第2章22話「ジェイドvs親衛隊第9位」
もし大翔が死んでしまったり、戦いの傷で心が折れてしまったりしたら。
例えフラガリアを助けたとしても、フラガリアも永遠直らない傷を負ってしまう。
大翔の生存も、フラガリアの救出と同等に必要なのだ。
「だったらどうするんです」
大翔は流河から目をそらしてジェイドに目を向ける。
その言葉に怒りが含まれていた。
ジェイドはどうして怒っているのか分からず気後れしてしまった。
どうして余計なことを言うのか。そんな怒りが含まれていた。
何か別の物を感じるのは気のせいか。
「船で逃げるつもりですか」
大翔は周りを見る。
その提案に賛成する人はいなかった。
皆も分かっているのだ。逃げるより戦うべきだと。
元々民間人を背負うことはなく戦うつもりだった。
逃げることに戦力を大幅に減ってしまう選択肢を取ることは出来ないと。
戦って民間人を守れるのならその選択肢を模索すべきだと。
だからこそ大翔の意見に誰も逆らうことが出来ない。
今は作戦の方が最優先だ。
ジェイドは頭を切り替えて大翔の話を注意深く聞く。
「悪魔が前線を押してくる可能性がある以上、誰かが引き付ける役が必要です。そして戦力差を埋めるために王級以上の実力差がある人を前線に入れないといけません」
大翔はジェイドを見て、自分の胸に手を当てる。
言葉に勇気が含まれていた。
ジェイドは顔を下に向けて大翔の目を見る。
そのたびに大翔は子供だとそう知覚して。
「この中で戦い方がばれていないのは、僕とアインスとパケットさんだけですよね?ジェイドさんたちは相手に情報が渡っていて、僕より狙らわれやすい。アインスは悪魔と相性が悪い。パケットさんは僕より出力があって、僕より多くの兵をより早く無力化出来る。
悪魔が魔力の高い人を狙っている以上、相手に情報の取得と整理をさせて悪魔が出る時間を少しでも遅らせた方がいいはずです。これが一番いい方法なんです」
大翔の言っていることは一理ある。
悪魔が来るのは確定事項だ。そして来てしまったら前線は崩壊されてしまう。
大翔の異能を彼らはまだ知らない。
大翔は逆襲タイプだと彼らはまだ知らない。
情報を集め、ある程度警戒して攻撃をしなければならないだろう。
少なくとも情報を行き届いて、戦いの癖も実力も分かっているジェイドたちよりも相手は慎重に進めるはずだ。
それにジェイドたちが正体を現せれば、親衛隊の悪魔は一気にこちらに来る可能性がある。
大勢の兵士がいるのだから、悪魔がいなくても前線はある程度保つことが出来る。
相手がこちらの動きを読むために一秒でも長く戦況を確認してくれる方が、魔石をより多く確保できる。
「他に何かあるんですか?」
その大翔の声に誰も反応しなかった。
このままいけば大翔の作戦通りになってしまう。
どうすればいい。
悪魔を一体ずつばらけさせた方がいい。
もし戦士たちの所に悪魔が来ても、身体魔力だけなら前線を崩すだけで相手からの攻撃に身をひそめることがしやすい。
もし逃げられないのなら空間魔法で逃げることが出来る。
身体魔力を使っても、魔石である程度は回復できる。
だが10人もの悪魔が同時に来たら前線を維持することが出来ない。
いつかはばれてしまうかもしれないが、それまでにどれだけ相手の数を減らすことが出来るか。それが焦点となっている。
だから大翔は魔法の出来るだけ使用しないように身体魔力だけで対処すべきだと。
そしてそれを可能にするには悪魔を誰か引き付ける役割が必要だと、そう考えている。
大翔がその引付役をやるというが、あまりにも危険すぎる。
なら……
「君が悪魔に捕らえられたらどうなる。もし相手が様子見で一斉に来たらどうする。君の作戦は少し詰めが甘い」
そうジェイドは言った。
その言葉に大翔は詰まる。大翔はいろいろ考えている。
でもこの作戦は全て相手が考えた場合だ。
真っ直ぐ正面突破されていた場合、この作戦には不安定さがある。
正面突破しても勝てる戦力が相手にあるのだ。
だからしなければならないのは確実な悪魔の引付けだ。
大翔と同等の餌をこちら側から出すしかない。
「私とタンドレスも全力で戦う。私とタンドレス、そして君で悪魔を分散させる」
悪魔が何体来るか分からないが悪魔をこちらで出来るだけ対処するしかない。
そうすれば大翔の作戦は確実に機能するはずだ。
ジェイド達が本気を出せば、その分魔石の確保に繋がる。
「でもそんなことをしたら防衛範囲が…」
「だから他全員は上級魔法で戦ってもらう」
その言葉に大翔は目を見開く。
おそらく早期に攻撃を仕掛けてくるだろう。
ならこちら側の攻撃力を上げるしかない。
身体魔力だけでは限界だった此方の火力を上げる。
ハルバート達には力を一段階上げてもらう。
魔法は精神魔力と身体魔力を合わせて撃つことが出来る。
魔法を使う方が、身体魔力だけを使うよりも威力が高いまま継戦能力が高くなる。
氷魔法や水魔法、それに電気信号魔法を組み合わせることが出来れば軍人の戦闘力を簡単に倒すことが出来るはずだ。
電気信号魔法で魔力の残留子もかなり抑えることが出来た。
光魔法や防御魔法に関しては皆魔力の残留子をほとんどゼロに抑えて撃つことが出来る。
「でもそれじゃ……」
「ハルバードたちを騎士たちに紛れ込ませる。魔法の精度は上がったなら潜伏できるはずだ」
大翔はその言葉に声を出なかった。想定していなかったのだろうか。
口が全く動かなかった。
大翔のおかげでこちらは魔法を撃っても残滓が出ないはずだ。
ハルバート達なら相手に魔法を出さずに無力化させて、その後騎士たちに無力化した人を回収させればいい。
悪魔は何人か前線を突破するために騎士やハルバートの元に行くだろう。
だがハルバート達に当たれば当然戦力差は広がる。
戦力差を狭めるためには悪魔には騎士を当てなければならない。
「私とタンドレスは円の外にいた方がいいだろう。円の中に入れば騎士たちが巻き込まれる可能性があるからな。騎士たちが魔法を使えば、防衛範囲を補うことが出来るはずだ」
それには周りにも反応があった。
残酷な決断だ。命の価値を比べて判断している。
大翔は生存の可能性を増やすためにその賭けに出ている。
可能性を賭けるよりも確実性を取らなければならない。
「君の異能はアドラメイクを倒すためにも役に立つ。フラガリア様を助けるためには君の力が必要だ」
そうフラガリア奪還のためには騎士より大翔がいた方が勝率は高くなる。
そのためには騎士を生贄に捧げなければならない。
「君がいればそれまでにかかる犠牲が少なくなる。君がいればその分助けられる人が増える。だからこそそんな無謀な危険を君に持たせるわけにはいかない」
騎士たちはみな快諾してくれるだろう。
自分の命でその勝算が整うなら。
その言葉に大翔は反論することは出来なかった。
こちらの方がどんな形でも対応しやすい。
誰もそれを止めることもしなかった。
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ジェイドが引いたのは悪魔一人だ。
一人でも相手が上位なら最低限の仕事を果たせている。
が、もっと引きつけないと勝つことが出来ない。
おそらく他にも悪魔が出現したのだろう。戦況は厳しくなる。
ここからが正念場だ。
ジェイドは勝たなければならない。
直ぐにこの悪魔を倒して、次の悪魔と対峙しなければならないのだ。
だがジェイドの所に悪魔が一人だけとなると他の所はどうなのだろうか。
大翔は、タンドレスはどうなのだろうか。
大翔は狙われたりしていないだろうか。
他の所はどうだ。悪魔は何体前線に参加している。
せめて洗脳された仲間が近くにいないように、そう願うしかない。
「ジェイドさん!!」
ジェイドは防御魔法を張る。
そこに一人の騎士がジェイドに向かって空間断裂魔法で
防御魔法が破られる前にジェイドは上に飛んだ。
そこに光魔法が四方から撃たれる。
回避は出来たものもマントがその光線で少し削れてしまった。
一人の悪魔がそこにいた。悪魔は笑っている。
その悪魔とそしてジェイドの周りにいるのは大勢の戦士だ。
100人くらいはいるだろうか。
悪魔と洗脳された大勢の仲間。
この状況でなければ確実に一度下がる状況。
大技を出すことが出来ない。
まだ電気信号魔法もだ使えない。
一度で相手の戦闘不能にする数は限られている。
これだけ人が多ければ電気信号魔法で無力化することが出来ない。
使ってしまえば相手にその情報がばれてしまう。
しかも戦士を人質に出来るという状況。
かなり厳しい。
ある程度犠牲を受け入れなければならないかもしれない。
でもここにいる戦士たちはでフラガリアの意思をついで頑張っていたもの。
そして市民を守るために政治に関与せずただ鍛錬を続けていたもの。
そしてジェイドが知らないまだ20歳にも満たない騎士もいる。
此方側の世界に連れられてきたもの、それはただの被害者だ。
それを無視するのか。見捨てていいのか。
分かっていたはずなのにこの状況だからか考えてしまう。
これだけ囲まれてどうやって助ければいい。
全員が剣を抜き、ジェイドに剣を向けた。
ジェイドはいつどこから攻めてきてもいいように同じように剣を構える。
今は相手の分析だ。
見誤れば死んでしまう。相手で無策で倒せるはずがない。
そしてその騎士たちの後ろには
「お前は……フルーレか」
紫と紫色の目の女性が目の前にいた。
親衛隊9位で魔力量、実力もあって帝王級に認定されている。
その移動速度は悪魔の中で1,2の争う速さだ。移動が速ければその分体に痛みが入る。
だが相手はその強靭な体と癖のない戦い方が好みなのだろうか。
回復魔法をかけながらも何度も加速減速を繰り返すのだ。
攻撃もシンプルで空間断裂魔法と、光魔法しか使わない。
当然魔石を多く持っているはずだ。速度ももっと上がるかもしれない。
多くの悪魔こそ引き付けられなかったものも
他の悪魔以上に引き寄せたかった相手だ。
「久しぶりだな。また負けに来たのか?」
ジェイドは攻撃をかいくぐって剣でフルーレに攻撃しようとしたが、攻撃を受けてジェイドは一度引いた。
前の戦いで一度ジェイドは破れている。
ジェイドは近衛騎士で殺されそうになった時にフラガリアに助けられたのだ。
だが今は背負っている物が違う。ここで死ぬことなど許されない。
負けることなど許されない。
フルーレは大剣をぶん回して攻撃してくる。
その強靭な体と十分な加速が来る攻撃はタンドレスでもまともに食らえば致命傷は避けられない。
例え防御魔法でもこの攻撃は耐えきれない。
ジェイドは何とかフルーレの攻撃を回避する。
フルーレに気を取られている間に後ろから空間魔法で移動した騎士がジェイドに攻撃してきた。
ジェイドは剣を防いだ。
重い。ジェイドは壁へ押し込まれる。
これは後先考えていない戦い方だ。
魔石のほかに自信の魔力を使って攻撃してきた。
捨て駒戦法でジェイドの魔力を削るつもりだ。
剣をはじき返さなかった。
剣の逆刃を持って押さえつける。
ここで打ち合いをするのはまずい。
フルーレが横から仲間事魔法を撃ってきた。
そして更に接近してくる。
ジェイドは身体と剣を同じ方向に動かすことで、剣をそらして、その場から離脱しようとしてきたタイミングだ。
魔法を剣にまとわせて相手の攻撃に剣を合わせた。
だがジェイドの腹に剣が入り込む。
「ぐ……」
フルーレはそのままジェイドを押し切ってくる。
騎士たちと距離を取ることが出来、仲間を見殺しにしてしまった。
やはり仲間事殺しに来る。
助けられなかった。その感情に支配されるわけにはいかない。
ジェイドは口の裏を噛んで意識を切り替える
ビルの壁に剣を突きさして速度を軽減し、向かってきた悪魔に剣を合わせる。
地面を落ちるまでフルーレの剣劇に耐え続ける。
まともに打ち合えばジェイドが負ける。
相手よりも早く、一瞬の力の出し抜きが重要だ。
ジェイドは剣を振る。
相手が力を入れる前に力を入れて剣を押す。
腕の力を抜いて唾競り合いを自分の体を動かすことで躱して、相手の攻撃をさばく。
そしてジェイドは相手に蹴りを入れた。
体勢を整えるために一度フルーレを足場にして後ろに下がる。
魔法。後ろから4人が集まって大きな魔法が発動する。
ビルに大きな穴が空き、熱で赤くなった破片が飛び散る。
ジェイドはなんとか防御魔法を展開し、そのまま光魔法の中を通って後ろに下がり、
仲間たちとの距離を取る。
悪魔と仲間が連携している。
フルーレが騎士に指示している。
命令がアドラメイクからフルーレに変わったのだろうか。
倒せば仲間たちの洗脳の影響が出ないかもしれない。
ならばジェイドがすることは仲間を無力化するよりこの悪魔を倒すことだ。
剣術に関しては同等以上、魔力量は相手の方が上だ。
ならやるべきことは。
ジェイドはフルーレに近づく。
仲間事攻撃してくるのなら、こちらは、相手を使って騎士たちが攻撃してこないようにさせる。
威力が高い相手に近距離で攻めるのはタンドレスなら難なくこなせるのかもしれないが、何も持っていないジェイドはかなり厳しい。
相手の攻撃をさばくのに精いっぱいになり、このままでは勝つことが出来ないのではないだろうか。
フルーレは疲れたのか、それとも加速のためか。
ジェイドと距離を取ってきた。
そして騎士たちをジェイドの元に送ってくる。
視点が目まぐるしくかわる。
爆発。身体強化魔法を使って、破片に対処しつつ、爆風を受ける。
見知らぬ騎士や戦士。どのように攻めてくるか分からない。
そこにフルーレだ。その高速の攻撃をしっかり距離を取られると攻撃を受けてしまう。
防御魔法を使っても、破壊されて剣の打ち合いになる。
そして壁に押されて、そこで連携して攻撃してくる。
今はとにかく悪魔に近づかないと落ち着くことも相手を如何倒すか分からなくなる。
悪魔の元に向かおうとすると間に人が入った。
その相手にジェイドは手に力が抜けてしまう。
「父……上?」
そこにはジェイドの父がいた。
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「では行ってまいります。父上」
14年前家族と別れた時だ。
母はずっと泣いている。
何年異世界に渡るか分からない。
そしてアドラメイクに勝てる見込みはない。
死ぬ確率の方が高いのだ。
だが父は泣くことなく、力強くジェイドを送り出してくれた。
「頑張れよ」
「はい。分かっています」
「お前は家の発展の為に必要だ。フラガリア様を連れて帰って後も家の為に働いてもらうからな」
その手は震えている。
異世界に行く前何度も話し合いをした。
余りにも無謀だと。そんなことでお前が命を散らす必要はないと。
でもジェイドは折れなかった。
この国を変えることが出来るのはフラガリアだけだと。
そして国の為に命を張るのが騎士なのだと。
二人と話し合い、そして二人はジェイドに納得してくれた。
「分かりました」
そうやって別れを済ませたはずなのに。
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どうして父がこの世界にいるというのだ。
分かり切った答えなのにジェイドはあまりの衝撃に混乱してしまった。
父の目は洗脳されている。
攫われて此方の世界に連れられてこられたのだ。
父もジェイドと同じ騎士だった。
今は歳の関係から現役を引退し、騎士たちの剣の指導をしていたはずだ。
そんな父が今この世界にいる。
「お前は人間の割によくやっていると思うぞ。だがさすがにこれはきついだろう」
フルーレはそう言ってくるが、それどころではない。
父の攻撃にジェイドは押し込まれる。
父は衰えて力が出ないはずだ。
だが魔石によって衰えが無くなり精錬された技術がジェイドを押し込んでくる。
何より人を魔石に変換させることをひどく嫌っていた父がそれを迷いなく使っている。
「苦しそうだな」
それにフルーレが続いた。
父事攻撃してきたのだ。ジェイドはかわせなかった。
ジェイドと父をフルーレは空間断裂魔法を放った。
父は攻撃を受け止められなかった。
腹から血が流れ続ける。
それでも父は剣を振ることを辞めなかった。
回復魔法を使わない。このままでは死んでしまう。
父とそしてフルーレがジェイドに猛攻撃を仕掛ける。
父を切りつけ、ふり払ってフルーレに近づこうとする。だが近くにいる戦士が爆発魔法や光魔法を放つ。
「諦めれば楽になるぞ」
そう父に言われて洗脳されているのだと理解してしまう。
父親だろうと他の人と同じにすべきだ。
それは理性的にもそうだし、きっと父も同じことを言うと思う。
でもその肉声を聞くたびに、その語り掛けるのは、訓練を、家で共にしていた時と同じ声だ。
その声を聴くたびに感情がぐらついていく。
攻撃の精度は無くなり、感情は父に支配される。
「I cli !!」
そう父が叫んでジェイドに切りかかる。
ジェイドは攻撃を食らってしまった。
それは父が教えてくれた言葉。
**************
ジェイドが子どもの時にだ。
父はジェイドによく訓練を付き合ってくれた。
「お前は本当に筋がいい。しっかりと伸ばしていけばお前の剣術に誰もついてこれなくなる」
「有難うございます、父上。でも私は力がつくか不安です」
「……大丈夫さ。直ぐに大きくなるさ」
そういって父は小さく笑う。
ジェイドに取ってものすごく大事な悩みなのに笑うということはそこまで気にしなくてもいいのだろうかと。
「魔力量的にも何度か試せそうだな。断裂魔法をやってみるか」
「断裂魔法、ですか?」
「そうだ。すべての物を切る魔法だ。習得難易度は瞬間移動魔法よりも難易度が高い。そもそも魔法の属性全て適性がなければ使えない技だ」
そう言われて緊張が走る。
父の動きを着目して見続けた。
「I cli《アイ シュヴァリエ》」
そういって父上は剣に魔法を纏わせた。
父は山に剣を振った。
その剣筋に合わせて、そこまで力を入れていないはずなのに山は簡単に縦に真っ二つとなった。
その威力はすざましい。確かに断裂魔法だと言われるだけある。
ぜひともそのやり方を学びたいと思ったのもある。
だっが何より気になるのが
「どうして詠唱するのですか」
余り詠唱をせずとも出来るようにしていた。
そう父に教えられて今まで無詠唱で魔法を使えるようにしていたのだ。
「この技は騎士の奥義だ」
「騎士の奥義……」
「お前は聡く、そして優しい子だ。これから色んなことがあるだろう。だから今詠唱して覚えるんだ」
「どうしてですか?」
「断裂魔法は制御が難しく精神を統一するのが必要だからだ。例えどんなことがあっても、この魔法を使う時に言葉を使って思い出すんだ」
「騎士になった理由。騎士の心構え。それを忘れてしまった時にこの名を叫べ。全てを切る魔法、アイ シュヴァリエと。」
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ジェイドは大きく息を吸った。
自分は騎士だ。
常に冷静で動じてはいけない。
迷うことなど許されない。迷いも。
この剣は全てを切るものなのだから。
「I cli《アイ シュヴァリエ》」
そうジェイドは詠唱する。
剣が白く輝く。ただの断裂魔法だ。
さっきまでと変わらない。
でも精神は落ち着いた。
ジェイドの原動力も。今何をすべきかも。
自分は何を選択し、その責任を負うかもだ。
相手は一度下がる。
来た。
相手は速度を出すために一度加速して速度を出してから攻撃を仕掛ける癖がある。
瞬間移動魔法を使うってどこから攻撃するか分からなくさせるためだ。
それは確かに強い。だからこそその間に捨て駒で人がいる。
相手は元々一対一の戦闘が強い。
確かに有効的な攻撃を毎回行っている。
だからこそ動きが読み易い。
だからこそその加速するために距離を取る一瞬。
ジェイドは悪魔と相手をしなくていい時間が生まれる。
ジェイドは相手が後ろを動いたと同時に父上に向かって飛んだ。
相手は接近してくる。皆攻撃を仕掛けようとしている。
おかげで誰も防御的な姿勢を取っていない。
攻撃が通りやすい。
ジェイドはフルーレとそして父上達に挟まれている。
ジェイドは父上達の方に突っ込む。
ジェイドは一瞬にしてフルーレ以外の人を倒した。
「は、家族ごと切ったのか!!」
ジェイドは直立する。
そこにフルーレが攻めてきた。
かつて敗れた相手。
その速度とパワーは親衛隊でも随一だ。
だからフルーレは9位なのだ。ただ単純だった。
相手は元々気分屋だった。攻撃しているうちに気持ちが整い、攻撃が更に強くなる。
戦いに楽しさを求める相手だった。
だから彼女は今ただ調子が悪い状態で最適解をしている。
最適解を選び、調子を上げない戦い方をしてしまった。
もし相手が本気に攻撃してきたらどうなっていたのか分からない。
父がいなければどうなっていたか分からない。
ただそれだけの話だった。
ジェイドは手首を返した。
剣は円を描き剣がフルーレを貫いた。