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5 下女ユミル、皿を割るっ

 コンコン 


 控え目なノックと共にあらわれたのは掃除のためやってきた下女だった。


「失礼します。お掃除に参りました、下女のユミルと申します」


 下女ユミルは俯き加減で挨拶する。



「よろしくね。私達はお邪魔よね?テラスでお茶でも飲んでいようかしら」



 モゼリーの言葉を受けて、リリーは手早くテラスに簡単にお菓子と紅茶を準備していく。



 だが、ユミルはいっこうに動かず、下を向いたままだった。

 モゼリーもリリーも、少し不思議に思ったものの、先程のメリッサ侍女長ショックが抜けきれておらず、あまり気に留めずにテラスに移動しようとした。



 その時である。



「あ、ああああの! 侍女長にこちらのお部屋で皿を割っても良いと伺ったのですが本当でしょうか!!!」


 ユミルの声が響きわたったのだ。



「え、ええ。よろしくてよ。あの、貴女もストレスを?」


 モゼリーが恐る恐る尋ねれば。



「はい! 終わったあとには全て綺麗に片付けますので!」


 ユミルはニッコリといい笑顔で言い切った。



「分かったわ……もう好きにして頂戴。全部の皿を割ると足のふみ場も無くなりそうだから気をつけてね……」


 慣れない疲労にやられたモゼリーは、リリーに抱えられながらテラスに移動することとなった。



 ★



 倒れるようにテラス席に腰掛けたモゼリーを労るように、リリーはひざ掛けを用意する。


 ガリア大国はオレオ島よりも気候が寒いため、外に出るときに羽織物は必須だ。



ガチャン ガチャン ガチャーーン



 窓を締めているのにも関わらず、ユミルが皿を割る音が鳴り響いていた。


「ガリア大国ってストレスフルな人が多いのね……」


 死んだ魚の様な目でモゼリーが呟くと。



「左様でございますね……オレオ島民は、正直者ばかりですから。嘘をつかないことで気が楽になる部分もあるのかもしれませんね」



 こうしてモゼリーは部屋の主にも関わらず、寒空の下で紅茶を啜るはめになったのでかる。





 一方、部屋の中ではユミルが爆発していた。ついには気遣いも忘れて叫び出す始末である。


「見栄っ張りのクソババア(義理母)! 毎日毎日友達引っ張り込んで、庶民の癖に何がパーティーだ!!!」


「挙句の果てに! 仕事帰りのあたしに、料理の彩りにパセリ摘んでこいだと!?」


「パセリくらい、自分で摘めよ!」



 ガチャガチャ ドシャーーン



「昨日は、女が働くなんて生意気ねぇ。なんて言いやがって! テメェの散財とそれを止められないマザコン旦那のせいなんだよ!!!」



 ドシャンドシャン ドシャーーン



 荒れ狂うユミルの声はテラスまで届き、その目に涙が滲んでいることに気付いたモゼリーは思わず席を立つ。



「姫様! 危ないです!」



 リリーは急いで止めようとするが、モゼリーは、ひと足早くユミルの元へ辿り着いていた。


「ユミルさん? 落ち着いて。お皿はもう全部割れちゃったわ」



「ひ、姫殿下! 失礼いたしました、すぐに掃除致します」



「掃除なんてどうでもいいのよ。さっき声が聞こえたのだけれど、貴女は、義理のお母さまが苦手なの? それとも旦那さまに愛想がつきたのかしら?」



 モゼリーは自分の唯一の武器である美貌を、より一層美しく見える角度で微笑んで見せた。



 モゼリーの色香にやられたユミルはアタフタしながらも懸命に言葉を探す。



「義理母が苦手です。嫌味ばかりなので。旦那もいつも味方になってくれないから愛想がつきそうです」



 おどけるように首をすくめながらも、ユミルの目から溢れそうになった涙が彼女の心境を現すようであった。



「愛想がつきそう、ってことはまだ尽きてないのね? それなら別に住むことは出来ないのかしら?」



「義理母と別居ってことですか? それは難しいです。ガリア大国では親と子が離れて住むのは稀ですから」



「まぁ。そうなの? でも私の国ではね、貴族は別にして庶民は所帯を持ったら別居が主流よ。なぜだか分かる?」



 モゼリーはイタズラを企むようにクスっと笑った。



「オレオ島民はね、嘘が苦手だから大概の嫁と姑は上手くいかないのよ」


「例えば、姑に私のこと嫌い?って聞かれるとするでしょ。嫁は嫌いです!って答えちゃうの」


 リリーは何か思い出したかのように、忍び笑いをしている。



「羨ましいです、あたしはどうしても取り繕っちゃいます」


 ユミルの言葉を受けてリリーが真面目な顔で告げる。



「それは体に悪いですよ。私の兄嫁が大陸から嫁いで来たんですけど。最初、母に気を使って一緒に住みだしたんですけど、オレオ島の気風に慣れてからは別居ですよ」


「さっきの姫様の嫁と姑の会話は、そのまま、うちの兄嫁と母です」



 モゼリーとリリーはクスクス笑う。



 ぽかーーんとしていたユミルも思わず吹き出した。



 三人で散々、笑い合ったあと。



「ねぇ。言いたいこと言って、別居になるならラッキーじゃないかしら? イザとなれば貴女は王城できちんとお仕事もあるのだし、困るのは義理のお母さまと旦那さまよ」



 そう言ってユミルを唆すモゼリーは、まるで小説の中の、悪役令嬢のようであった。


面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをお願いします!


月曜やだー 

ユミルと皿割りたいぜ!って方もぜひ(笑)

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