第2章35話「絶望の撤退」
大翔は川に向かって、紫花菜たちを運んだ。
今の大翔では紫花菜たちを死なさずに運び、相手を撃退することが出来ない。
紫花菜達も逃げるなら空間移動魔法でないと逃げられない。
大翔ではベルブを抑えきれない。
強い。
増援も来るも増援も紫花菜達で守ることで必死で空間移動魔法では逃げられない。
瞬間移動魔法を連続で使うという手もあるがベルブの思惑が分からない。
空間移動魔法をこれだけの人数に使えば魔力が失われる。
その後の対応が分からない。
今まだ変に大翔が離れるのが怖い。
まだ相手の事を理解しきれていない以上、相手を分析しきれてからじゃないと紫花菜たちの命が危ない。
川であれば水分を元々あるため、氷魔法が生成しやすい。
氷を作るだけでいいので、紫花菜達を運ぶ速度は上がっていく。
相手は紫花菜たちを殺してもいいのだ。
あくまで相手は大翔を捕まえようとしている。
そのために大翔を避けさせないように人質はたくさんいる。
ガスのような無差別殺人は人質の数は少なくなるのでしないが、攻撃力が高い攻撃
本当なら回避できる攻撃を回避できなくさせる。
紫花菜たちの命は全て大翔の異能にかかっている。
氷の壁をたて、威力の弱い魔法は全てそれで受け止める。
水柱を立て、紫花菜たちが入れる大きさの氷の壁を複数作って相手に攻撃を絞らせないようにして時間を稼ぐ。
相手の近距離や光魔法、そして異能の攻撃は防御魔法で受け止めるしかない。
出来るならこの悪魔を今倒したい。
単純に身体魔力も高い。そしてその精神魔力だ。
タンドレスの異能がもし使えば更に魔石を作り出すことが出来る。
でも今は無理だ。
魔力量が圧倒的に足りない。
制限を解除すればどうなるかといった感じだ。いつ魔力詰まりという爆弾がある以上何も出来ない。
悪魔の魔石があれば攻撃することも可能なのかもしれない。
だがどちらもない以上耐えるしかない。
ただ一人で紫花菜たちを守らなければならない。
細い金属の糸。
一ミリも満たない細い糸が異能のせいなのかうねうねと動く。
直角に曲がったり、糸が伸びたりしながら大翔を回りこんでくる。
それに熱を加えて大翔を襲った。
大翔はそれを腕で受け止める。
紫花菜たちを守るためには余力が必要だ。
相手は紫花菜たちに全力の攻撃を、そして大翔には足止めの攻撃を仕掛けてくる。
それが相手の攻撃の基本だ。
「何故お前はそいつらを守る」
そう大翔に聞いてきた。
大翔が面白いほど反応するからだろうか。
「僕は……仮面戦士だからだ」
「は……なんだその理由だ」
そうベルブを吐き捨てて笑った。
そう笑うほどベルブは余裕と強さがある。
しかしこちらも仮面戦士として役割を果たせてない。
全員を守るのは捨てて、ただこの悪魔を倒すのが正解なのか。
増援も来ている。
相手を攻撃し続けて相手の気が紫花菜達に向かないようにすれば……
でも子供たちにトラウマを植え付けることになってしまうのではないか。
大翔が捕まった時点で紫花菜たちの命はない。
だが攻撃をしない大翔は防御に徹底するしかなかった。
足止めの攻撃で紫花菜たちの攻撃に対応が遅れ、出来た隙を突かれて攻撃をしてくる。
相手はこちらの体力と魔力の消費を狙っている。
大翔と紫花菜達を狙い続けるだけの火力と余裕がこちらにある。
ただ相手も様子見が多い。
大翔がそれ目的ではなかったがマスクをして目が相手に見えないことだ。
相手は天使の子供だと分かっているはずだ。何か異能があると。
それがバフ系なのか攻撃系なのか、はたまた別のものなのか。
相手が異能を懸念点にし続ける限りこちらの力を削る戦い方をするのだろう。
戦いながら状況を整理する。
魔石と自身の魔力を使った魔法。そして近接術を持っている。
それを使って紫花菜を狙う攻撃、大翔を足止めする攻撃、そして大翔を削る攻撃。
三つをワンセットで攻撃を相手は行っている。
それに対するこちらの防御手段は魔剣と両手からなる防御魔法だ。
今回相手が金属を出す異能である以上魔剣で直に相手の金属物に触れてしまうと魔剣を奪われてしまう可能性がある。
また相手の攻撃はどれも王級以上の攻撃がある。
防御魔法も両手から作る防御魔法で精いっぱいな状況だ。
足止めにも紫花菜達を狙う攻撃にその二つを使ってしまい、最後の
だからどこかは先手に回ることが出来ない。
大翔はその糸を受けた。
熱を帯びた糸は大翔に絡みつき、肉をえぐる。
最低限の身体強化魔法を腕にまとわせるが、防御魔法の余力を残さないといけない分金属の糸に防ぐ出力は出せなかった。
「あ゛ぁあ!!」
思わず声を出してしまった。
身体強化魔法をまとった手でその糸を無理やり外す。
そんなタイミングで光魔法を撃たれた。
防ぎきれない。
光魔法に対して大翔は、防御魔法の壁を中に折って光魔法を受け止めた。
光魔法がそれ、紫花菜たちの周りの氷が光魔法で溶かされ、川が光魔法の衝撃によって大きな水しぶきを舞う。
相手が空間魔法で今度は紫花菜たちを挟むように移動した。
その光魔法を受け止めるのに痛みから必死だというのに。
剣で受け止めた。
その衝撃が川に二つの波を作る。
紫花菜たちはその波に氷から落ちないように必死に態勢を整えた。
だが相手は近づいてくれた。
大翔は体勢もいい感じにこちらは前向きに力を入れられている。
大翔も取りつく。
相手の異能と攻撃に一度離れるも再び取りついた。
相手の攻撃パターンは大体把握した。今なら紫花菜達が身を潜むくらいなら抑えられる。
取りつくことが出来た。瞬間移動魔法で距離を離す。
氷魔法でこの先にある岸まで運ぶように増援はしてくれた。
一気に大翔と紫花菜たちの距離が空き、
相手の攻撃に立ち位置を変えながら瞬間移動魔法で更に距離を取る。
大翔とベルブは二人だけになった。
意識するべき点はその防御と緻密な金属の糸。
相手の防御は二つの種類が在る。
相手は防御するときに金属の破片を一面にして防ぐタイプ。
それを突破する技がまだない。
一面に金属の破片を出す防御は範囲攻撃に弱いがその厚さは大翔が今一番火力の出せる空間断裂魔法も相手のその大質量の金属に攻撃を通すことが出来ない。
その金属と魔力の量が大翔の攻撃を通さないのだ。
範囲攻撃なら円形にして地震の体を全て包み込んで防ぐタイプ。
自分の周りを円形に包み込むのはこちらが範囲攻撃をしてきた時だ。
その時に塩素の成分を空間魔法で入れるという点もあるが、相手が本気を出せばそれも意味がないだろう。
複数の層を重ねて展開すれば視界を確保しながら防御出来る。
万が一その隙間を狙って攻撃を撃てる人がいても魔石を合わせた防御魔法もある。
そんな小さな攻撃、相手に届くはずがない。
相手を突破するためにはある程度の火力、速度。そして金属物に閉じこもった相手を外に引張出す魔法。
それが必要だ。
大翔はベルブに魔剣を構える。
どうすれば勝てるのかと。
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相手は紫花菜たちがいなくなった途端、更に攻撃力が増した。
特に金属の糸。
嫌これはもはや糸ではなく刃物と呼んでもいいのかもしれない。
それがとても厄介なのだ。
異能で見えるがなんにせよかわしにくい。
しかも一本一本作る精神魔力が少ない分、一度に出せる本数も多い。
異能により強固に作られているのか身体魔力を使っているのかとても硬い。
折れることなく剣でふるだけでは切れない。
剣で切ろうと思えば糸は変形して剣に絡みついてきた。
その小さな剣から更に小さな糸が大翔を突きさす。
糸が大翔を絡める。
外そうとするものも次々と来る糸が大翔を絡めて離さない。
魔石も切れた。大翔は飛ぶわけにもいかず断裂魔法で切り、風魔法で後ろに飛んで空中移動魔法で移動する。
相手は金属元素を操る異能。
それは生み出すことだけでなく、それを動かすという面でも大いに役に立つ。
金属が目の前で突然大翔の前で膨らんだ。
そして炎がその金属に伝わる。
光が包まれて大翔は目を閉じる。
異能でベルブを見る。
金属の塊が襲ってきた。
何とか回避するも
突然水に大翔は覆われた。一瞬だった。
息が出来なくなるも瞬間移動魔法と思った瞬間、咄嗟に身体強化魔法を剣と体全身を使って防ぐ。
爆発した。
「ううううう……!!」
大きな衝撃に大翔は頭が揺れて意識が途切れそうになる。
金属の塊からナトリウムとカリウムを出し、水と反応し爆発させたのだ。
水に入ってきたタイミングで気づくべきだった。
攻撃が来る。
何とか致命傷は防いだとしても爆発によって大翔は崩れていた。
隙が出来てしまった。
だが相手の異能の攻撃が自分ではない誰かが止めた。
「大翔様!!」
そう騎士の声が聞こえる。その手には黒い魔石がある。
間に合った。
間に合ったのだ。
その魔石から感じる魔力量はクローンの魔石よりも高い魔力量を感じる。
「なんだそれは……」
大翔の知っているところでは6人の悪魔を捉えた。
それ以外にも兵士を捕まえているからこそ魔石が沢山ある。
相手はまた金属物をこちらに向けて放った。
大翔達を簡単に呑み込める量の大きさを持った攻撃に空間魔法で上へ逃げる。
だがそこで光魔法を放った。
騎士は三人で防御魔法を張る。それと同時に金属物が下から大翔達を襲った。
だが防御魔法を全員を包み込んで、空間魔法で脱出する。
厚さも大きさも完璧だ。
その魔力量は人と合わせれば大翔の出力を超える。
「大翔様!! ここは任せてください!!」
「……駄目です!! 相手の異能が強すぎる。僕が…」
「魔石が揃いました!! 大翔様が戦場に出ればこの戦いは勝てます!! どうか!!」
魔石が全員に行き届いたのか。
ここから一気に戦局を変わる。
そこに大翔の異能があれば相手の数を確実に減らすことが出来る。
勝ち切れるかもしれない。
だが相手の異能はかなり強力だ。
幾ら魔石があるとはいえ正直勝てるかかなり厳しい。
相手はその物量の差よりもその緻密さが厄介だ。
多分まだ手があるのだろう。
勝てない。
時間稼ぎは出来るだろう。だが犠牲者が出てしまうかもしれない。。
チェリアのようにまた見捨てるのか。
チェリアが魔石に変わる瞬間が、その魔石が。チェリアとの記憶が脳内に再生される。
だがここで大翔が異能を使えば大勢の人が死なずに済む。
相手の状況。大翔が悪魔と対峙している時と大翔が前線に戻る時の被害の規模。
目の前にいる仲間のその目。自分を信じてほしいと願う目。
大翔は手で仲間の目を真っ暗にさせ光魔法を三人に当てる。
大翔が見えた光景を全て仲間に伝え終わり皆が頷く。
「遠距離からの攻撃に徹底してください!! 相手はまだまだ手を隠しています」
と叫んで大翔は上昇し戦局を確認した。
魔石の量、味方の数、相手の数。
これなら戦える。
大翔は全てを見た。
死体が沢山転がっている。
味方も相手も死んでいた。
負傷者がベッドの上で苦しんでいる。
そのすべてに大翔は歯を食いしばるしか出来なかった。
「すいません!! 今戻りました!!」
そう大翔は壱城に連絡を入れた。
相手の位置を知らせ、数的有利を作る。
大翔も魔石を貰い、戦場に戻る。
プルプラスは何故かリリィと戦っていた。
何故リリィが戦っているのか。
分からないが、今の所何故かリリィはプルプラスを抑えていた。
大丈夫そうに見えた。
そこに騎士たちが加わっている。
皆遠距離で時間稼ぎを徹底している。
流河とガーベラもいない。
撤退出来ているのだろうか。
とにかく今はこの戦場を押し出さなければ。
ジェイドやパケットたちを人の多い所に配置してその力をふるまってもらう。
大翔自身もロボットや洗脳された人を無力化していく。
悪魔のせいで崩れかけていた前線が持ち直していく。
相手は徐々に押し込んできた。
だからこそ今魔石が揃った今なら部隊の移動距離というのが無くなる。
大翔もまた移動距離が短くなり倒す時間が短くなる。
そうやってどのくらい時間が立ち始めた。
相手が撤退し始めた。敵が空間魔法を使い範囲内から出ていく。
悪魔もまた撤退し始めた。
どこかに武器や魔石があるわけでもない。
伏兵がいるわけでもない。
想定以上の人数の損失に相手も考えてくれたのだろうか。
分からないが相手は引いていく。
最後に何か攻撃を落とすこともない。
大翔は身体を座らせることが出来なかった。
緊張しきった体が緩まない。
剣が手からへばりついているかのように手が剣を離さないのだ。
「勝てた……」
抑えた。抑えきれたのだ。
あれほどの数を。クローンの魔石が大量に用意された相手にだ。
これは大きな成果だ。
まだベルブが残っている。それにプルプラスや五位の悪魔など上位の悪魔が残っている。
紫花菜たちは、皆は無事なのだろうか。
アインスも無事。ジェイド達も特にけがはない。
流河はどうなのだろうか。
異能で流河を探す。
「兄貴!!」
大翔は空間魔法で流河の元に飛んだ。
流河は心臓が貫かれていた。




