第1章0話「この世界の始まり」
意識が目覚めていく。五感が目覚めていき、そこに情報が入ってきた。
音が聞こえた。
「すげーコスプレ」
「クオリティやべ。ていうか熱そー」
「何で交差点の中央にいるの? 赤だよ?」
光を見えた。
暗闇から薄く白い光が見えた。光のある場所にいるのか。
聞こえた。見えた。臭いがした。
地を踏む感覚があった。温かさがあった。
そしてこれは生きているのだと知覚する。
ゆっくりと自身の意思で感覚を制御していき、体を制御していく。
手に意識を集中させる。両手は目の前に来て、動かすこと折り曲げることが出来た。
下を見る。四肢と血ひとつもついていない体がある。
人が大勢いる。
少なくとも百人以上の数が近くにいる。
多すぎて一人一人何が言っているのか分からない。
でも誰も自身を見て叫ぶことも、遠ざかることはあっても逃げることはしない。
―――何だこれは。
目を上に開けるとそこには、 見たことのない景色だった。
炎もない。血や焼けたにおいもしない。
そして、見たことのない服。
手には見慣れない金属物らしきものが、沢山の人が似たものを持っている。
そして、建物は、圧巻と言い様がなかった。
こんな高い建物は今まで見たことがない。
更には空には大きな鳥のような物体が飛んでいる。
そして、ここには魔力の気配が全く感じない。ここは、一体…………
街にいる人達は、板をこちらに向け、あるいは無視した。
そこは奇妙と言えばいいのだろうか想像に付かない。
まるで別世界だった。
何もかも分からなくなる。
ここはどこなのか。どうやってここに来たのか。そもそも自分は誰なのか。それすら分からなくなってしまう。
自身の認識すら出来ない。
周りの大きな不快音が聞こえないくらいそれくらい異常事態だった。
記憶が頭の中によみがえってきた。
自分の名はアドラメイクだということ。
魔王として国を支配し、そして戦いを……
そうだ。
ここに来る前、戦いがあった。
お互いに叫びながら、風が、炎が、氷が、結晶がその戦場で舞い、散っていった戦いがあったこと。
首を切られ、その額に剣を突きたてられたことを。
アドラメイクは死んでしまったことを。
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アドラメイクと白金の髪の色をした女性。
その二人が持つ剣と剣の打ち合いが宮殿で繰り広げられている。
白金の髪の色をした女性、フラガリア。
フラガリアの白い服には所々黒いすすや血に染まっている。
対するアドラメイクは、服は綺麗だがその気分は最悪だった。
宮殿は炎に包まれて、炎にそまった屋根が天井から落ちてくる。
城が堕ちるのも時間の問題だろう。
「ハアァー!!」
フラガリアが一歩前に進む。
その一歩で一気に目の前に現れた。
剣を横に振ってきた。空気が切れ、風が上がった。
「!!!」
首が切られると本能で感じたその瞬間、剣を縦に振る。
鉄と鉄のぶつかる音が宮殿に響き渡る。
互いに敵意と殺意をむき出した目と目でにらみ合う。
「アドラメイク!!」
フラガリアはそう叫び、上に剣を押し上げてきた。
腕を上げられたせいで、少し体勢が崩れる。
力の押し合いに負けてしまった。
「ショー!!」
「スイッチ!!」
体勢が崩れたその時、聞き慣れない言葉が聞こえた。男の声だ。
その声はフラガリアの後ろから来た。目を向けるとそこにいたのは黒髪の男だった。
そのショーと呼ばれた黒髪の男はフラガリアの所まで走り、そして跳んだ。
体勢が崩れたその時で上
から攻めてきた。
ここで黒髪の男の攻撃を受け止めても、フラガリアの攻撃を受け止められない。
そう判断し後ろに下がった。 しかし戦場に加わった男は追撃の糸を止めなかった。
黒髪の男は、そのままフラガリアの前に来た。
フラガリアは体の支えを、足から手に変えた。
身体を倒し、フラガリアは足を曲げ、足の裏を黒髪の男の足の裏に合わせ、蹴り飛ばしたのだ。
予想外の距離の詰め方に少し反応が遅れる。
相手が着地するまで余裕が出来たと気を抜いてしまった
相手は一歩踏み込める。アドラメイクの想像以上に距離が詰められる。
元々フラガリアが少し体の上向きにかけられ、そして少し聞きなれない言葉に意識をそがれていたのだ。
その隙を相手は見逃さない。
黒髪の男はその推進力で切り飛ばそうとする。 防御しないと死んでしまう。
後ろに下がって剣で防御の構えを取って対応しようとした。
近づいた黒髪の男が剣を横に振ろうとした、その瞬間奇妙なことが起きた。
剣がすり抜けた。
驚きで判断が遅れる。正常な判断が出来なかった。
それだけが正常な判断を出来ない理由ではない。
近づいた黒髪の男はそのまま突進してきて、そして体もすり抜けた。
すり抜けた相手はそのまま反転して、アドラメイクに切りかかる。
アドラメイクは思わず振り向いて、対応しようとした。
だがそれは、悪手とすぐに気づく。
「くっっ!!」
前を見ると、フラガリアの剣は光に覆われていた。魔法だ。 挟み撃ちにされた。
やられた。
フラガリアは剣先をアドラメイクの心臓に向けて、突進していた。
あと1秒早く気づいたら、そんな幻想は考える暇なかった。
光をまとった剣が襲ってくる。1発、2発3発。こちらも剣に魔法を纏わして、剣を振り、剣先を剣先に当て応戦する。
しかし、4発、5発のとこで、姿勢が突然崩れた。
知覚できないと思った瞬間、刃が二度通る。
背後を取っていた黒髪の男が姿勢を低くして、足を切ったのだ。
支え方を変えなければならない。その隙を見逃してくれるはずがなかった。
フラガリアの剣はそのまま腕を肘ごと焼き飛ばした。
「ちぃ!!」
せめてもののと、光魔法をフラガリアに向けるが、意味をなさなかった。
それよりの足を切り飛ばした黒髪の男がフラガリアに触れる。
光魔法は、二人をすり抜け、後ろの壁を溶かすだけの結果となってしまった。
その間にアドラメイクは更に後ろに下がり、自己治療をする。
切られた部位は治療した後、一旦塞ぐ。魔力で腕と足を作る。
魔力もだいぶある。まだまだ持つだろう。まだ勝てる。
「終わりだ、アドラメイク」
「裏切者の悪魔め」
黒髪の男に向けて、そう吐き捨てた。
それに黒髪の男は少し反応があった。目が少し歪む。
だが息を吸い、しっかり目を見てきた。そこにためらいはない。
「あぁ、そうだ。僕は裏切って、大勢の仲間を捕え、そしてお前を殺す」
「そして、世界を平和にする。それが、私達の使命よ」
「……罰は受けるつもりさ」
「ショー…」
悪魔と呼ばれた男は少し顔が険しくなる。それをフラガリアは心配そうに見る。黒髪の男は安心させるかのようにほほ笑む顔をフラガリアに向けた。
そしてアドラメイクには覚悟と殺意の色に染まった目を向けてきた。
再び緊張が高まる。
黒髪の男とフラガリアの剣が魔法の色に染まる。
黒髪の男は光を飲みこむような黒に。
フラガリアは光輝く白に。
アドラメイクも魔法の撃つ準備をし終えた。
「来い!!!」
自身の周りに氷柱が広がっていく。それに風魔法で速度と回転数を上げる。
それらを二人に向かって射出した。
二人は最小限でかわし、剣でさばく。
それでも攻撃を続けた。
どんなにかわされて近づこうとも二人を魔法で攻撃し続けた。
岩柱が地面から二人の命を狙う。火に包まれた風が二人を焼け焦さんとする。体より何倍も大きな氷柱が息の根を止めようとする。
しかし二人の勢いを、剣を止めることは出来ない。
二人の剣が体を貫かんとする。その剣はアドラメイクの肩で止まった。
何かを察した二人は、アドラメイクから離れようとする。しかし、それよりも放つ魔法の方が速かった。
自身の周りを、魔法が全て飲み込んだ。
それは、城を飲み込むほどの大きさで、光が見えなくなるほどの魔力を使って相手を確実に殺そうとしたのだ。
攻撃を受けてでも相手を引き込んだのだ。
二人の気配はない。殺せたのだろうか。
アドラメイクは息をついた。手下も、何人か巻き込んでしまった。
でも直前で魔法を撃てる余裕もなかったはずだ。だがこれで…
―――寒気。
後ろを見た。そこには、あの二人が剣を構えすぐ傍に…
まずい。そんな言葉を考える暇すらなかった。
―――死ぬ。
二人の剣は脇から肩まで大きく切り裂いた。
肉が切れ、血が大量に飛び出て、中から臓物が体から出ていく。
そして、黒髪の男はそのまま一回転して首に刃を入れる。
防御することは出来なかった。
頭が飛び、首からは、血が噴水のように湧き上がる。
目が自身の首の断面図が見え、そして徐々に体、そして足へと移っていく。
地に落ちることなくフラガリアの剣によって剣先が目の前に現れる。
薄れる意識の中後悔と生の欲望が残った。
―――終われない。こんなところで死ぬわけにはいかない。まだだ。 まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、だ、まだ、マダ、マダ、マ……………
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そうだ。
アドラメイクは死んだのだ。首を切られたはずなのだ。
だが生きている。額から血が出ているわけでもなく、体も首が切られる前、フラガリアと戦う前に戻っている。
そしてアドラメイクはどこか知らない場所にいる。
――――――そうか。
そして時は数十秒立っただろうか、アドラメイクはいつのまにか上を見上げた。
何十年ぶりだろうか、高揚が顔に隠しきれない。
今口を大きく開けて笑っているだろう。周りのけたたましい音にも反応が出来ないくらいその位の高揚感に包まれている。
アドラメイクは国だけでなく世界を統べることが出来ると。
その心の高鳴りのままにアドラメイクは行動に移す。
アドラメイクは両手に魔力を込めてこの世界に放った。
赤い光が街を、世界を包んだ。




