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8 婚約者になりたければ、願いを叶えなければならないそうです

「ななななな、なぜここに?」


 久しぶりに見た、冷たい空気を放つクロードに圧倒されながらも、モゼリーは何とか声を出した。



「何故とは?……ああ、こちらから呼び出したのに待たせて済まなかったな。隣国との小競り合いに旗印として担ぎ出されたんだ」



 少し俯き加減で話す彼の黒髪は以前よりも艶がなく、ルビーの様な瞳には陰りが見える。



 クロードは小競り合いなどと、まるで大したことではないように話しているが、婚約者(仮)が遠方から来るにも関わらず動員されるというのは結構な規模の戦だったのかもしれない、とモゼリーは思った。



 だが、今は婚約者とはいえ、ガリア大国の国王夫妻にはまだ認められていない立場だし、何より他国のことに口を挟むものではないだろう。


 

「ご無事に戻られて、何よりですわ」



 モゼリーに出来ることと言えば、無事を祝うことくらいである。



「……ああ。ところで、君は随分と優しいのだな。銀杏を孤児院に届けたいとは面白い発案だ」



 クロードが見定めるように、モゼリーの目を覗き込む。



「まぁ! 優しいなどと、誤解ですわ。私は銀杏を捨てるのがもったいないと文句をつけただけですの」


「それに、孤児院への寄付を思いついたのはリリーですわ」

 


 優しいなどと言われて、焦ったモゼリーは必死に言い募る。


 その横でリリーもコクコクと頷き、聞こえないくらいの小声で『姫様は悪女です』などと呟いていた。


 どこかで聞いた、サブリミナル効果を狙ってのことである。



 だが、クロードには全くの無意味であった。


 それまで無表情であった顔色を変えて、雄弁に話し出すではないか。



「城に戻ったばかりだが、使用人達がモゼリー姫のことを褒め称えていた。貴女のような素晴らしい女性に出会えたことを神に感謝しなくては」



 クロードはモゼリーの髪をすくい取り、口付けを落とすと、蕩けるような微笑みを浮かべる。



「しかも貴族令嬢にありがちな、侍女の手柄を取ることもしない。」



「まさしく、俺の理想の女性だ。すぐにでも王と王妃に面会し、婚約の許可を貰いにいこう!」




「わ、分かりました……」


 悪女好きではなかったのかしら……



 疑問に思いながらも、モゼリーはウキウキとした様子のクロードに引っ張られるようにして、ガリア大国で一番高貴な人物である、王と王妃に会いに行くこととなったのである。



 ★


 一言でいうと、王も王妃も一筋縄ではいかない人物であった。



「クロード、お前には王弟として兄を支えていく人生も、それなり近隣国に婿入りし王となる人生もある。……わざわざオレオ島に行かなくても良い」



 ガリア国王は、クロードを第二王子という手駒として、手元に置いて置きたい様子であった。

 

 それが叶わないのならば、中堅国あたりの有望な国と国益を兼ねての政略結婚をさせたいようである。



「そうですよ、クロード。我が息子リチャードもお前を頼りにしているようですし。まぁ他国に婿入りしたいなら止めませんけど。……モゼリー姫以外にも目を向けては如何?」



 王妃は、自分の息子である、第一王子のライバルとも成りうるクロードが婿入りするのは賛成のようである。


 ただ、あまりに色気特化型の美少女を選んだことが気に入らない様子であった。

 モゼリーは基本的に女性受けはしないタイプなので、これはある意味仕方がないとも言える。



「俺に政略を求めなくてもガリア大国の繁栄は続くでしょう。それに、今まで国に尽くしてきた自負はあります。」


「結婚は自分が選んだ人が良いのです。城に帰ってから姫の噂話を聞きましたが、使用人にも寄り添える聖女の様な女性です。彼女以上の人はおりません」



 それを聞いて、唖然としたモゼリーを責めるのは可哀想だろう。


 悪女になろうとしてるのに聖女と言われたことも中々キツイが、自分以上はいないとか、過大評価が過ぎる。



「噂話は聞きましたけど、侍女に皿を割らせたとか? なんて野蛮な。島国では当たり前なのかしら……聖女と言うより悪女ではなくて?」



 正解です、悪女目指してました!と、口にしそうになりながらもグッと堪えるモゼリー。


 その様子に、涙を堪えていると勘違いしたクロードは激怒した。



「これ以上、彼女を侮辱しないで頂きたい!」



「まぁ。侮辱だなんて。本当のことでしょう?」


「そうだわ! そこの聖女様は人に寄り添えるとか。私の長年の悩みを叶えてくださったら結婚を許可するというのは如何かしら? 陛下」




 少し小馬鹿にしたように王妃は提案してみせる。


 驚きながらも国王は頷いて許可を出した。



「良いだろう」




 望みを叶えることが難しいことを知っているからか、はたまた第二王子として都合よく使われてきた不憫な息子の願いを叶えてやるためなのか……



 表情を消して、ただ頷いた国王の真意は誰にも分からなかった。

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