7 悪役令嬢作戦その2
「このままだといけません! 姫様!!!」
リリーは部屋に入るまでの優雅な足どりをガラリと変えて、走り出しそうな勢いでモゼリーに近づく。
「調べてきてくれてありがとう、リリー。」
「でも、よく考えてみればユミルが言っていたようにむしろ聖女の方が婚約を認めてもらえるんじゃないかしら?」
モゼリーは、自分一人になってよくよく考えたのだ。あれ?聖女になるってメリットじゃないかしら、と。
「甘いです。この度の見合いはクロード殿下の独断で始まったと聞きました。つまり殿下のワガママで成立してるんですよ!」
「好みの女性でなければ、わざわざオレオ島とガリア大国の結び付きを強める必要なんてないと思いませんか?」
リリーの力強い言葉と握りこぶしに、思わず顔を青くして頷くモゼリー。
「そうよね、リリーの言うとおりだわ。オレオ島は崖っぷちだもの。少しでも挽回するために悪役令嬢作戦その二を始めましょう!」
リリーはその言葉に期待するような眼差しを向けたのであった。
悪役令嬢作戦その二は、単純に文句をつける、というものである。
『月の乙女』でも、悪役令嬢はディナーが口に合わないだの、ヒロインの話し方が気に食わないだの、よくそんなに思いつくな〜〜と感心してしまうくらいに色んなことにブツクサ言っていたからだ。
一回の攻撃力は低くても、自分や周りに文句をつけられ続れば嫌になってくるというのが人情である。
モゼリーはまず、練習!っと言って、部屋中をグルリっと見渡した。
目をセンサーのように凝らして何か文句をつけようとしたが、ただでさえオレオ島で飾られているより何倍も高そうな調度品が並ぶ部屋である。
おまけにユミルによって完璧に磨かれているので塵ひとつないのだ。
モゼリーに言えることは何もなかった。だが、期待を込めてモゼリーを見つめるリリーの圧にも勝てなかった。
「……何事も練習より実践よ。庭に出ましょう、リリー」
こうして、目的地もなくモゼリーとリリーは庭園をぶらつくことになったのである。
リリーは何か言いたそうな目をしていたが。
★
ガリア大国の使用人達はとても優秀だ。
特に高貴な人々と常日頃から関わることの多い侍女達は、こちらを見ていないようでよく見ている。
モゼリーが廊下に出ると、すぐに侍女達に捕まり、あれよあれよという間に庭園に案内されていた。
季節は初冬である。
若葉が生い茂ったり、花が咲き乱れたりという華やかな彩りはないものの、綺麗に整備された庭には冬ならではの味わい深さが見られた。
ーーだが、そこでモゼリーは見つけてしまったのである。文句の付け所を。
庭師たちが、枯れ葉とともに、大量の銀杏を廃棄しようとしていたのだ!
「あなた達! 何をしているの!?」
「何……とは。銀杏を捨てるだけですが。匂いがキツイので」
「もったいない! 食べられるのを知らないのかしら」
オレオ島の姫君として、果物に詳しいのは勿論だが、最近では種子についても勉強しているモゼリーはエヘンっと胸を張る。
「知っております。ですが、食用に使えるのは形の良いものだけですよ。これらは歪だったり、潰れてたりもしますもんで」
庭師はホレっと言わんばかりに、廃棄袋に入れた大量の銀杏を見せる。
「そ、そうなのね」
ーー悪女なら、ここでめげてはいけないと思うものの良策を思いつかないモゼリーは目線でリリーに助けを求めた。
リリーは溜息を付きながらも一歩前に出る。
「庭師さん、姫様は城で食用に出来ないからと言って捨てるのはもったいない、と仰られています」
「形が歪でも、それは選び抜かれた物と比較してのこと。一般的には十分ですし、捨てるくらいなら近くの孤児院にでも寄付したほうが良いのでは?」
「確かにそうかもしれんが……そんなことは儂の一存では何とも言えん。お偉方の裁量がなけりゃぁ」
「では、俺が許可しよう」
モゼリーとリリー、が同時に振り返った先には、彼女たちが会いに来た人物が微笑んでいた。
モゼリーの婚約者候補(仮)の第二王子、クロード殿下がそこにいたのである。




