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Another world  作者: 見海 樹
第1章「変動の世界」
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第1章13話「ロボット」

 流河達は避難所に向かう途中、ロボットに踏みつぶされそうになった。

 ロボットはこちらに向かってくる。


「ロボット!!?」


 義信もさすがに衝撃隠すことが出来ない。

 大きなロボットがこちらに向かって走ってきている。

 

 大体15mくらいの金属物がスラスターを吹かせ、その手には銃器を持っているのだ。

 デザイン的に量産機系のロボットだろうか。

 

 さっきまで、ファンタジーの世界だったのに今度はsfの世界を見せられている。

 

 余りにも非現実的。というよりなぜ魔法が使えるのにロボットがあるのか。

 

 でもそんなことを考えている場合ではない。

 分かることは距離が縮まっている事。

 相手は武器を持っていて、このままでは追いつかれる。


 間一髪だった。

 車花がいなければ、流河達は踏みつぶされていた。

 

 この短時間で二度も死ぬと思ったことは初めてだ。

 まだこっちの方が現実的ではなく、立ち直りは速かった。


「ペルシダは!?」

 

 そう、やっとロボットと死について脳が処理出来た所でペルシダを探す。

 どこにいったのか。

 顔を外に出して周りを見る。

 

 ペルシダは魔法を無効化する。

 流河達を空間魔法で相手の攻撃を回避するためには車から離れないといけない。

 

 外に顔を出すとペルシダは遮音壁にくっついていた。

 

 そして足から青い光が出てきたかと思うと、跳んできた。

 そして車の天井を大きな音を立てて着地する。ほっと息を吐くのとペルシダは振り向いて


「駄目!!」


 そう叫んだ。

 

 衝撃と驚愕の空気は一転、張り詰めた空気に代わる。後ろについていた車だ。

 

 流河達はおそらく魔法で脱出することが出来た。

 でももう一つの車、後ろについていた地球連邦軍の人たちはまだロボットの後ろにいる。


 ロボットは車を進む方向を邪魔した。

 

 何とか横に切りロボットの前に通り過ぎることは出来た。

 だがロボットの距離は取れてない。


 このままではまずい。

 もう一つの車には誰も魔法使いが載っていないのだ。

 

 銃を撃っている。カメラに向けて弾は外していないが、でもあの装甲はびくともしなかった。

 カメラがある空間が爆発した。手りゅう弾かロケットか。


 でも意味はなかった。

 黒い煙から赤い光が漏れ出て、カメラが車を捕える。

 煙から抜け出し、車を追いかける。

 

 車花は魔法を出そうとしていた。

 黒い穴が車の前に少しずつ広がっている。車は加速してその穴に入ろうとした。



 だがそれよりも早くロボットは車を弾き飛ばした。


「あ……」


 車は宙に大きく浮いて、回転する。


 その窓には血がべっとりついていた。

 どうして血が舞っているのか。


 あの中には人がいたはずだ。たくさんの人が銃を撃っていた。この車に人を固定する機能はない。


 それが急激な横にかかる圧に人はどうなるのか。電車でカーブするよりも強い力がかかってしまえば、人と壁に挟まれて、その間の人は……


 そしてロボットは持っていた盾で車を突き刺した。

 車はガソリンに引火したのだろうか爆発した。


 熱い風が当たった気がする。

 

 ロボットはこちらを向いた。

 まだ戦いは終わっていないと、さっきと同じくこちらに視点を合わせるかのように、カメラを調整していた。


「……速度を上げろ!!」


 呆然としていた。

 体が動くことが出来ない。


 義信の声と共に車が加速する衝撃で、ここが現実だということに気づく。

 その加速によって一瞬にして体がよろめいた。

 前に倒れて足が車の外に……


「顔を出すな!!」


 義信に体を引き寄せられる。

 体が加速する車に耐えようとしていなかった。


 体を隅におかれ、足で固定されている。


「俺…何を…」


 何を言ってしまったのだろう。

 

 流河は身を外に出していた。

 

 紫花菜達を守るためだ。

 何もしない方がいいかもしれないが、それでも何も知らなければ何か小さなことでも出来ない。

 

 でもそれだけではない。わずかながらに好奇心があったからだ。


 それは恐怖や大翔の庇護からの反発だけではない。


 心の中に魔法という世界に少年魂があった。

 もし魔法が使えたら。

 子供の時にヒーローみたいになりたいと思うのと同じだ。


 自分の体より何倍もの大きさの火の玉を自由自在に操る。

 空を駆け巡り、鳥のように自由になれると。


 そんな体験を自分もしてみたいと。


 あの死の恐怖を忘れるためなのか。それとも馬鹿だからか。ファンタジーに夢を見ていた。


「死んだ?」


 でも今のこれはなんだ。これが現実というのか。

 大翔に紫花菜達を守ってほしいと言われたばかりだ。


 なのに目の前にいる人に何も出来なかった。


 あの中に10人も人がいたのだ。

 それが爆発して誰もいなくなった。体など一厘も残っていない。

 

 彼らは死んだのだ。死んだ。たった数秒で。あんなにあっけなく。


「……」


 この戦況に目を合わせるしかなかった。

 新しい情報を入れなければ、自分が壊れそうになってしまいそうだとそう知覚して。


「よくも!!」


 車花の怒りの声が聞こえた。

 ロボットはこちらに銃器を向ける。それは戦いの合図だった。

 

 あんなに遠いのに銃口に穴が空いているのに目が見える。

 

 車花は前に大翔と同じ大きな白い壁を展開した。


 車を覆うように強く厚く。


 そしてロボットは銃を発射した。


「きゃあああああ!!!!」


「うわああああ!!」


 壁に弾がぶつかる音が何十回にも耳に響く。


 自分も思わず目を背けて耳を塞いだ。

 

 音が違った。

 それに着弾すれば爆発したかのように。

 煙と破片が防御魔法の壁に引っ付いていた。


 紫花菜達の悲鳴が普段話しているときの大きさぐらいになるくらい銃の音が大きかった。


「ペルシダ、魔力防壁は!!?」


「……いけるかも!!」


 車花がそう指示している。


 何もしていない。

 応援することも目を向けることもできなかった。

 ただ流河は蹲るしか出来なかった。


「はあぁ!!」


 とペルシダの大きな声と共に車花が出した壁に重ねるように大きな青い壁が出来た。

 壁は更に厚くなり弾を弾く音が小さくさせる。


「なんだ、あの銃……」


 義信の声が聞こえ、安全性が確保されたことに気が付き、ロボットを見る。

 銃のマガジンを入れ替えながらも近づいて来る。


 流河は立ち上がることが出来るくらいには落ち着いた。


「ペルシダ!! 解除!!」


「分かった!!」


 車花は攻撃を開始したのか。


 顔を外に出さなくても何か茶色のドリルが見えた。

 土魔法だろうか岩がドリルとなって回転し、更に先端が赤くなっていた。


 熱で相手の装甲を溶かし打ち破るつもりなのだろう。


 そのドリルを勢いよく発射された。大きな音と風が車の中に駆け回る。

 ドリルはロボットの所まで飛んでいき、大きな音と共にそして砕け散った。

 衝撃で持たなかったのだろう。


 だがあれだけの巨大な魔法だ。相手を撃破すると楽観視するわけではないが、

 装甲がへこんでいるはず……


 ロボットは無傷だった。

 硬い。さっきの悪魔を殴ることが出来ていた分、車花は攻撃力があると思っていた。

 でもロボットに変化はなかった。


 ロボットの前に何か壁がある。


 あの青い色はさっき魔力防壁といわれていたやつだ。

 あの攻撃でも届かないというのか。


 どうするのかと思っていたら、車はジャンクションに入ることが出来た。


 ロボット分の高さはなかったのか、ロボットは追ってはこなかった。


 影が流河達を包む。姿を隠せる。


 さっきの空間魔法を使って車線を変更すればあのロボットから撒ける。

 ペルシダもどこか目印を立てて合流することが出来れば誰も死なない。


「車花!! 空間魔法を!!」


 使えと、車花に声をかけようと思ったその時、ロボットが上からジャンクションを壊しながら

 急速に接近してきた。

 

 その距離は3メートルを切っている。

 

 耐えがたい恐怖が体をむしばむ。

 流河は再び車の中でうずくまってしまった。

 紫花菜達に体を寄せてしまう。

 

 距離が縮まっていく。


 車花は魔法を撃つが、攻撃が全てあの壁によって防がれている。


「これ!!」


 大和の声が聞こえ、目を向けていると持っていたのはアサルトライフルだった。

 でもそのアサルトライフルの銃口の下の部分にまた別の発射口がある。


 その意味を理解したのか一人の女性が手に取り射撃の準備をする。


「車花さん!! 目を閉じてください!!」


 軍人の一人が銃を構える。

 出来るだけ相手に気づかれないように殺意を消して。

 

 そしてロボットとの距離が一メートルを切ったぐらいに、軍人はカメラに向かって引き金を引いた。


 狙いは成功した。

 その弾は爆発して大きな光を発した。目を閉じても昼間のように感じる。

 閃光手りゅう弾をグレネードランチャーで撃ったのだ。


 車は横に移動して、道を逆走する。

 ロボットは逆に加速して真っ直ぐに走った。


 距離を取ることが出来た。


 おそらく直視してしまったのだろう。

 加速して踏みつぶす算段だったのか分からないが相手は目をやられたのだ。

 


 その間に車はジャンクションを抜け、トンネル内に入った。逃げることが出来たのだ。


 二人は下に降りてきた。車花は特に汗だらけだ。魔法を使うのがそこまで大変なのだろうか。


 そんなこと思っていると車花はシャツを突然脱いだ。

 何をしているのかと思えばその服を破り、銃に巻き付ける。


 そういえば車花の今日の服は白のシャツだった。


「義信さん。これを掲げてください。私の名前を言えば保護をしてもらえるはずです」


 義信は顔が険しくなる。

 気を抜いていい時間に義信は顔を険しくする理由とは何なのだろうか。


「君がいなければこちらの反撃手段はない。何か理由でもあるのか?」


「魔法を使う時、制御が上手くないとあと残りが出てしまうんです。あのロボットは今も私をそのあと残りで追いかけているでしょう」


 そういわれて意味を理解した。

 義信たちの顔。そして白い旗に見える服と銃。

 

 車花の言っている事。

 囮になろうとしているのだ。


「ちょっと待て!! 囮になるつもりなのか?」


 思わず二人の会話に割って入ってしまった。

 今の車花は漫画である力のない弱き物を助けるために自分の命を犠牲に時間稼ぎをする人と同じ発言をしている。


「違うわよ。私一人のほうがやりやすいからよ。空間魔法も私一人なら魔力を消費しなくて済む」


 それもまさしく死ぬ人のセリフだ。

 だが車花はさも平然とそう答えた。そこには恐れも震えも見えなかった。

 死に対して何も思っていないのか。


 それは異世界から来た人だからか。

 

 確か車花は力がある。

 空間魔法や防御魔法を使えれば今の流河ほど恐れることも震えることもないだろう。


 でも車花は勝つとは言わなかった。

 ロボットと戦う機会なんて、そもそも戦う機会なんてあったのだろうか。


 異世界のことなど知らない。そもそも実戦なんて車花はやったことがあるのだろうか。

 それを追求する。


「相手はお前の攻撃を防いだ。何か考えでもあるのか?」


「考えはないわ。でもなくても近距離ならやれる」


 そう車花は言うが信じられなかった。

 悪魔に負けた。そしてロボットに傷一つつけられなかった。

 

 そして何より……


「お前、殺したことがあんのかよ」


 その言葉に車花は反論しなかった。

 やはりそうだった。


 そして軍人の人たちの反応を見る限りかなり厳しいのだろう。

 

 命の殺し合いは今回が初めてなはずだ。

 あのロボットが遠距離で倒せないとなると近接戦を仕掛けるしか勝機はない。


 訓練はしているだろう。

 でも練習と試合ではコンディションの違いがあるように訓練と実戦では全くわけが違うはずだ。

 

 一対一で遠くの相手に狙いをつける、相手の位置を確認する。相手の攻撃に身を避けたり、防御をしたりして身を護る。


 そういった遠距離戦ならものすごくシンプルだ。

 ただ力の押し付け合いで済む。


 でも近距離戦となると全く違う。


 少なくとも遠距離で戦うより何倍にも考えないといけないことが多い。

 

 柔道や空手もそうだ。

 経験がある方が、より練習や試合に打ち込んだ人が強い。


 そして初めての実戦。殺し合いの経験がない。相手は未知数。

 相手は車花の攻撃から守れる魔力があって、突っ込めるという状況だ。


 あまりにも勝ち目はないように見える。


「あんたが何を知っているの? 私が負けるって言いたいわけ?」


 車花は少し苛立ち気を放ちながらそう詰め寄ってきた。


 その怒りも当然だろう。

 素人が何も知らないやつが車花の考えを否定しているのだから。


 流河は普段真面目と言えばそうでもない。

 どちらかというと遊びまくって、家にいる時はゴロゴロしてSNSを眺め、次の日が寝不足になるまでゲームにやりこんでしまう。


 何かに真面目に取り組んだこともない。


 戦いなどゲームか漫画しかしらない。全てフィクションだ。


 さっきだって醜いことをした。

 魔法を使えばあと残りが出るなんて知らなかったのに、車花に空間魔法を使えとそう命令しようとしたのだ。

 さっきは行けたから、こんな事態なのに調子を乗っていた。


 そんな流河を車花は知っているから、車花の目は厳しくなる。


 流河が知っていることなどない。

 なのに流河は車花を止めようとしている。


「違う」


「じゃあ、何? 何が言いたいの?」


「……嫌なんだよ」


 車花の肩を掴んだ。離れないように強く。

 さっきは出来なかったことを。

 本当はしたかったことを。


「何で大翔もお前も自分一人で片付けようとしているんだよ」


 分かっている。

 自分は何も役に立たないと。口出しすることではないことも。


 でも大翔も車花も、流河にどう思われているのか理解していない。


「俺たちのために命をはって背を向けて逃げてさ…それで俺たち、何が逃げたことになるんだ?」


「……」


「体は逃げられても心は逃げてないんだよ」


 今も大翔は悪魔と戦っているだろう。

 傷ついているかもしれない。怖くて泣いているかもしれない。

 更にはロボットに囲まれ絶体絶命なのかもしれない。死を覚悟しているかもしれない。


 分からない。今更戻って確認することも出来ない。

 

 悔いがある。それは杭となって流河の家にずっと深く刺さっている。

 心は引っ張られてものすごく痛い。


 今の流河はただ周りに足を引っ張っているだけなのも分かっている。


 でもこれで車花まで離れるなら心は様々な方向に引っ張られてどうすることも出来ない。

 あの人達が死んだときのように何もしないわけにはいかない。

 

 何か考えがあるわけでもない。

 車花以上に何も知らない。

 車花みたいに頭もないし、努力もない。

 

 だからただのわがままだ。


「頼むから、苦しめさせないでくれ……」


「流河……」


 大翔に頼むと言われて、それなのに守れなくて心が折れている。

 そんな情けない言葉を車花は聞いてくれるのだろうか。


 それもただの願望に。


 でもこれ以上自分たちのせいで誰かが死地に行くのは嫌だ。

 これ以上は耐えられない。

 

 鼻水が出てきた。周りは静かになりすする音と息遣いがとめることが出来ず車内で流れてしまう。


 怖い。

 人があんな簡単に死んで、死の恐怖をずっと心の奥で感じる。

 大翔が大丈夫か心配になってしまう。早く大翔の顔が見たい。

 

 失うことの怖さを知ってしまった以上それは何倍となって涙を抑えることは出来なかった。


「……分かったわよ」


 そう車花の呟きにほっとするようにまた涙が出てきた。


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「だったらどうするの?」


 そうして地下道に入って30分くらいは立っただろうか。

 

 流河は今バイクに乗っている。

 前には坂道があり、後ろにはペルシダが同じバイクに座っている。


 そして機関銃やミサイルの発射音と爆発音が近くで鳴り響いている。


 車花が迎え撃っているのだ。


 置いておけない。そんな情けない叫びに車花は折れてくれた。 

 だが直ぐに車花の顔は切り替わり


「じゃあ、あのロボットをどうするつもり?」


 車花の言葉に安堵から緊迫へと変わる。

 流河は最後に鼻をすすって目を拭き車花の目を見た。


「避難所まで行くことは……できないよな」


 逃げることはできない。

 車花がいるならその残留物をなくなるまで待つか、それとも撃破するか。

 逃げてしまえば向かうのは民間人の避難所だ。


 洗脳を解除され何も分からない。もしくは洗脳されたままで逃げることが出来ない民間人。

 

 そんな人たちに死という恐怖を持っていくわけにはいかない。


 せっかく固めたのにパニックになって皆逃げ出すかもしれない。

 何より途中で一般人がいれば被害が広がるかもしれない。


 待つのは怖い。トンネル内は狭い。

 相手がトンネルを本気で壊せば道を塞がり挟み撃ちに会う。


 そうなった場合ペルシダはどうなる。


 皆で一緒に生き残って、避難所にロボットを連れて行かない。

 そんな流河の願いを叶えるとするなら撃破するしかない。

 

 でもそれなら車花だけというわけにはいかない。

 ペルシダの力もいる。

 そうなれば魔法使いは紫花菜達からいなくなる。


 もし相手に見つかれば逃げることは出来ないだろう。

 全員巻き込むわけには…


「だったら俺も戦うぜ」


「大和」


「友達を2人置いて逃げる方がよっぽど寂しくて怖いからな」


 そういって大和はウインクした。

 

 余裕を持っていた。

 さっきも周りを見て軍人に銃を渡していた。


「あなたって意外と勇気があるのね」


 車花は大和にそう驚いたように見る。

 

 そう、冷静さだけでなく勇気もだ。

 流河を助ける為にモレクに囮になってくれた。 

 大和が居なければ流河はここにいなかったのだ。


 でも大和は首を振った。


「嫌、怖さで一杯だ。正直言って松本が何とかしてくれねえかなって思っているよ。でもな、誰も命の重さを背負えられるほど強くないし、全てを捨てるほど弱くもないんだよ。な?」


 紫花菜とアスハも逃げる様子はない。


「私たちも残ります。皆が固まって移動する手段はこれしかないので」


 そうアスハの言葉に紫花菜も頷いた。


 そうだ。皆を捨てて逃げることなど出来ない。

 

 でも戦うことは怖い。

 流河もそうだ。だからこそ誰かを犠牲にすることなんかしない。

 

 全員の覚悟といえない決意が固まった所で車花が横を振り向いた。見ると義信が手を挙げていた。


「聞いていいか? あのロボットは二足で動いていた。それにあの口径の銃を連射出来るなど考えられない。あれは魔法か?」


「ええ……あれは様々な魔法をかけられています。特に重要なのが重力魔法。あれによって自重でロボットが壊れないようになっている」


「なら……私が」


 魔法を全身にかけているのなら勝機はある。

 あのロボットを無力化することができるかもしれない。


 ペルシダがあのロボットに触れさえすれば相手が自重で勝手に壊れるはずだ。

 力を合わせれば勝てる可能性もあるかもしれないのだ。


「問題は三つある」


「一つはロボットのスラスター。後ろからだと熱と風でペルシダが近づくことが難しい。それに近づかれないように銃火器が肩や頭、足もある」


「人型ロボットなのに卑怯な…」


 ロボットにお約束。銃火器は手と頭なはずなのに。首回りや胸にあれば近接で相手を動けないようにして撃つだけで終わりだ。


「そんなことどうでもいいでしょ。二つ目はロボットだけど、あれは魔法で動いている。魔力で掴まれたらペルシダ潰されるかもしれないわ。ペルシダは魔法は無効化出来ないけど、モレクのパンチが効いた以上過信は出来ない」


 大和の突っ込みを無視して車花は説明を受ける。

 

 さっき魔力防壁という言葉があった。

 魔力の存在が分からないがあの壁は魔力が固まったものだと考えるとある程度自由に動かすことが出来るのだろう。


 銃火器と魔力による二段防壁をどう突破するのか、考えないといけない。


「ペルシダがロボットを無力化するなら、ペルシダは攻撃にかなり振らないときついわ。そうしたら移動に余り魔力を使えない。最後にもう一つがロボットという点。足を狙ったとしても足だけ壊れて上半身だけが残ったら結局状況は変わらないわ」


「相手の反応が追いつかない速く強い攻撃で上半身、それも上側を狙うか…」


 あのロボットは一時的なら上に飛ぶことが出来そうなスラスターの向きだった。

 下半身だと重力魔法を消したとしても下半身だけ壊れて、上半身だけ残るという可能性もある。


 結局ペルシダの異能も効果が分からない。ペルシダの異能は振れた瞬間効果が放射状に広がるのか、それとも一気に効果が出るのか。


 博打しかないなら仕方がないが、まだ博打をするかは決めなくていいだろう。


 スラスターの危険性を考えると頭の部分を狙うか、胸の部分を狙うか。

 できるだけ相手に気づかれず、ペルシダが移動に魔力を消費させることなく、ペルシダを上半身に接触させないとあのロボットには勝てない。


「ペルシダは洗脳を解除してほしいの。ここには洗脳された魔法使いや騎士だっている。触れるだけで魔力を一切かからないペルシダはロボット一体に賭ける命じゃない。衛生所にも私より強い仲間がいるから…」


 車花の言うことは分かる。

 リスクを取るのを恐れているのだ。


 それが一番だからこそ車花は視野が狭まっている。

 何も上を飛ぶのは魔法だけではない。


「いや、何とかなるかもしれない。何とかなる。何とかする」


 とそう言い切った。


 まとめると、ペルシダの存在を気づかせない。

 ペルシダを上に飛ばせる。

 加速して攻撃力を増やす。

 

 この三つが必要だ。



 そこで考えたのは奇襲による一撃に全てを賭けること。

 車花は囮になることになった。でもその囮は逃がすためではなく、勝つために。


 車花一人なら相手の攻撃を回避することは可能だろう。

 

 そしてペルシダをロボットの上半身まで送り届けるためにはどうしたらいいか。

 ビルから攻撃という点もあるが、それは車花が逃げる為に残しておきたい。

  

 それにビルを壊した方が相手にはメリットがある。

 魔力防壁で加速してビルを破壊していけば瓦礫と銃弾、そして魔法によって相手を更に追い詰めやすい。


 その選択肢がある以上ビルにいたら危険な可能性がある。

 

 いくら魔力で防げると言っても消費していいものでもないはずで、何より近づけない。

 

 ペルシダが確実に、そして素早く近づくためには加速を横方向で一回ほしい。

 上は出来るならペルシダが加速する前に準備しておきたい。

 

 相手はスラスターと魔力、そして肩にある機関銃を考えると狙うのは横からが一番効果的な奇襲になるはずだ。


 そして加速の問題。

 上はやはり飛びにくい。そして上に飛んだら横の加速がない。

 

 なら上は乗り物で飛びあがればいい。


 街の破壊によって道が狭くなり、乗り物は捨てられ、それが邪魔となってまた乗り物を捨てられるということになるだろう。

 

 少し移動すれば予想通り車道に鍵をつけっぱなしのバイクが落ちていた。

 持ち主には悪いが勝手に借りて勝手に壊してしまうことになるだろう。

 

 でもこれなら相手に気づかれずに速く、そして高く跳ぶことが出来る。

 

 そしてバイクを蹴ってペルシダは更に加速力を得る。

 


 これが最適解なはずだ。


 軍の人にはバイクの音が気づかれないように、頭の部分にロケットランチャーやスタングレネードなど音が鳴るものを撃ってもらう。


 流河は戦うつもりだった。

 だがそれらを適切に使うことが出来ない。

 ここにいる軍人達も必要だ。それをバイクに乗る人に割くことは出来ない。

  

 つまりバイクに乗るのは流河だということだ。

 皆を引き留めた以上、また責任を果たすためにも今バイクの上にまたがっている。

 

 普通二輪の免許は持っているとはいえ、バイクでジャンプなど初めてだ。


 しかも二人乗り。どれだけ速度を出せば上に飛びあがれるのか。

 もし高さが足りなければロボットに真正面にぶつかるか、体が先に地面に叩きつけられるかの二択だ。

 

 体勢が少しでも崩れてしまえばバイクは横転してしまうだろう。瓦礫が降れば体は傷つくかもしれない。

 不安は消せない。


 でも作戦に関しては自信もある。


 中途半端だ。手が震えているのに心は熱い。出来ると信じているのに死ぬかもしれないと恐怖が体を震えさせる。


 バイクでジャンプをするという恐怖。そしてロボットに突っ込むという恐怖。もしロボットがこっちを向いたらどうなってしまうのだろうか。


「大丈夫?」


 流河の震えは直にペルシダの手によって感じている事だろう、声は優しかった。

 

 流河は後ろを振り替えてペルシダの目をまっすぐ見た。


「ペルシダ。もし死にそうになったらにすぐに逃げてほしい。俺の事を気にしないでいいから」


 一発勝負だ。

 流河の命を拾おうとすれば、車花達の身に危険が余る。 

 ペルシダが生きていれば作戦は何度でも使える。


 ペルシダの異能がばれない限り、作戦は何度でも続けることが出来る。


 軍人たちに射撃を任せたのもそれだ。

 全員の力を合わせる。そしてここの力を最大限に引き出さないといけない。


 ここで軍人がバイクを上に飛ばして死ぬよりも、流河がバイクに乗って死んだ方がこちらの損耗率も減る。

 

 自分の責任なのに、

 自分で選んだのにペルシダに全部任せることになる。

 気にしないでいいと言った。

 

 でもそれは最初は気にしてくれるよなって言っているようで。


 かっこ悪い。でもそれしか自分の不安を解決できない。


「…分かった。任せて」


 ペルシダはそういってぎゅっと抱きしめてきた。

 

 服を持って、がっちりと外さないようにしている。

 

 言葉は不安を取り除いてくれた。そして体は安心感を与えてくれる。

 

 死ぬかもしれないと覚悟したのに卑怯だ。

 そんなこと言われたら死にたくなくなってしまう。


 熱が、内側から体全体に回って震えが止まる。


 体に力が入る。


 後はやるだけだ。でも何故か成功出来るとそう思った。

 


 車花の合図が来た。

 一気にアクセルを全開にする。

 

 バイクの速度は100キロを超え、そして跳んだ。

 ロボットは流河達がいる道の横のビルを破壊しながらこっちに来た。


 ペルシダを警戒したのだろうか。


 異能に気づいているか分からないが、結果瓦礫の中を突っ込むことになった。

 

 落ちてくる石や向かってくる石がある。


 でも恐れてはいけない。姿勢制御に全てを注いだ。


 ロボットは横を向いている。ペルシダに照準を向けるのは遅くなったとはいえ

 ロボットはこちらに気づき、肩の銃の方向がそして頭がこちらに向けられる。

 

 怖い。今すぐにも飛び降りたい。

 

 でも、ペルシダが車花が皆が戦っている。

 

「うおおおおお!!」


 力を振りしぼるかのように雄たけびを上げて手にあるものを投げる。

 

 ロボットの前で破裂し、視界が白い煙に覆われる。


 煙幕によってペルシダを視認するものは何もない。

 此方を対応しようとしたのだろう。 

 

 そう逃げもせず、対応しようとした。

 対応の為に今思考の時間が生まれている。

 でも対応を変えるために考える時間が必要だ。

 

 そして余力があるペルシダはバイクを蹴って、ロボットに向かった。


「はああああああ!!!」


 ロボットの頭。そこに向けて大きな蹴りを放つ。

 煙が余波によって霧散し、ペルシダの姿が見えた。

 

 魔力防壁を突き破り、その顔に大きな蹴りを放った。


「勝った…」

 

 ロボットの顔はへこみ、機械が悲鳴音を上げてぼろぼろと部品が崩れ落ちながらロボットは倒れていった。

 

 倒したのだ。上手くいった。



 ほっと息を吐く、そんなことを出来ればよかった。

 流河はバイクから離れて下に自由落下した。


 ただの落下にも流河は出来なかった。


 体が動けない。

 両手両足を広げ、空気抵抗を強くしたかったのに、頭から突っ込んでしまった。

 

 制御が上手くできない。


 ペルシダが倒そうが倒さまいが、流河を回収してくれると言った車花はまだ来なかった。

 今思えば車花が負傷している可能性がある。


 それに敵がいた場合紫花菜達を守るためにも戦わなければならない。


 ペルシダはほっと息をついている。

 こちらを見て笑顔になった瞬間顔が慌て出した。


 その間にも下に落ちるほどスピードが速くなっている。


「ペルシ…」


 そうペルシダの名前を呼ぼうとした瞬間

 何かに抱きかかえられた。

 

 咄嗟に持てるものを掴んでしまう。


 死んでない。目を開けたらさっきと同じ光景だ。

 そして人肌の感触。見ると車花にお姫様抱っこをされている。

 

 お礼を言おうとした。車花がいなかったら誰も助からなかった。


「助かった。車花、まじありが……?」…


「………」


 車花はタンクトップだ。

 デコルテの部分が見えるからそう判断した。

 

 多分下着の部分も含まれているのだろう。

 だって手の先から谷が見えるから。



 しかも指は触ってしまっている。

 生きている事を知覚したおかげで指に柔らかい感触が脳に伝わる。

 

 しかも生物を触ってしまった。その触り心地も、どこまで深く沈むのかも全て知覚してしまった。


 おそらく抱きかかえられた時に服を咄嗟に掴んでしまったのだろう。


 車花の目が険しくなる。

 車花としてはちゃんと事前に打ち合わせしたのにどうしてこうなるかと言わんばかりの表情だ。


「なんで、お前そんな恰好してんの!!?」


 その答えは車花に捨てられた時の落下の衝撃で聞くことが出来なかった。



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