寧々宛 織田信長 筆 仮名消息
※原文
おほせのごとく こんどはこのちへ、
はじめてこし けざんにいり しうちやくに候
ことにみやげ 色々うつくしさ 中々めにもあまり ふでにもつくしがたく候
しうぎいかにと このはうよりも なにやらんと思ひ候へば そのはうより 見事もたせあひだ べちに心ざしなくのまゝ まづゝゝこのたびは とゞめまいり候
かさねてまいりのとき それにしたがふべし なかんづく それのみめふりかたちまで いつぞや、みまいりし折ふしよりは、十の物廿ほどもみあげ候
藤きちらう れんゝゝふそくのむね申のよし ごん五だうだん くせ事に候
いづかたをあひたづね候とも それさまほどのは 又二たび かの『はげねずみ』 あひもとめがたきあひだ これよりいごは みもちを らうくわいになし いかにも かみさまなりに おもゝゝしく りんきなどに たち入り候ては しかるべからず候
たゞし をんなのやくにて候あひだ 申ものゝ 申さぬなりに もてなしし給べし なをぶんていに はしいに はいけんこひねがふものなり
のぶ
(天下布武 印)
(切 封)藤きちらう
をんな まいる のぶ
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この度、安土の城へ初めて参り、私に会いに来てくれたこと、嬉しく思う。
その、様々な土産物。そのすばらしさは、目に余り、筆舌に尽くし難い。
こちらからも、何か遣わそうと思ったのだが、その方の持って来たものより見事な物を持たせてやるには、今のところ コレっといったモノが無く、今回は、返礼品は止めておこうと思う。
次に来た時に、良いものを用意しておこう。
寧々よ。そなたは、前に会った時より遙かに美しくなっている。
そなたのように美しい女房を持ちながら、藤吉郎(秀吉)は、事あるごとに 不足を申しているようだ。
言語道断である。
いったい、何を考えているのか。
何処を捜そうとも、そなたほどの女を、ハゲねずみ(秀吉)が、再び、女房に得ることなどないであろう。
だから、そなたは、これより以降、身持ちを明るくし、正室らしく重々しく振る舞い、嫉妬がましい態度は取らないように。
言いたいことも少々我慢することを心がけよ。
なお、この手紙は、藤吉郎にも見せるようにっ。