴクラフト様はそう笑いながら言った。
「…さて、じゃあこの話が終わった後すぐに帝国へ向かい計画を始めてくれ」
「了解」
その話が終わり、私たちはラヴクラフト様の使命を果たすために帝国へ向かう。
星歴10017年8月23日午後9時30分。
私の身に宿されしは『神』、九つの龍王・その頂点に立つ龍の『依代』を与えられた者である。




