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6 悪女なのか聖女なのか

「うぅ……ありがとうございます、姫殿下。あたし、旦那と義理母とちゃんと話し合います!」


「同居続けるなり、別居するなり、旦那と離婚するなり……なんにしても言いたいこと言わなきゃ始まらないですよね」



 ユミルの言葉にコクコクと頷くモゼリー。



「よく言ったわ!ユミルさん。そうよ、家族の中で一人だけ我慢し続けるなんて良くないと思うわ」



 モゼリーはユミルの手を両手で包み込み、励ますように一度、強く握る。

 


 ユミルは高貴な女性に直接手を取られたことに驚き、目を見張った。


 だが、リリーが止める様子もないので、自分が信頼されたのだと気付き、その顔にはすぐに感謝の笑みが戻った。



「ありがとうございます。では、仕事に戻りますね!」


「精一杯お部屋を綺麗にさせて頂きます!」


 宣言どおり、ユミルの仕事ぶりは素晴らしかった。


部屋中に足の踏み場もないくらい散らばった皿の破片は、欠片一つ残すことなく片付けられ、床はピカピカに磨かれている。




 メリッサ侍女長が運んできた三千枚を超える皿も、メリッサとユミルによって跡形もなく消えたため、部屋は元通りの静けさを取り戻していた。




「本当に綺麗に片付けてくれたわね」


「ありがとうございます、これで失礼致します」



 ユミルが頭をさけて、退出しようとした時、モゼリーは自分が伝え忘れていたことがあることに気が付いた。



「待って。あの、この騒動の原因は私だと広めて欲しいの」



 メリッサ侍女長の声も下女ユミルの声も音量がすごく大きく、やはり部屋の外まで聞こえている可能性が高い。


 メリッサ侍女長にはモゼリーが割ったことにして良いと伝えたが、それでは無理があるだろうし、モゼリー自身が誰かに問い詰められたら、結局嘘がばれてしまう。



 それならば、二人はモゼリーに命じられて奇行に走ったと噂になれば良いと考えたのだ。


 二人に皿を割っても良いと言ったのは嘘ではないし、自分で割っても他人に割らせても悪役令嬢の行動としては大差ないだろう、と。



ーーだが、しかし。



「畏まりました! 姫殿下のお優しさをこのユミル、城中に広めてみせます!」



 目をキラキラさせたユミルが、任せろっとでも言うように胸を叩く。



「メリッサ侍女長にも頼まれていたんです! 侍女長である自分は迂闊に噂話など出来ないから、と」



「聖女のようなモゼリー姫殿下だと城中に広まれば、王子殿下との婚約もスムーズにいくのではないか、と侍女長が仰ってました! だから必ず恩返ししてみせます!」



「あ、あの待っ……」 


 モゼリーが止める間もなく、ユミルは宣言すると、意気揚々と退出してしまったのである。




「クロード殿下好みの悪女を目指してるのに、聖女ってヤバくないですか?」



 ボソッと呟くリリーの声が、妙に部屋中に響き渡ったのであった。



 ★



「やっぱりこのままだと、不味いわよね……」


 翌日、途方に暮れるモゼリーを案じて、リリーは城でどのようにモゼリーが評価されているかを探りに来ている。



 庶民が大半を占める下女達はお喋り好きで、昨日のユミルの宣言どおり、あっという間に聖女モゼリーの人物像が城中をひとり歩きしているようであった。



 ある下女曰く、


「妖艶な美貌を持つ優しき聖女」


 ある侍女曰く、


「心を見透かし慰める、寛大な聖女」


 などと言うではないか。



 自分の主を悪く言うわけではないが、リリーはモゼリー姫は容姿だけは悪女だが、中身は至って普通の姫様だと思っている。



 目の前に飢えた民がいれば、チキンハートを刺激されてパンを分け与えに行くだろうが、飢えた民の存在を知らなければ知らないままに終わるタイプの姫様だ。



 現状を把握したリリーは急いで悪役令嬢作戦その二を実行するよう進言しようと、急いでモゼリーの元へと向かったのであった。

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