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公爵令嬢は友人達と従魔ショップやパンケーキを食べる

 大通りの一角にある従魔ショップ。店内にはガラスケースやケージが並び、中にいるのはみんな小型の魔物。主に従魔使いや魔物を家族に迎え入れたい人向けのお店。言わばペットショップみたいなもの。

 誰でも魔物を飼ったり使役したりできるが、もちろん従魔ショップという名前なので従魔契約は必須。しかし魔物との相性もあるので魔物契約に応じなければどれだけお金を積んでも従魔にすることはできないのだ。そういうところはペットショップよりハードルが高いけど、従魔にできればとても心強い。

 家の番をさせることも可能だし、魔物によっては手伝いごともしてくれる。

 例えばスライム。戦闘向きではないけど、消化するのは早いこともあり、家のゴミなどを食料として与えるだけで処分する手間も省けるので、主婦や飲食店経営者にとっては十分にありがたい存在とされている。そして従魔契約もしやすいのも特徴。食べ物を与えたらすぐに懐くのだ。


「想像以上に色んな種類の魔物がいるのね」

「本当ですね、私も初めて入りました」


 どうやらライラも初めてのようだ。スライムだけじゃなく、ホーンラビットやケット・シー、クー・シー、カラドリウス、爬虫類や魚系の魔物もあちこちにいて、知っている魔物もいれば知らない魔物も数多くいた。


「あら? これは……卵?」


 中には卵が多く展示されているコーナーもあった。普通の卵の大きさもあれば、抱えるほど大きな卵もありサイズは色々。


「えっと、従魔ショップでは魔物の卵も売られていまして……卵から孵った子は初めて見た相手を親だと思う習性を持つことが多く、従魔契約もしやすいんです。……あ、もちろん契約できなかったら返してもらう注意事項もありますっ」

「でも何の魔物の卵か書いてないわ」


 なぜか魔物の卵にはネームプレートらしきものがない。それぞれの売値価格しか記載されていなかった。


「た、卵が孵るまでは何が生まれるかはわからなくて……。知識がある人なら予想はできますが、完全に当てることも難しいらしいです」


 ティミッドの話によると、魔物の卵は種族によって分かりづらいらしい。柄がついてる全く同じ模様の卵でも生まれてくる魔物は鳥類だったり、甲殻類だったりする。

 何が生まれてくるかわからないのでそれはそれで楽しみがあるというくじ引き感覚で購入する人がほとんどなんだとか。

 基本的に中身の魔物が気に入らないという理由で返品は受け付けないし、生まれた魔物との従魔契約が上手くいかなかった場合の返品は購入金額の半分しか返ってこないと魔物の卵を購入するルールは少し細かい。他の従魔用魔物にも言えるのは飼い主に責任を持ってほしいからとのこと。

 従魔ショップに売られている魔物と卵は親とはぐれて迷子になってしまった子や育児放棄された子を保護しているのが半分、もう半分は魔物ブリーダーから引き取った魔物らしい。


「スティルトン様はお詳しいのね」

「あ、いや! た、またまですっ! そこまでのほどでは……!」


 いつもより饒舌に語っていたこともあって、もしかしたら従魔に興味があるのかもしれない。詳しいことを褒めると彼は真っ赤になって全力で首を横に振る。謙虚にならなくてもいいのだけどと思うが、おそらくそれがティミッドの性格でもあるのだろう。






「それにしてもこの中で一番安価なのはスライムなんですね」


 一通り店内を見回ったあと、ライラが口にする。確かにスライムは子供がお金を貯めたらすぐにでも手の届きそうな値段だった。

 従魔となる魔物はやはりその希少性や利便さ、人気度により価格は上昇するのだろう。


「おそらくスライムは繁殖力が高いからだろうね。お手頃だからこそ、家庭や職場で重宝しているとも聞くよ」


 ライラの呟きにすかさず答えるアリアス。にこにこと笑みを向ける彼とは違い、ライラは表情を変えることなく「……そうなんですね」と一言だけ返した。

 あの調子だとちゃんと腹を割って話せるのか気がかりだけど、そこはなるようにしかならないのだろう。ヴィーチェはライラがSOSを出さない限り見守ることに徹した。


 その後、従魔ショップを出たヴィーチェ達はカフェで一休みすることになり、近場の同じ大通りにあるパンケーキが美味しいと有名なお店へ足を運んだ。

 店内はとても繁盛しているようで、よくよく見てみれば学院の生徒と思わしき客があちこちにいた。入学式が終わってしまえば自由だからみんな考えることは同じなのだろう。

 ヴィーチェ達が席に着くと、周りの生徒達も彼女達の存在に気づく。ということは自然とざわめく声も聞こえてきたのだ。

 ヴィーチェ、ライラ、ティミッドは学院生からすれば悪い意味で有名なのだが、今回注目する人物はアリアスである。

 再入学制度を利用して入学し、そして新入生代表として全学院生の前に姿を現したのだから尚のこと注目度は高い。そのうえ隠しきれない王族のオーラと風貌もあってか隅の席であろうとすぐに視線が集まる。

 なぜ第一王子があの三人組といるのか、とか、アリアス様はあの問題児を知らないのかしら、とか。とはいえヴィーチェは気にしない。むしろ耳に入らない。目の前のメニューに夢中だから。


「パンケーキのお店なだけあって種類が豊富なのね」

「ヴィ、ヴィーチェ様は、そのっ、パンケーキは好きですかっ?」

「えぇ、好きよ」


 人並みに、と思いながらティミッドの質問に答えると彼ははにかみながらホッと安心する表情を見せた。嫌いじゃないか気を遣っていたのだろう。友人なのだからそこまで気負わずともいいのだが、ティミッドはそういう性分かもしれない。

 パラパラとメニューを見ていくとヴィーチェはとあるメニューに指を差しながら隣に座るライラに話しかけた。


「あ、見てライラ。あなたの好きそうなミルククリームが乗ったパンケーキよ」

「本当ですね。私、そちらにします」


 メニューを覗き込んだライラはミルククリーム乗せのパンケーキの名を見ると小さく頷いた。即答なのと少し嬉しそうな声だったこともあり、よほど気になったのだろう。

 ライラはミルキーなものと、チーズ系が好みだというのは長年の付き合いの中からヴィーチェは理解していた。


「ヴィーチェ様は季節のフルーツたっぷりパンケーキですか?」

「えぇ、そうよっ」


 好みを理解しているのはライラも同じだった。ヴィーチェは果実を好むのでライラもヴィーチェが注文しそうなものを予想していたのだろう。


「それじゃあ私はシンプルにプレーンにしようかな。ティミッドくんは何にするんだい?」

「え? あ、僕は……えっと、紅茶のパン、ケーキで……」


 男性二人も決まったところで、テーブルに備え付けられていたベルを鳴らし店員を呼んで注文をする。それぞれのパンケーキと飲み物を。


 注文を終え、あとは歓談しながら頼んだ物を待つのだけなのだが、一気にヴィーチェのテーブルは静かになる。

 あれ? とヴィーチェは不思議に思った。てっきり今まで自分が多く喋っていたから誰かが何か話をするのではないかと思っていたけどそうでもなさそうだ。

 やはり普段いないアリアスがいるからライラもティミッドも気まずい雰囲気を漂わせている。

 せっかくカフェにいるのだから話をしないわけにもいかないので、それならばとヴィーチェは口を開いた。


「そういえば、どうしてアリアス様は私達とお友達になりたいと仰ったのかしら?」


 第一王子に問いかけると、その言葉が聞こえたであろう近場の席に座る学院生達がざわついた。ヴィーチェはようやく周りの席に座る人達が自分達に注目しているのだと気づく。

 やはりみんなアリアス様が気になるのね、と納得したと同時に彼の答えを他のみんなに聞いてもらえるから丁度いいのかもしれないと考える。

 おそらく後日、噂が広まって何人かの生徒達からなぜアリアスと一緒にいたのかと尋ねられる可能性が非常に高いだろう。

 正直に「アリアス様が私達とお友達になりたいから一緒に遊びに行っていただけよ」と説明したとしてそれを信じてくれるのははたしてどれだけいるだろうか。ただでさえヴィーチェの言葉を信じてくれない人が多いのだ。

 ヴィーチェからすると事実しか言っていないのに残念でしかないが。それならばと自分が答えるよりも本人の口から説明してくれる方が断然いいと判断した。


「もちろん、緑肌病の治療に貢献してくれた君達は私の恩人でもあるし、どんな人達なのか知りたいと思ったんだ」


 周囲を一瞥するヴィーチェの考えをアリアスも理解したのか、周りに聞こえるような声量と笑顔で答えた。


「特に、エンドハイトの婚約者でもあるヴィーチェ嬢は家族にもなるし仲良くはしておきたいからね」

「仲良くなることについてはお断りする理由はないのだけど、私が嫁ぐお相手はリラ様だけだから家族にはなれないわね」


 もっともらしい理由ではあるが、ライラの話からしてアリアスが特に仲良くしたいのはライラだろう。ヴィーチェの名を挙げたのはおそらくカムフラージュ。

 下手にライラを贔屓すると彼女への風当たりが強くなるだろうから、それらしい理由として爵位が上位に当たるヴィーチェを強調したのだろう。

 ヴィーチェは利用されているとは思わないし、思いもしない。なぜならライラのためにとアリアスが気遣ったのだと理解できるから。ヴィーチェもライラが嫌な思いをしなければそれでいいのだ。

 それに家族として仲良くしたいという言葉に嘘はないと思う。

 周りのヒソヒソ声は少し聞こえるが、アリアスの言葉に納得せざるを得なかったのだろう。やがてざわめく声も落ち着いてきた。


 そうしている間に注文したパンケーキ達が届く。出来たての二段重ねのパンケーキは厚みがあり、ヴィーチェの目の前に出されたフルーツたっぷりのパンケーキは生クリームと共にイチゴやキウイ、バナナにブルーベリーなど色とりどりのフルーツが沢山飾られていて、まるで宝石箱の中身を開けた気分である。

 ナイフとフォークを手にして早速一口。ふわふわタイプの生地はそのままでも十分に美味しいが、瑞々しいフルーツと一緒に食べると果実がソース代わりになり、また違った味を演出してくれる。パンケーキを売りにするのも納得の味だった。


「……アリアス様、一体何の真似ですか?」


 パンケーキを味わっていたら隣のライラが戸惑いが混じったような声でぼそりと呟いた。

 一体どうしたのかしら? と彼女へ目を向けると、ライラのパンケーキのお皿に違うパンケーキが一切れ乗っかっていた。その形はちょうどアリアスのパンケーキの欠けた部分と同じ大きさ。アリアスのパンケーキをライラにお裾分けしたように見える。


「ライラ嬢はシンプルな物も好きだと言っていたからね」


 彼は小声で答える。もちろん周囲に聞こえないようにと配慮してのことだろう。しかしヴィーチェの知る限り今この時までライラはそんな話をアリアスには伝えていない。

 ところが自信満々な相手の様子からすると前もってその情報を知り得ていた線が強いと思われる。それが手紙でのやり取りで知ったのならアリアスがライラの好みを知っていても不思議ではない。


「良かったら味見だと思って食べてくれないかな?」

「……はぁ、わかりました」


 何か言いたげなライラだったが、下手に言葉を交わして周りに聞こえることを恐れたのか、静かに受け入れてアリアスのプレーン味のパンケーキを彼女は口にした。

 満足気なアリアスを見て、ライラの好みまでよく覚えているのね、とヴィーチェは感心する。


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