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Another world  作者: 見海 樹
第2章「東京23区西部防衛戦」
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第2章5話「自己紹介」

 大翔は海に出た。

 何十万と人がいる中でたんぱく質がないのは死活問題だ。


 肉は当然ないが、魚なら簡単に取ることが出来る。

 空間移動魔法と空中移動魔法、身体魔力とそしてこの異能があれば避難民のたんぱく質の確保は可能だ。


「環境問題は皆残さず食べることで相殺と……」


「何か言った?」


「何でもないです。パケットさんお願いします」


「分かった。じゃあさっそく始めるね」


 魚群を見つけ、その場所をパケットに示す。

 そういってパケットは魔力を操り始めた。


 ジェイドは部下をたくさん持っていて、そして5人の仲間がいる。

 その中の一人であるのがこのパケットだ。


 パケットは魔力量が多く、ジェイド達の中で1,2を争うほどの魔力量だという。

 大翔一人では出来ない食料確保もパケットなら出来る。


 パケットは身体魔力による網を広げた。

 自由自在に操ることが出来る身体魔力は大翔の指示によって魚群にいる層までたどり着く。

 そしてパケットは網を絞め、一気に引き上げる。


 異能で確認した通り大量の魚が網の中に入っていた。

 空間移動魔法で移動するとはいえ、一応念のために氷魔法で一瞬にして冷やした。

 海から上げられ跳ねていた魚は絶対零度によってすぐに動かなくなる。


「毎回そんなに凍らせなくてもいいのに」


「……そうかもしれないですね……今回も大量です。本当にいつもありがとうございます」


「いいや、君のおかげだよ。此方こそいつもありがとうね、大翔君」


 何で笑ったのか大翔には分からないが、パケットの顔はどこか幼いとそう感じてしまった。


 *************************************


 パケットはジェイドのいる所に行った。


 パケットは頬を叩いて気合を入れた。

 頼られるように頑張ろうとそう心構えをして。


「おはようございます」


「おはようございます、パケットさん」


 そう先にジェイドのいる部屋に入っていた大翔がそう答えた。

 

 フラガリアは村の人に忌み嫌われたパケットに、同じ人間として、弟のように扱ってくれた。

 フラガリアがいなければパケットはどこかで死んでいたのかもしれない。

 

 夢に向かって生きるということも出来なかった。

 

 フラガリアはパケットに沢山の物をくれた。

 だから自分も大翔を大切にしようと。

 自分も大人になったのだからもっと人を纏めないといけない。


 フラガリアを助けるために、大翔を守るために今まで蓄えてきたものを使って頑張ろうと。


 今大勢の民間人を守るためのジェイド達が管轄しなければいけないことが一気に増えた。


 ジェイドは物資の確認をまとめた書類に手を付けている。 

 食料を確保するなら、誰がいつ取りに行くのか。

 見回りはどうするか。

 必要な医薬品はあるのか。


 そう言ったことをジェイドは纏めなければならない。


 戦いが終わって二日目。

 民間人の住まいも確保し何とか落ち着いて、これからの事に着手し始める時期になった。


 今までのままだと駄目なのだと。

 パケットも責任をもってみんなの負担を和らげるのだと。


「おはよう、大翔君」


 そう挨拶を返すと大翔は微笑む。

 その顔はやっぱりフラガリアにそっくりだった。


「おはよう、パケット。体の調子はどうだろうか?」


「大丈夫です。むしろやる気が上がっていいくらいです」


 パケットはジェイドの命によって世界中を旅してまわっていた。

 何しろ世界を支配しているのだ。


 どこにフラガリアがいるか分からず、一つ一つ確実にフラガリアがいないことを確かめるしかなかった。

 無謀とはいえ、それしかなかった。

 

 でも気分は滅入ってしまう。

 この状況も気分が滅入るとは言え、何年も虚無のような時間を過ごすよりもずっとましだった。


 ジェイドはそんなパケットに「そうか」と頷き


「それで、大翔。体は平気か?」


「はい、問題ないです。自分は何をしたらいいんですか?」


 そう大翔はジェイドに協力を申し出た。


 大翔はフラガリアの子どもであり、この中での権力者となる。

 だが14年間ジェイドはフラガリアを助ける為に指揮を執っていた。

 大翔はこちらの勝手も分かるはずもなく、結局大翔はジェイドの下でその力を振る舞うこととなった。


 そんな大翔は背中に別の剣を抱えている。

 大翔が所持していた魔剣はまた別の人に回している。

 あの剣は非戦闘時にも役に立つ。

 そして髪が水気を帯びているのを見るに、素振りしてから一度体を清めてここに来たのだろう。


 朝から訓練を自主的に行っていたのだ。


「そうだな……まずは魔力を慣らすことが先決で体を休めていつでも戦えるようにしておいてほしい。今君に頼むことはないな」


 ジェイドはそういって大翔の協力を断りを入れた。

 大翔の身体の安静が大切だと。

 

 大翔は今まで魔力を使ってこなかった。

 おそらくフラガリアがそう望んだのだろう。


 大翔が平穏な生活が送れるように。

 魔法を使わなくても生きていけるように、戸籍もどうにかして入れ替えたのだろう。


 フラガリアの意思を反することになってしまうが状況が状況だ。


 大翔が魔力を自由自在に扱えないと自分の身を守ることが出来ていない。

 といっても大翔は今魔力を自由自在に扱うことすら、むしろ自分を傷つけてしまう状況だ。


 今の大翔の状態は、魔力を水で例えるなら、永遠に蛇口から出る水を口に入れて何とか体で塞いでいるようなものだという。


 水は永遠に出続けていて、それを完全に止めることは出来ない。

 栓を緩めば大量の水が体の中に流されていく。

 体の中の水を消費してしまうと勝手に栓が緩んでしまう。

 そして大翔の体は水で溢れそうになっている。


 体に入れ続けた水は身体を傷つけ、いつか体を全身が破れるように破裂してしまう可能性が大翔にある。


 栓を緩める加減を大翔は知らない状態なので、栓を緩めると想定以上の水が出て一気に水が出て体に傷ができてしまう。

 だからゆっくり時間をかけて、水抜きと栓が外れてもその水量に耐えうるだけの強い体が必要になる。


「今様々なことで魔法を使う。いつ戦闘が来るか分からない以上君は力が温存してほしい」


 大翔はもし戦いが始まった時にはその姿を皆に見せてもらう必要がある。

 フラガリアの子供が戦うことで皆の士気が上がる。


 ただでさえ魔力消費が激しく戦力が整わない今、いざという時に大翔が魔石で体に蝕むことがあればでは皆に不安が残ってしまう。


「でもやらないといけないことはたくさんあります。目を使う事なら何か役立つはずです」


「異能か」


 異能。


 どうやってその力が発現するのかはまだ不明だ。

 今分かっていることでいうと、異能は天使や魔人の血を持つものしか異能は発現しないこと。

 ペルシダに関してはそもそも情報を読み取ることが出来ないので何とも言えないのが現状だ。


 その力は基本的に重宝される。

 異能にはたくさんの利点があるからだ。


 一つ目に魔法とは別であること。

 通常魔法は左右の手から発動する。

 魔法は速度、大きさ、数など調整しなければならない。

 足に力を入れることが出来ても、字を書いたり物を上手に扱うことが出来ないように身体魔法は全身で使うことが出来る。

 対して魔法は基本的に両方の腕から一つずつしか使えない。


 そんな中異能は身体魔力のように両手から魔法を放ってもそれとは別に異能を使うことが出来る。

 異能が攻撃系なら択が一つ増えて、相手にはその択を考えなければいけないので脳の容量に負担をかけさせることが出来る。


 二つ目に発動時間がほとんどないこと。

 本来魔法は使うようにするために詠唱する必要がある。また大技になると魔力を貯める必要がある。


 理由は分からないが異能を使うにあたって身体魔力を使う必要がない。

 精神魔力を体から引っ張る時間や身体魔力を消費しなくてもいいので、基本的に異能はほとんど半永久的に使うことも出来る。

 また異能を使うまでの時間というのがない。

 

 三つ目に精神魔力が増えるということ。 

 精神魔力を体から引っ張るのは難易度が高くでそこでつまずく人も多い。

 また扱う魔法が強くなり消費魔力量が増えるほど、その分引っ張る力が強くなくてはならない。

 魔力消費量の多い魔法を撃つ場合頭の中にあると言われる精神魔力を身体魔力によって腕に引っ張らないといけない。

 だが異能を持っていれば自分の精神魔力と異能の精神魔力二つを軽い力で引っ張ることが出来る。

 異能を持った人は大抵次の階級の魔法が使えるのも一つの利点だ。


 この状況に置いては大翔の異能は大当たりと言っても過言ではない。

 まず相手の魔法の軌道を読めることで自衛力が上がる。

 元々魔力量もかなり多いので守りも回避も出来る。

 相手の魔法をコピーして、常に適応することが出来る。


 まさに生きる為に特化した異能だ。


 ジェイド達が大翔を守る必要がほとんどなく、戦力を消費、分散しなくても済む。

 相手の位置や数の確認、食料確保にも役に立つ。

 特に水や非常食など家のどこに置いてあるのか、腐っていないものの分別など分からないものを回収できたのはかなり大きい。


 また異能の範囲もすさまじく、

 人探しという点ではその範囲は何倍にも広がっていく。



 大翔によってフラガリアの体を発見できた。


 しかも日本にその体は保管されている。

 脈も動いている。フラガリアが生きている確率はかなり高いと。

 

 その言葉は皆のやる気を高めることとなった。

 今はフラガリアを奪還することは出来ないが、出来るかもしれないという希望は大いに士気を上げることになり今は皆士気が上がっている。

 

 相手がどのように動いているのか、相手の数がどれくらい増えているのかも分かってしまう。


 異能についてはまだ二日目なので全てを分かったわけではないが、おそらく他の事にもその異能が役に立つだろう。


 ただ、まだ二日目だ。

 大翔には既にたくさんの事をやってもらった。

 

 そして傷こそ治ったものも大翔も重傷を負った。

 心の整理や辛いこと沢山大翔に負担をかけてしまったのだという。


 更にお願い事をジェイドはするのだろうか。

 もしジェイドが大翔に何か頼むであれば、パケットがその代わりをやろうと思っていたが


「なら自己紹介を兼ねてこの空間内で私たちが行っていることを見てもらおうか」


 と少し軽いものをジェイドは大翔に与えた。

 そういえば軽く自己紹介しただけで、詳しいことはあまり話し合ってもいなかった。

 初日に顔合わせをした後、皆一日丸ごと現状整理で潰れてしまった。


 戦いに置いて連携というのは大事だ。

 アドラメイク、親衛隊との戦いは苛烈になる。


 そうなったときに連携して戦えるようにお互いの事を、その戦い方などを知った方がいいだろう。


 そして今の大翔に与える仕事にはちょうどいい。


「そこで何か自分が出来ることを探せばいいんですね」


「まあ、そうでなくてもいいんだが……パケット。案内してやってくれ」


 それこそいきなり一回り年が上の社会に入ってきたのだ。

 どこまで気を緩んでいいのか、自分は何をどこまでしたらいいのか、どこまで頼っていいのか分からないだろう。


「分かりました」


 そしてパケットは大翔と話し合いが出来るチャンスが出来た。

 大翔はパケットを向いて近づいた。


 パケットはジェイドに挨拶をした後、部屋に出て二人きりになった。



「よろしくお願いします」


「よろしくね、大翔君。改めて、僕の名前はパケット。僕は一応ここでみんなを纏める役割を担当しているよ」


「纏めるってジェイドさんもやっていますよね。何を纏めているんです??」


「あぁ、それはね…」

 

 大翔は真っ当な質問を返した。

 確かに少し説明不足だったのかもしれない。

 それとも会話の返しにちょうど良かったのか。


「ジェイドさんは戦闘とか医療とかそういったこともまとめてやるよ。僕は人事とか、食糧や衣服など雑用とかも担当しているかな」


 民間人や自衛隊など多くの人が入って、ジェイド達は仕事を分担しなければいけなくなった。


 一つ目は戦闘。

 作戦を考えたりや訓練を行ったり。また見張りなどもやってもらっている。それの振り分けをしないといけない。


 二つ目に医療。

 医療設備を増やす必要がある。生き残ったのに亡くなってしまったというのが何度も起きた。

 そして今病気などのまた別の問題もある。

 回復魔法があるとはいえ、病気などの治療法はあるにはあるが、薬や医療設備で解決できるなら、魔力をそこで消費したくない。


 そして最後に人事や食料などの雑用。

 他にも街の復旧だったり、食料や日用品などのチェックだったりもしている。


 そして民間人の不満。速くフラガリアを助けたいと叫ぶ14年間この世界にいてくれた仲間の不満の解消。


 特に仲間の不満に対して今パケットは取り組んでいる。

 難しい問題だ。民間人を捨ててフラガリアを助けるべきだという声もある。


 当然、こちらにパケット達だけが持っている拠点がない。

 ここは自衛隊とジェイド達の拠点だ。

 フラガリアを助ける為に民間人と自衛隊を捨てて新たな場所に移れば、結局民間人を送ってくるかもしれない。

 疲弊の問題もある。


 ならどれだけ民間人を送り込もうが一緒に協力してくれる自衛隊の中は継続していきたい。

 

 だから仲間に今の現状を説明しているのがパケットの役割だ。


「そうなんですね」


 大翔はそういいながらパケットをじろじろと見ている。

 何かその異能でパケットの体を見ているのだろうか。

 実際に異能を使っている場面を見たことないのでその頭に何を浮かべているのか分からない。


「パケットさんって母さんの何なんですか?」


「どういうこと?」


「僕の年齢とパケットさんの見た感じの年齢。アドラメイクと戦っていた時は子供ですよね? 親戚とか…」


 確かに大翔に関係性は分かるはずもないだろう。

 パケットがここに来た時はまだ成人もしていなかった。

 そしてアドラメイクを一度フラガリアを倒した時まだパケットは戦いなど行ったことがない。


「違うよ。僕は魔人、天使、人間の三つの血があるんだ」


「それは……大変な思いをしたんじゃないですか」


 大翔は言葉に詰まった。

 それについてはもう過去だ。今は……


「そうだね。でもだからこそ僕はつなぐ架け橋になりたい。天使の血と魔人の血を持っている僕だからこそお互いの手をつなぎ合わせることができるんじゃないかってそうしたいんだ」


 長い間争い続けた。

 互いに命を奪い合い、家も街も破壊し合った。

 生まれてきた子供を戦えるように訓練させて、子供を産ませ、またその子供を戦えるように訓練させた。


 そんな争いをずっと続けていた。


 そんな二つの国をパケットは両方過ごした。

 そして分かったのだ。


 天使も人間も魔人も変わらないと。


 争う必要はない。

 憎しみや悲しみを抑えて手を取り合わなければいけない。

 そうしないと負の連鎖は終わらないと。


 だからこそフラガリアを助けて、王にする。

 魔人側の人たちが差別されないようにして、和解できるように魔人側もそして王国もまとめ上げるような役割に、パケットは担いたいと。


「すごく優しい夢ですね」


 そういう大翔の顔は微笑みを浮かべていた。

 その微笑みは、その心は10年以上前パケットに向けてくれたフラガリアの微笑みと全く同じで。


 フラガリアと全く同じことを大翔は言った。


 大翔がフラガリアの子供だと、パケットにそう思わせたのだった。

 

 10年以上探し続けた。

 もう諦めの雰囲気もあった。

 フラガリアは殺されてしまったか、魔石に変換されたか。もう帰って活動をした方がいいのではないかと

 

 でも、ここに希望があった。

 フラガリアが生きて残してくれたものが。


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