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Another world  作者: 見海 樹
第2章「東京23区西部防衛戦」
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第2章16話「大翔の選択」


「間違えないのか」


「はい、動きがあります」


 大翔の声に皆が固唾をのんだ。

 流河もまた出来るだけ大げさに反応しないように動向を見守る。


 どうして流河はここに呼び出されたのだろうか。

 だがこの真剣な雰囲気で口を開くわけにはいかない。

 呼び出したということは多分いつか言ってくれる。

 もし何も言われなくてこの会議が終わればその時に聞けばいいだろう。


 流河自身何で呼ばれたのかどうでもいいと思うほど緊張感がある状況下だ。

 

 全方位に敵に囲まれているのだろう。相手は世界を支配しているのだから。

 世界中の軍を集めることが出来る。あのロボットもどれだけ作られているのか分からない。

 どうやって勝つつもりなのか。

 

 ジェイドは口を開いた。


「船を奪って私たちの世界に飛ぶ」


 その言葉に流河やペルシダが目を開いた。

 母さんのことを諦めたのだろうか。

 

 大翔を見る。その顔が歪んでいた。

 それはまた別の表情だ。何かあったのだろうか。


「私たちは海辺に移動する。いつでも逃げれる体勢を整えれば、相手も船を使って私達を追い込もうとするはずだ。弾薬や航空機のパーツなど不要な部分を捨てれば搭載人数より多く人を乗せることが出来る。おそらく民間人を集められるくらいの船は集まるはずだ」


「えっと……その場合私はどうしたらいいんですか?」


 ペルシダが手を挙げて声を出した。

 確かに今聞いた情報だけだとペルシダは空間魔法に入れないため、この世界から取り残されることになる。


「もちろん何名かは残る。君は今回戦わなくていい。一段落済めばこちらの世界に必ず帰ってくる」


「……やっぱり納得できません」


 大翔が声を出した。

 やっぱり。事前に話し合ったことなのだ。

 でも反論するということは


「あまりにも安全性はない。大勢の人が死にます」


 これだけの人それを船に乗せて異世界を飛ぶ。

 余りにも現実的ではない。

 そもそもミサイルや戦闘機など相手に船で乗ってどうなるのか。


「前にもいったかもしれないが他の所に行けばまた洗脳された人が何も抵抗することなく死んでしまう。周りに戦火を飛ばさないように済む方法はそれしかない」


 西部を制圧したとはいえ大きいようで狭い。逃げ道を簡単に防ぐことが出来る。かといってどこかに逃げるにも時間はない。人の脚は余りにも遅い。


「でも……」


「でもじゃない」


 そう口を挟んだのはタンドレスだ。

 その顔は少し怒っているように見えた。それは大翔に向けられていた。


「元々私たちが交わした約束は、私たちが戦闘を仕掛ける時、周りに被害を及ぼさないのが約束だ」


 その言葉に大翔は壱城を見る。

 壱城は何も言わなかった。反論することもしなかった。

 ただそれが真実ならば


「もしこちらが攻撃して相手が人質を取ったり、洗脳を解除した人で戦闘意思がなかったりした場合、こちらが丁重に保護する。だが今回のように相手が攻めてきた場合は別だ」


 つまりここで大勢の人が死んでしまっても仕方がないというのか。

 嫌それを受け入れるしかない。守れないのだ。どう考えても。


 それに彼らには母さんを助ける役割がある。


 もし核や戦闘機など異世界に渡ってしまえばそれ以上の被害者は出る可能性がある。

 本来彼らはフラガリアを助けることなのだ。

 でもそうやって民間人を守ることで自分たちの国に刃を向けられることになるかもしれない。

 彼らは異世界の人間で、自分たちの国を守らなければならない。

 

 流河には何が正しいのか分からない。口を挟むことが出来なかった。


「もしこちらが攻撃していたら助けるべき人はもっと少なかった。船で運ぶのが最良でほかに選択肢もなかったがそれで充分だった」


 最大限考慮した。

 してもまだ足りないのだ。何十万人以上の人数を助けるためには。

 大翔は何も言わなかった。


「これ以上の選択肢はない」


「今までどうやって異世界と渡ってきたんですか? それにこれだけの装備をどこにおいていたのか。訓練をどこで行っていたのか。まだ考える余地はあります」


 大翔が反論する。

 苦しそうな言い訳に思えるが、流河も気になる点だ。

 確かに隠れる場所があるのはあるのだ。

 

 第一町中に魔石が貼られていた。

 それはどうも魔法の放出を確認するもので隠しカメラと同じ所に貼られていた。

 

 それなのにこれだけの人数を、訓練も行っているはずだ。

 魔法を使ってどこに住んでいたのか。


「それは山の中だ」


 ハルバートがそう答えた。

 ハルバートも大翔を少し厳しい目で見ている。


「私たちは情報共有や仲間をここに送るために山を使っていた」


「山?」


 それは何とも予想外な答えだ。

 日本には山が7割の国だ。

 山にも魔法を感知するものが映っていると思うのだが違うのだろうか。


「異世界の人が山の中に入れば普通あたりを見回すために魔法を使う。魔法を使ってはいけないと知っている限り侵入はたやすい。でもそれはこちらの存在が知らなかったから出来たことだよ」


 パケットは分かりやすく説明してくれた。

 確かに山の中では水や光、そもそも一度上に飛んでどこに街があるか確認するかもしれない。

 それを知っていて山の中で過ごして、空間魔法で少しずつ人を運び込んでここに来たのだろうか。


「もし山に行ったとしても火の海にされて、逃げ場はない。民間人を何人かだけなら山の中に入ってもいいかもしれないけど」


 確かにその通りだ。

 そもそも数万人が山の中を歩くのは難しい。

 地上では逃げ場がないのだ。


「貴重な戦力を大勢削る覚悟で、何十万の人を船に抱え込もうとする。空間移動魔法計画も年単位でずれるだろうな」


「タンドレス」


「お前は一体何がしたいんだ?」


 タンドレスは大翔に詰め寄る。

 その顔は怒りながらもまっすぐ大翔を見つめている。

 

 ハルバートも同じように厳しい目で大翔を見る。

 そうタンドレスの立場からすれ仲間を盾にして知らない民間人を守れと、母さんの事は後回しにすると母さんの子供がそう言ってくるのだ。


 怒りも分かりはするし厳しい目をするのも分かる。


「命がどうとか言っている場合じゃない。ただでさえ魔石で戦力の差が埋まっている。お前は仲間がわけも分からないまま死ねと言いたいのか」


「タンドレス。それは違う。大翔は……」


「お前は黙っていろ」


 タンドレスはジェイドを止める。その眼光に思わずひゅと声が出てしまう。

 ジェイドは今の会話に迷いで入り込めずにいた。


 天使の子供の願いを叶える騎士として、そして母さんを助けるための組織の団長として板挟みに入っているからだろう。

 流河も入れなかった。大翔が何を考えているのか。


「私はこいつの覚悟をまだ聞いたわけではない」


 そういってタンドレスは大翔を見つめ返す。

 そう、流河に言われたことをタンドレスは大翔に言った。

 タンドレスと話した時、流河は大翔の事を頼むとそうお願いしたが、タンドレスは断った。


「あの悪魔二人を殺せたのに見逃したってそうアインスが言っていた。そして殺されそうになったこともな」


 流河はぎょっと大翔を見る。

 確かに大翔はあまり人を傷つけない。

 

 それはおそらく紫花菜の父さんを死なせてしまったというのもあるだろう。

 だが自分が死ぬかもしれないのにあの悪魔相手を見逃したというのか。

 

 誰も責めない、誰も大翔を拒絶しないというのに。


「洗脳された人は武器を持っている。洗脳を解除すれば待っているのは人を殺したという罪悪感だ。相手を傷つけても後遺症や病気も残るだろうな」


「それは……」


「お前の覚悟が戦況に影響する。もし人を殺さなければつけが回るのは他の人だ。

 まさか他の人にもやるように思ってはいないだろうな」


 どれも大翔には厳しい話だ。

 流河もフォローに入りきれない。

 

 殺すことはしたくないのはわかる。でも悪魔を殺さないのは怖い。

 血も汚れるのも、その心の痛みを引き受け入れるわけではないが、大翔には死なないでほしい。


 流河に大翔の心と体を守る考えが思いつかなかった。


「殺す覚悟がないなら悪魔相手にしておけ。作戦に関わるのは……」


「嫌です」


 そう大翔は言い切った。

 タンドレスに向けて目をまっすぐ向ける。そこには強い意志があった。


「僕は……僕は人を殺したくありません。まだ他に選択肢がない状況でもないのに人を殺す覚悟を持てない。持ちたくない」


 タンドレスの目が険しくなる。

 他の皆も憂いの表情で大翔を見ていた。

 人を殺さない。志は立派だがその志で作戦を指揮しようとするのは難しい。


「考えがあります」


 そう大翔が言った。大翔はタンドレスに向けて


「戦いの勝敗において大事なのが魔力、それは合っていますよね?」


 質問に質問を返した。

 それにこの場の雰囲気が変わる。


 ちゃんとこの場に考えを持ってきたのかと。


「それがなんだ?」


「ずっと思っていたんですよ。自分や兄貴の体は今まで魔力を使ったことのない、だったらどうやって魔力を魔法に変換するのかって」


 それは大翔だからこそ見れることだ。

 流河は魔法を撃つことが出来た。

 でもどうやって、そもそも皆どうやって魔法を撃つことが出来たのか。


 大翔は疑問に思いそれを確認したのか。


「魔力を魔法に変換する過程で色々なことが起きます。まず一つ目は体の中の身体魔力をどうやって動かすかです。身体魔力は通常放出している。それが地球と異世界の力関係の違いです。その身体魔力を上級や王級分の魔力を手に動かすためにはどういう仕組みなのか。次に何故水や火に変わるかです。精神魔力は僕の目を見ても分かりませんでした。ですが精神魔力は身体魔力を持って初めて動くものです。精神魔力に火や水といった記号を持たせると体の中に流れている間に暴発する危険性もなくはないはずです。次に魔法の打ち直しや魔法の射出速度を決める所は脳であり、撃つ場所は腕であるということ。どうやって暴発させずに……」


「その目に何が映っていたんだ」


 話の途中でタンドレスが話を切り出した。

 大翔はそれに動じず、声がどもることもなく


「この目で見て分かりました。電気信号なんです」


 電気信号。

 筋肉を動かすためには電気信号を流し筋肉に指示することで筋肉は動くとそう大翔は説明した。。

 それは地球人である流河も、異世界にいる人も変わらないということだ。


「身体魔力と精神魔力が手に集まり、最後に放出するとともに電気信号によって魔力が魔法に変換する。それこそが、魔力が魔法に変換する仕組みなんですよ」


「それが分かってこの戦いに何の関係がある」


「相手との差に、魔石の量の差がもっと大きい。そうですよね」


 大翔は直ぐに反論した。一度も言葉を詰まらせずずっと強気だ。


「でも、相手の魔石は何も罪のない人で出来ている。もう戻せることなくただ魔力を消えるのを待つしかない。それを使えば相手と同じになります」


「だから全て光魔法で壊した。一瞬でも痛みがないようにな。だから戦力差は依然としてこちらが不利だ」


 知らない情報に思わず聞きそうになったが大翔の会話を邪魔しないように押し黙った。


「ならこちらで作り出せばいいんですよ。洗脳された人も敵も全部魔石に変えるんです」


 そう大翔の説明にそれに誰も笑うことも反論することがない。

 皆言っている事が想像できない。だからこそ皆その話にのめりこむ。


「魔石の作り方は二つ。一つはアドラメイクがやった人をそのまま魔石に変える。これはもちろんやりません。僕たちがやるのは二つ目。通常の魔法を撃つのと同じように魔力を練って魔石を作る方法です」


 大翔は支配しようとしていた。

 それだけではない。相手すら利用しようと、相手を支配するつもりなのだ。

 全然違う。大翔は自分の心を守るために、そして皆を守るために考えていたのだ。


「さっきもいいましたが、魔力を魔法に変換するのは電気信号です。ならその電気信号をこちらが作れば……実際に体験してもらった方が早いでしょう。触ってください」


 そういって大翔はタンドレスに手を出した。

 タンドレスは迷いなくその手に触れる。

 

 すると水の球が出てきた。握ったタンドレスの手からだ。

 タンドレスの手から魔力は放出されている。


 その水の球はタンドレスの前にはじける。

 タンドレスの目を見開いていた。


 そして自分の手を凝視させる。

 まるで自身の意思ではないように手を見た。


「相手から魔法を放出させることが出来ます。これを使って魔石を相手の体から作り出せばいいんですよ」


 皆大翔が作った新しい魔法に驚いた。

 大翔は4本の指を上げる。

 全員が大翔の言葉に耳を傾けた。


「この魔法のメリットは四つあります。まず一つは誰であっても気絶している相手であればどんな相手にも通用すること。どんなに魔力の差があっても、相手が防御魔法を発動しなければこの魔法は通用します。兄貴がこの魔法を発動できれば、相手がアドラメイクでも魔力を魔石に変換することが出来ます」


「二つ目は相手を確実に戦闘不能にできること魔力は人それぞれにありますが、全て同じです。身体魔力に電気信号を与えれば、身体魔力が体から出ていく」


「身体魔力は精神魔力と違って、毎日作り続けるもの……そうか」


 チェリアは得心を得る。それによって大翔の提案に説得力が増していく。


「そうです。精神魔力が空中に霧散しないのは身体の身体魔力と繋がっているからだったはずです。だから限界まで身体魔力を出せば相手は精神魔力と身体魔力を繋ごうとして仮死状態になる。これなら洗脳した人を、血を流すこともなく後遺症を残すことなく意識を無くすことが出来る」


 洗脳された人を殺さなくていい。

 嫌、たとえ悪魔だろうが洗脳された人だろうが、その捕らえたすべての人間がこちらにとっての戦力となる。


 殺さないということは難しいが、楽にはなれるだろう。

 魔力量の差も埋めることも出来るかもしれない。


「三つ目は例えばこの魔法があれば魔法の作り方を体験することが出来る」


 大翔の説目に車花がびくっとした。

 流河は一瞬目がそっちに向かうが直ぐに車花は元に戻っていた。


「この魔法があれば説明することなく空間断裂魔法も、瞬間移動魔法も今の魔法も、イメージするだけで魔法を撃つことが出来るはずです。アイ……」


「本当なの?」


 車花が初めて口を挟んだ。話の途中で切るなんて珍しいとそう流河は思った。

 大翔は流河と考えていたことが同じなのだろう、一瞬反応が遅れるも頷く。


「アインスでも、近くにいた騎士にも試してみました。両方成功して、その騎士も同じように相手に魔法を教えることができました。電気信号は人それぞれの特有の物があるのですが、何とかなると思います」


「四つ目は上書きすることでおそらく魔力損失ゼロに近い状態でで撃つことが出来るはずです」


 それを聞いた瞬間車花の目が見開いた。

 でもそれに構う人は誰もいなかった。皆の目は大翔に向けられていた。

 魔力損失がない。つまり魔法を撃っても相手に気づかれない。

 魔力の損失がないということは魔力を持続させ、そして火力がその分上がる。


 何より前回のように敵に位置をばれ続ける。それがない。


「相手は世界を支配しているからこそ油断している。それを突けばこちらは悪魔の魔石を手に入れることが出来るかもしれない。僕は逃げるのではなく戦うべきだとそう思います」


 そう大翔が胸を張って言い切った。

 


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