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Another world  作者: 見海 樹
第2章「東京23区西部防衛戦」
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第2章37話「戦いの結果」


 ジェイドは休憩する暇もなく、いつもの場所に集まった。

 おそらく今日の夜か明日未明に相手は攻めてくる。


 魔石の存在が相手に知り渡っているはずだ。

 その仕組みは分かっていないものも魔石は日にちが立つほど増えていくことは相手も分かっている。


 魔石を増やすことで戦力の差が縮めようとする此方の動きを止めに来るはずだ。


 此方は消耗していて、相手は消耗した人を丸ごと替えられることが出来る。


 そして民間人も使えるからだろう。

 そういった連戦に耐えるための訓練をジェイド達は皆受けている。

 だが訓練を受けていない民間人は戦いの疲れと恐怖がまだ残っているはずだ。

 それを寝ているときに攻撃を仕掛けたら神経がすり減らされる。


 一度戦いに身を置くと心の病気となって体が動かなくなったりする。

 それは初めての戦いで身をもって経験した。


 今もなお、前の戦いで動けなくなった人がいる。

 その恐怖を再び感じてしまって、体が動かなくなる人が増えているのかもしれない。

 そしてそれをアドラメイクの部下達ならついてくるはずだ。

 仕掛けるならおそらく今日になるはずだ。


 それまでに作戦と配置を考えないといけない。

 同じやり方で通用するのだろうか。魔石の量、相手の数。

 確認すべきこと、そして作戦会議をするためにここに集まってもらった。

 だが皆の口は重く、空気はものすごく悪かった。


 皆暗い顔で相手を退けたという喜びはない。


 チェリアがいない。

 チェリアが死んでしまった。


 ここにいたいつもの顔がいない。

 常に明るく、彼女がいてくれるからどんな重い空気でも彼女の明るさによって乗り越えられた。彼女が常に前を向いてくれるからジェイド達も頑張れた。


 皆悲しそうに、苦しそうに、悔しそうに顔を下に向けていた。


 チェリアの身体はない。

 顔は全て魔石として変換され、肉は避けていて直ぐに焼かなければ腐ってしまう。

 残ったのはチェリアの肉体と最後に来ていた服と遺品。そして粉々に砕け散った魔石の粒だけだ。


 その体はどこにもない。

 こそ死んだということが理解できない。


 チェリアが本当は死んでいないんじゃないかと、またこの扉を開けひょっこりと出て来るんじゃないかとそう思ってしまう。


 そんなあるはずもない妄想に余計に苦しみが増す。

 誰も悲しみをこらえていた。


 もうああやってお酒を飲んだくれたチェリアがいない。

 喜怒哀楽が激しくいつもその陽気な性格とその彼女の才能は多くの人を助けてくれた。


 大翔は何も言わなかった。

 ただ無心に下を見続けている。

 その顔が魔石に変わった瞬間を見たと言っていた。


 大翔がどう思っているのか、ジェイドには分からなかった。

 だが心を出してしまうことで傷ついてしまう気がした。

 この静寂を壊してはならないと。


 誰も涙を流すことをしなかった。ただ重たい空気が広がっている。

 大翔を守るため、そして心が折れないために。


 必然的に誰も悲しみを抑えることになった。


「チェリアを休ませよう」


 そうジェイドは自ら決意させるように大きな声を出した。



 チェリアが死んでも心配でずっと現世に残り続けないように安心してもらうことしかジェイド達は出来ない。

 今チェリアに対して出来ることは誰も死なせない、傷つかせないことだ。

 だから大翔の言う通りこれ以上仲間を傷つかない。

 そうすることで彼女を休ませなければいけない。


 大勢の犠牲者が出た。

 この十年間家族に会うことも故郷に帰ることも出来ず、そして死なせてしまった。


 だがまだ犠牲者は増える。

 それを選択しなければならない。

 ジェイドの言葉に皆が頷いた。


 まず状況整理から始めることにしたら。


「今戦える者は?」


「今戦える状態の人は4割弱くらいだ。今夜に襲ってくるならよくて7,嫌6割くらいだろう」


 魔力を使い切った負傷者で魔法をどれくらいいるのか分からない。

 チェリアが抜けてしまったのが大きな影響を与えている。


 人に回復魔法を当てるのは難しい。

 怪我というのはその部位だけでなく血が足りなくなっているところや、病原菌はどこに侵入してきたか、腐食していない部位はないかなどどどうしても完璧に直そうとすると不確定さと魔力の無駄が出来てしまうのだ。


 だからこそチェリアが戦いの後必要だったのだが……                                                                                                                                                                                      


 駄目だ。今は戦いに集中しよう。

 相手の数はおそらくさっきと同じ数で来るはずだ。それを如何いなすか。


「自衛隊は9割動ける。といっても魔石を増やされたら何も出来ることはないがな」


「いえ、必ず自衛隊の人たちが役に立つ所があります。どうかお力添えを」


 特に運搬に関しては自衛隊にやってもらわなければならない。

 壱城は頷く。


「大翔」


 ジェイドは大翔に顔を向けた。

 大翔はその声に体で反応し、一息置いてそして顔を向ける。


「悪魔の数は増えていないか?」


「……はい。何か連絡を取っている様子もありません」


 大翔が言うにはベルブが怒鳴っているという。

 どうやらこの戦いでの相手側の責任者が彼なのだろう。

 アドラメイクも自身の護衛に何体か悪魔を残しておきたいはずだ。なら悪魔がこれ以上強い相手が出てくることはない。


 だが今回の事を踏まえて魔石の数を増やしてくるかも知れない。そうなれば下級のあくまでも十分王級、帝級になりうる可能性がある。


「魔石の数は?」


「戦いにほとんど使ったが、おそらく今夜には最低一人聖級分の魔石は渡せるはずだ」


 損耗は大きい。

 犠牲者もさらに増えることになってしまう。


 だが悪くない。

 理性的に考えれば最初に出た率直な言葉だった。失ったものは多い。


 だが一カ月前では予想できなかった結果だ。生還率、消耗率、魔石という戦力の増やす仕組みの発展。そして洗脳された人の奪還だ。

 どれもジェイド達だけでは無理だった。

 大翔がいなければここまでの結果は絶対に出すことが出来ない。


 だがそれを伝えるわけにはいかず心の中でとどめる。


「街の崩壊具合と民間人はどうなっている」


「街は半壊してしまいました。復旧する余裕はありません」


 民間人を避難するにあたってやはり瓦礫が落ちてくるというのは脅威だ。

 爆弾がなくとも衝撃で崩れることがある。


 だからこそ損傷率が少ない所を避難ルートに作れるように円を作られたのだ。

 だが相手にそのルートが読まれてしまったことで民間人の犠牲者が増えてしまった。

 それも少し考えなければならない状態だ。


「民間人は少し運ぶ必要があると思います」


 問題はけが人がいること。

 けが人に関しても生き残るためには後回しにする状況だ。

 これも自衛隊の人たちに運んでもらうしかない。


 どう動くか。


 そして追求すべきことがもう一つある。


「君の正体は何なんだ?」


 と目線は女性の元に向けられた。


 ////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


「私の名前はリリィだ。地球生まれの地球人だ」


 そう胸に手を当て自分を名と出生を言った。

 地球生まれの地球人とはどういうことなのか、気になることはたくさんある。


 そういって大翔と目が合った。

 大翔の横には布をかぶらせた頭がある。


 その布からは目の前と同じ顔がある。


 正直ジェイドも信じられない。

 本当はこの頭は偽物なんじゃないかと思ってしまう。

 異能者が近くにいた。

 どうして気づかなかったのか。


「それはまあ、適当に捨てといてくれ…て言っても捨てにくいか。別に条件はないからこっちで処分するから」


 そういって自分の頭を手の上に置いてくれと促す。

 自分の頭を片手で持とうとしている。


 記憶、そして精神魔力など全て脳に集中している。

 しかも脳からではなく体から脳が生えてきたということになる。


 数回死んだだけでは絶対に取ることが出来ない行動だ。

 死に慣れている。そんな矛盾した言葉を組み合さないと理解が出来ない。


 どれほど死んで来たのか。何故自分の顔を見て平然と出来るのかジェイドには分からない。


「本物なんですね」


 大翔が処理として仲間の体がないか、伏兵がいないかどうかなど調べていた時に見つけたらしい。


 リリィ。

 名前も知っている。

 調べた結果避難民として登録されている。目立った行動は一度だけある。

 何でも大翔の部屋に勝手に入ったのだとか。


 そして悪魔が出てきたタイミングで皆の前にその力を発揮した。

 だが悪魔を倒したからと言って簡単に信じることなどできない。

 避難民に隠れていた悪魔を倒せる程度の力の持った人物。


 どうして今まで力を貸してくれなかったのか。どうして急にその力を発揮したのか。


 その目的とそしてこの人の正体だ。

 リリィはため息を吐いた。


「まあ簡単にいうと私は不老不死だ」


 そうあっさり自分自身の情報を漏らした。

 チェリアはそういって服を引っ張り、肩を露出させる。


 その肩には入れ墨があった。

 龍が自分の尻尾を咥えて円形になっている。


「これがその不老不死の紋様だ。天使の子供なら何か分かるんじゃないか」


 そうリリィの言う通り大翔は目を見た。

 大翔はしばらくリリィについている紋章を見続けた。


「ただの入れ墨じゃなさそうですね」


 大翔の目がそのリリィの紋様を確認し続けた。


「なんだこれ? 量子? いやそれでもない、何か事象と…」


 何かぶつぶつと言いながら言葉が消える。

 大翔のその目を確認しているから何か騙しているわけでもないだろう。


「身体魔力なんですか?」


 その言葉に皆が反応する。

 異能とは精神魔力の塊が体の中に現れる。

 それは大翔に対してもタンドレスに関しても変わらない。

 国で過去に現れた異能使いにも精神魔力が増えたと報告がある。

 だが大翔の目はその異能だとこちらがいったものを身体魔力と言ったのだ。


 不老不死は異能とは別物なのか。


「どういうことだ?」


「さあな。ただ身体魔力によって人は身体を動かせるだろう。私の体は現に身体魔力で動いている。体に流れる身体魔力は細胞を劣化しないのかもしれないな」


 ジェイド達もこちらの人たちを同じように食事や睡眠といった行為が必要だ。


 その違いは身体魔力の差だ。

 身体魔力は人の体の機能をほぼ全て行うことが出来る。

 身体魔力を消費すれば睡眠も食事もこちらの人より取る量が少なくなり、長期戦もある程度持つことは出来る。


 身体魔力を作るには睡眠、食事、そして魔法を撃ち続けることで伸びるとされているが、具体的な仕組みはまだ理解していない。

 人の体について深く研究する機会が元の世界にあまりなかったからだ。


 異能とはなんなのだろうか。

 あくまで、こちらがそう呼称してきたとはいえいってもだ。


 だとしたら……


「この身体魔力は細胞に変化する。もし怪我をすれば身体魔力がそれを修復する。

 其の二重の壁が不老不死を成り立たせるんだろうな」


 ジェイド自身異能をいくつか見てきたことがあるが、どれも何か浮かび上がるものではなかった。

 大翔の異能は目が変わることといい、これはいったいなんだと言うのだ。


 何も知らないこそこの女性が見えない。

 もし戦いに協力してくれれば魔石を作り出すことが出来たはずなのに。

 なのに悪魔を倒してそして能力を打ち明けた。

 この人の正体とその目的について追及しなければならない。

 机の武器を見る。


「この武器と言い、ここ一カ月では訓練を見ていないとなると

 洗脳にかからなかったのか」


 銃を見るとかなり使われた形跡がある。

 釣り竿で鞭のように攻撃していたと報告を受けている。


 それを扱うのも練習をしなければならない。

 地球人だと自分で言っているが、それならどうして洗脳魔法を受けない。


 アドラメイクがここに来るのは大体15年前。

 その間何をしていたのか。それも気になるが。


「君たちが言う魔力防壁という魔法を防ぐものがあるのだろう? おそらく私は体内にあるその内部に自動的に魔力防壁を作っていた。だから洗脳がかからなかったんじゃないかと思っているが」


 身体魔力が体の中に流れるのならそういうこともあるのかもしれない。

 洗脳については具体的にはその光に対して防御をはるか、またかかってしまった場合はその以上の身体魔力を相手に流し込む。


「あなたはこれでアドラメイクを倒そうと?」


 そう大翔が尋ねる。

 釣竿と銃を持って リリィの尋ねた。


「まさか。私には関係のない話だろ」


 その表情に険しい顔になる。

 今チェリアが死んでしまったから余計にだ。


「まあ、あれだ。人が死んでいるのに何もしないのは気分が悪いってやつだな」


 その言葉にジェイドはリリィを見る。


 その表情に他意はない。

 今はただこの人の心を利用するしかない。

 悪魔を倒せるほどの力。それを悪魔に当てるだけでも他に戦力を回すことが出来る。


「つまり民間人に手を出す奴は倒してくれるでいいんだな」


「ああ」


 少し残念だが。それに関しては仕方がない。

 それほど強制力を測らせているわけでもない。


「まあ後しいていうなら少しお前の異能に興味があるからな」


 そういって大翔の近づいて顎を触り、顔を向けさせた。

 その速さにジェイドは息をするのを忘れていた。


 まさかここまで速いとは思わなかったからこそ大翔の接近を許してしまったのだ。

 リリィは悪魔をやることといいかなりの実力者なのだろうか。魔法がいない世界でどうやって実力を伸ばしたのか。気になるところが沢山ある。


「何なんですか?」


「まあ、おばあさんの戯れ事だと思ってくれ」


 話すことはないとリリィはぱっと大翔から離れtあ。


「まあ、あんまり期待しないでもらえると助かる」


 と言って部屋から出て行った。

 異世界転生、異能、そして不老不死。

 その現象の数々にジェイドは頭が痛くなりそうになる。


 とりあえず現状の確認とリリィについてこれでいいだろう。


「流河の容態は?」


「よくはないです」


 大翔は顔が曇る。

 流河は悪魔4位相手に自分の身を明かして避難者を守るために自らを囮にした。

 勇気と根性には賞賛なんて言葉よりももっとすごいものを与えるべきだろう。

 だがその無残にも心臓を貫かれ、回復魔法を当てた時には酸素が脳に届いていなかった。

 障害が残るかもしれない。


「今はガーベラさんとペルシダさんが付き添っています」


 車花の様子も悪かった。

 流河を守れなかった。彼女に取っては何よりも屈辱的、自分の力に自身が無くなるだろう。


 ガーベラにもちゃんと言わないといけないことがある。

 そのために戦って勝たなければ。


 これで情報は集まった。

 どうするか。




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