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Another world  作者: 見海 樹
第2章「東京23区西部防衛戦」
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第4章41話「流河という人間」


「知ってる」


 そうペルシダは笑った。

 流河の醜い所も、情けない所も全て知っているというのか。


 あぁそうだ。知られているのだ。

 何度も何度も嗚咽交じりに泣いて。

 ペルシダが殺されそうになったのに助けられなかった。


 ちゃんと見られていた。

 ちゃんと忘れられていなかった。


 そしてしまいにはさっきの愚考だ。

 時間の無駄だったのだろうか。


「流河は怖がりで力がなくて」


「死にそうになったら泣いちゃって。動けなくなって」


 ああ、そうだ。

 それが流河だ。


 心にすっと入ってくる。

 自分で考えるよりも他人に言われた方が心に残る。

 自分で守るためにどこかそうじゃないと思っていたのかもしれない。


 そんな中途半端な所も嫌いだ。

 自分を醜い奴とそう認めきれない弱い奴なのだ。


「誰かにすがりついて。縋り付くために色々やって………知ってるよ。あんなに一緒にいたんだもん。あなたと一緒に戦ったって、いっぱい話したもの。流河は覚悟を持っている人物じゃない。流河はそこは全く持って強くない」


 そう思われていたのか。

 そんな風に下に見られていたのか。


 思わず笑いそうになる。

 自分の馬鹿さ加減と呆れに笑いが出てきた。


 それは全て事実だ。

 ペルシダは流河の本当の姿をしっかりと見ていた。


 そう思われていたことに気づけなかった。

 そんな風に思われながら今まで一緒にいてくれたのだ。


 ここまでくると哀れで滑稽だ。

 ペルシダの事が好きで必死に頑張っていたのに。


 自分の本心が分かっている相手がどうなびくというのか。


「きっと流河の事なんでも知っているわけじゃない。流河の事を全部知らないから私の言葉が響くかなんてわからない」


 流河はペルシダにかっこいい所を見せようと頑張ったが、駄目だったということだ。

 ペルシダの一語一句頭の中に入ってくる。

 好きな人だからだろうか。

 賞賛や慰めよりもずっと、ずっと中に入ってきた。


「でもね、私まだ知っていることがあるの」


「まだ……あるのか」


 何かとそう思っていた。

 まだ醜い所があるのか。

 流河はそれを聞き流す力もない。

 だからそれを受け入れるように聞いてしまった。


「流河の好きな食べ物は唐揚げと春巻き。油たっぷりだらけのもの」


「え?」


 ペルシダはそうまったく関係のないことを言った。

 でもペルシダはそうやって微笑んでいる。

 さっきと変わらずのままだ。


「流河の好きな漫画はバトル系のお話」


「流河はでんししょせき? で漫画を読む人」


「流河はパンを作る事が得意な人」


「流河は友達が沢山作れる人」


 普段話していたことを。

 何か悪い所でも何かかっこいい所でも何でもない。

 ただの流河の事を。


「流河はサッカーが好きだけど試合はあんまり見ない人」


「流河の好きなサッカー選手は一度も試合を見たことがないヴィエラっていう人」


 そうやってくすくすと笑う。

 前にも言われた。

 ゲームでこの選手は外せないほど強い。だから好き。

 この世界で親と大翔と同じくらい信頼を置ける人物。

 それを言うと一度も見たことないのに好きなのと笑われた。


「流河は高校生で勉強もお仕事も頑張っていた人」


「流河はお母さんの写真の埃をちゃんととる人」


 そう自分の事を話していた。

 流河は。流河はと。

 そう子供のように知っている物を教えるように。

 ペルシダは流河の知っている事を上げていった


「流河は困っている人がいれば声を掛けれる人」


 いつになっても終わらない。

 この時間はなんだ。

 こんな時に突然何を言い出すのか。


 でも、やめてほしいとそう力が入ってしまった。


「流河は大翔君と仲良しで弟思いの人」


「違う」


 そんなことあるはずがない。

 ジェイド達の方がもっと頑張っている。

 どれだけ頑張ろうが流河よりジェイド達の方が頑張っている。


「流河は優しくて誰かを助けようと出来る人」


「違う。俺は今……」


「違わない」


 そうはっきりとペルシダは言った。

 その言葉は力強く流河に響く。


 何故ペルシダはそう言い切れるのか。

 何を流河を知っているというのだ。


「流河が人を助けられないかなんてこれから何があるか分からない。でもここに流河が助けた人がいるじゃない」


 そう胸に手を当てる。その手は私は助けられたと言っているみたいで。

 その顔は信頼という表情で笑顔になっていた。

 嫌、最初からだ。知ってるとそう言った時からこの笑顔だった。


「私がここにいるのは流河がいてくれたおかげ。流河がいなかったらきっと私は一人だった」


 何を言っている。

 ペルシダの顔を見ても分からない。


 理解が出来なかった。

 流河の何に信頼している。


 流河のおかげ。


 そんなものなどない。

 もし仮にペルシダが流河のおかげですべて誰かがやってくれたから成立するものだ。

 大翔が、ジェイドが。車花が。義信やそしてペルシダが。

 流河一人が出来た結果など何一つない。


 なのにペルシダはそうやって流河のものだとしようとする。


「流河がいつでも私に会いに来てくれた。流河がいてくれたからこの世界で友達が出来た」


 何の話をしている。

 そうありもしない虚実をペルシダは語っている。

 そんなものなどない。

 流河が出来たことなど一つもない。


「そんなものは幻想だ」


 そうそれを定義する。

 そんなものどこにもない。

 何故勘違いしたのかは分からないがそうやって否定した。


「幻想なんかじゃない。流河がそうやって……」


「俺に力なんてあるわけないだろ!!」


 思わず怒鳴り声を上げてしまった。

 慰めようとしているのだろうか。

 でもそんなもの余計に傷つくだけで。


 そっちの方が嫌だった。


「大翔を見たら分かるだろ!! 俺は!! 俺は何にもないんだよ!!」 


 そういうとペルシダは黙った。


 そうだ。どれだけいい所を見つけようとしてもその先に大翔は必ずいる。

 だからどれだけ取り繕うっても所詮流河は大翔の下なのだ。


 大翔の前にすれば流河など何もない。

 大翔を前にすれば流河は普通の人間だ。


「力がないんだ。魔法を戦う力もない」


 戦う力も異能も魔法も。

 何かを変える力などない。

 ジェイドや大翔と体の作りが違う。


 そんな別世界の住人に、バトル漫画の世界の人間相手にこちらの世界の住人が勝てるはずがない。


 流河では何かを守る力がない。ただ蹲ることしかできない。

 大翔のように敵を前に皆を背中を見せるということが出来ない。


「俺はペルシダを怖がらせて、車花のとこに行かないようにして。そうやって周りの足を引っ張って自分の心を保とうとするような屑なんだ。大翔のように頑張ろうとしなかった。上っ面だけ保とうと必死にしているだけなんだ」


 覚悟も努力も継続する力がない。

 大翔のように、自衛達のように。

 何か自分を磨くことなどしなかった。


 体を鍛えることも、勉強を頑張ることも。

 何か目標に向かって生きていたわけでもない。

 時間を娯楽に使い、何かを研鑽することもなく流されるように生きていた。


 それは紛れもない事実だから。

 だからそう慰めてくれるペルシダに怒ってしまった。


「俺はそんな人間じゃない」


 流河。

 この名前が自身は好きではなかった。

 きっと父ちゃんと母ちゃんはこれに何か意味を込めて使ったのだと思う。

 いい意味で込めて付けたのだとそう思う。


 でも名前負けをしているとそう思った。

 河に流されている。

 大きな河を上ることなど出来ず、他の物と同じように下に下に落ちていく。

 正に今の自分にピッタリな名前だと思ってしまった。


「俺は何もない。誰かに構ってもらえるようなものなんて何にもない」


 こんな自信のない男を見せればペルシダも引くだろうと思っていた。

 ペルシダがこんなに言ってくれたのにそれでも否定して。


 ペルシダの優しさがないがしろにしているのに。

 ペルシダは首を振る。


「そんなことない。流河は私をかばってくれた。流河は死にたくなくて一度怖がって動けなかった。でもそれなのに次は私を守ってくれた。あの時いてくれたあなたに私は助けられた。普通の人でもなんかじゃない」


「普通の人を私は知らない。命を賭けてくれるかどうかなんて知らない。それとも……普通の人は全員同じなの。普通の人は皆流河のような人なの? 普通の人は私と一緒にいてくれるの?」


 その言葉に反論は出来なかった。

 これもきっと流河が弱い人間だからだろう。

 自分の事を分かっているはずなのに、こうやってペルシダのことを聞いてしまっている。


 分かっているはずなのに、その言葉の先を聞いてしまいたくなってしまう。

 正に今情けない子供のような奴だと分かっているのに。


「私にとっての流河は今言っていたこと。怖くて、泣き叫んで誰かに縋り付きたくて。それでも私を助けてくれた。私に笑顔を向けてくれた」


「…………」


「流河は自分の為に他人を助ける。他人を助けることが自分の為になる。そんな気持ちを持てる人なの。そうやって他人を助けられる人なの」


「流河という人間は、そうやって自分の中に誰かを入れることが出来る人なの」


「……………」


 反論できなかった。

 嫌、したくなかった。

 今こそそうじゃないか分かりながらも、聞いてしまいたいとそう思ってしまった。

 そんな自分が嫌なはずなのに。


 そうやって自分の悪い所じゃないところを言ってくれるペルシダの話を。


「どうしてそう思うんだ?」


 分からない。

 自分に嫌気がさしてばっかりの自分だからこそ。

 だからペルシダがそう言ってくれることが良く分からなかった。

 流河の何にペルシダは信頼しているのか。


「俺は今……」


 今本当に覚悟がない。

 自分をいい意味でも悪い意味でも貫き通せない本当に。

 それなのにどうしてペルシダはそうやって流河を見捨てないでいてくれるのか。


「そうね。でもそんな人に助けられたの。そんな人でも助けることが出来ると私は思う」


 助けたことになるのだろうか。

 あれだけの犠牲者と人に頼った結果だけなのに。

 助けたと認めていいのだろうか。


 大翔のように。

 ジェイド達のように誰かを助けたことになるのだろうか。

 助けることが出来るのだろうか。


「どうして俺みたいなやつにそう信じられるんだ」


 もう一度流河はそう聞く。

 自信げもなく、そう自信のあるペルシダに向かって。

 ペルシダに頼ってしまう。

 今まさにすがってしまう自分が何かが出来るというのか。


「言ったでしょ」


 そうやってペルシダは微笑む。

 その信頼は一体どこから生まれたのか。

 それは一体なんなのか。


「私はあなたの事が好き」


 そう笑ってはっきりと答えた。

 恋愛とは違う、人としての好き。


 子供のように。親に親愛を伝える時の好き。


 照れもなく、恥ずかしげもなく。

 そして打算だったり、裏があるわけでもない。


 余りにも単純明快。でも確信たる証拠などない。

 好きだから信じられない。


 でもそんな好きだからこそ。


「あ……」


 それが心に響いた。


 嫌悪と諦めしかなかった心の中にそれが入って混ざる。

 それは温かく、そして心を動かす物だった。


「貴方がそうやって傷つくなら私は違うよって否定する」


「貴方に救われた。この世界に来て何もかも分からない私にあなたが家に来ていいって言ってくれたおかげで私の心は安心した」


「貴方は言葉が温かいという力があると私は思うの」


「そんなの、今だって俺は……」


 ペルシダの言葉だって温かいものだ。

 こんな自分に慈悲を与えてくれて。


 ペルシダの言葉はものすごく暖かい。


「ありがとう。でも私は車花のことより流河の事の方が良く知ってるから今こうやって言えるだけよ」


「!!」


「どうしたの?」


 殺し文句だからこそそれが心に刺さった。

 好きな人にここまで言われて立ち上がらないのか、流河は。


 怖い。

 車花がどこに向かおうとするのかは何となく想像がつく。

 どうやって行くかは分からない。でももしプルプラスと戦うなら……

 直前で怖くなったら……


 ふとペルシダを見る。

 ペルシダの手は震えていた。

 誰かに頼る人がいないのか。


 こんな状況でも戦えないのか。

 慰められて。そうやって自分を悪いところも肯定されてそこから好きだと言われて。

 そしてそういってくれたペルシダは震えていた。


 戦えないというのか。

 ふつふつと心が熱くなっていく。


 でも最後に聞いておきたいことがあった。


「ペルシダ。ペルシダは怖くないのか? どうしてこの世界で戦えるんだ?」


 この世界に来て、戦いに巻き込まれて。

 何を目標にこの世界で戦うのか。


 怖いはずだ。なのにどうして戦える。


「ものすっごく怖いわ。でも私まだまだしたいことがあるの」


 したいこと。将来の事。

 その言葉に心の中の否定や怒りは消えた。

 ただペルシダの話の続きを聞きたくなった。


「私もっといろんなところに回りたい。この世界の食事を全部食べたことないから食べてみたい。やりたいこと、したいこと。それを奪われたくない。だから怖くても立ち向かえる」


 やりたいこと、か。

 流河は何かあるだろうか。


 生き残って、ペルシダ達と生きていけるなら。

 どうなるか分からない。


 異世界に避難するのか。

 その時ペルシダの異能はちゃんと解除出来るようになっているのか。

 それともこの世界でアドラメイクを倒せているのか。


「ペルシダ」


「何?」


 不意に言葉が出てしまった。

 もう取り消すことは出来ない。

 なら。

 流河は一息入れる。


 覚悟を決める。


「この世界にはいろんなところがあるんだ。高さがビルより高い滝があってさ、俺も行ったことがない。一緒に行かないか?」


「……いいわね」


「この日本だって色んな場所があるんだ。海が鏡になるような場所や来年になったら桜が満開な場所とか。それにネットで映画とかいっぱい見れるものが有るんだ」


「ええ」


「車花とも一緒に行こう。大和も大翔も皆で一緒に色んな所に行って、いろんなもので遊んでさ」


「うん。約束ね」


「約束。約束だ」


「ペルシダといるとすげえ楽しい。俺はもっとペルシダの事を知りたい。だからこれからも一緒にいてくれるとものすごく嬉しい」


 恋をしている。

 それについては色々と考えておきたいがそれは後だ。


 友達でいてほしいとも恋人でいてほしいとも言えなかったけど。

 でもそうやってそばにいてくれる約束をしたかった。


「……!!」


 そういうと突然ペルシダは黙ってしまった。

 驚いたかのようにこちらを見る。


「駄目か?」


「ううん。これからもよろしくね」


 それは流石におこがましかったのかと思っていたが、

 そう言われてほっとした。


 自分なり頑張って殺されそうになるくらい一応頑張った。

 そして得られたのは

 トラウマと恥とペルシダの言葉。

 足りない。そう思ってしまった。


 足りないと思うほどには頑張ったのだ。

 なのに車花が死んだら頑張りは全て無になってしまう。


 死ぬのは怖い。

 一生死んでもやり遂げる覚悟なんて持てない。

 皆のように命を賭けることも、大翔のように力があるから何でもできるということも出来ない。


 でも約束がある。未来がある。

 それを奪われたくない。


 ペルシダとの約束を作った。

 ここでうずくまっていたら、ペルシダと遊ぶことなんてできない。

 車花が死ねば罪悪感いっぱいできっと楽しめなくなる。

 ここでうずくまっていたらペルシダに顔を向けて笑顔になれないから。

 この信頼と約束だけは絶対、絶対誰にも奪わさせはしない。


 車花に借りを返してもらわないといけない。

 約束を守ってもらわないといけない。

 言いたいこと、怒りたいことがある。


 車花に、悪魔にペルシダを奪われるなんて許せない。

 車花になんて奪わせてなるものか。

 それに死んで恥を捨てるなんて流河は絶対許さない。

 一緒に恥を受けてもらわなければならない。


 大翔を助けなければならない。

 でもここで逃げだせば大翔は絶対に助けの手を伸ばせない。

 ここで立ち向かえば大翔も少しは頼ってくれるかもしれない。

 それも約束だ。


「ペルシダ。やろう。俺達で車花を説得しよう」


 これからの未来に車花がいなければ、きっと笑えないし何も出来ない。

 だから流河は自分のために車花を助ける。


 好きな人がいる。

 醜い所を見せてしまった。気を遣わせてしまった。


 かっこつけないといけない。

 かっこいい所を見せないといけない。


 このままじゃ優しい人だけになってしまうから。

 頼られる人になりたいから。


 魔法も異能も特別な力もない。

 でもペルシダが信じてくれるなら。

 ペルシダが震えているなら。


 なら立ち向かってみよう。


 まだ何かはつかめない。

 でもまずは行動して何が出来るか考えないと。


 流河は立ち上がようとした。

 主人公のようにかっこよく前を向いて歩く。


 なんてできればよかったが。

 震えも怖さも抱えていたのか、それともまだ受けたダメージを回復しきっていないのか。


 体はよろけた。


「大丈夫?」


 隣にいるペルシダが支えてくれた。

 思わず苦笑してしまう。


 ほんとかっこがつけられないな。


「……ああ。行こう」


 そうして流河はペルシダと共に大翔がいる所に向かった。

 車花を説得するために。


 もう一度戦いに

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