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3 悪役令嬢作戦その1

「お母さまの部屋はいつ来ても王妃の部屋というより、書庫ですわね」


「そうよ、それこそお母さまの努力の結果だわ。オレオ島は出版数自体が少ないもの。大陸から毎月取寄せてるのよ」


 そう言って一冊の本を手に取った王妃は宝物を慈しむように一撫でしてから、モゼリーに手渡した。


「これが今、大陸で一番人気の小説、『月の乙女』よ。悪役令嬢という役割の悪女が出てくるわ」


「ありがとうございます!お母さま。この本をバイブルに、ガリア大国では悪女になってみせますわ」


「貴女にばかり負担をかけてごめんなさいね、モゼリー。頼りにしていますよ」


 任せて下さいませ。そう言って微笑みを浮かべるモゼリーは、間違いなく傾国の美女だった。



 二週間後にガリア大国到着するというのは、クロードにしてみればかなり余裕のある日程のつもりだった。

 なぜならガリア大国は技術改革が凄まじく、船にはモーターが付き、陸地は馬の代わりに汽車で行く。全日程で三日もかからないからだ。


 しかし、モゼリー達、オレオ島の人々にとっては中々のハードスケジュールになってしまう。

 大陸に到着するまで、途中休憩なしで進んでも手漕ぎ船で三日、大陸の海岸線の国からガリア大国まで馬で五日かかるからだ。


 モゼリーは小国とは言え、王女なので体裁を整えるための荷物や侍従も引き連れて行かなければならない。


 今から準備を始めたとしてギリギリのラインだった。

 そのため、それからの二日間は、モゼリーは自分でも荷物を詰めながら、片手にはバイブルとなった『月の乙女』を持ち、読み進める生活となった。



 ★


 

「行ってまいります。お父さま、お母さま」


 モゼリーが船上から挨拶すると、まるで今生の別れのように、両親は泣いていた。


「気をつけてね、モゼリー」


「必ず無事に帰って来るのだぞ」

 

 大袈裟な、とも思ったがガリア国王の不評を買えば一瞬で首が飛んでも可笑しくないので曖昧に頷いておく。



 こうして始まったモゼリーの旅は、今まで大陸小国との見合いのための旅より、遥かに楽しいものだった。

 普段は読まない小説が意外に面白く夢中になったことと、ヘアメイクのために付いてきてくれた侍女のリリーが実は大の小説好きで『月の乙女』を読んでいたことが大きい。


「リリー、私はクロード殿下が悪女好きな理由が分かった気がするわ」


「ええ。物語を最も盛り上げるのが悪役令嬢ですわ! 皆から嫌われる言動の数々に美麗な男性への色仕掛。平凡な女性よりも姫様のような美人がやるときっとインパクトもすごいと思います!」


 自分が好きな作品について語り合い、ガリア大国での作戦を練りながら過ごす日々は充実したものであった。


 キャッキャウフフと笑い合うモゼリー達を微笑ましそうに眺めていた従者が話しかける。


「姫様、この道を抜けたらガリア大国に入ります」


「まぁ。期限に間に合うようでよかったわ。でも、旅が終わるのは少し名残惜しいけれど」

 

「頑張りましょう、姫様! 私もお手伝い致します!」


「ありがとう、リリー。頼りにしていますわ」



 こうしてモゼリー達は無事にガリア大国に辿り着いたのであった。



 ★



 ガリア大国に辿り着いたモゼリー達の国王陛下への謁見はつつが無く終わった。

 何故、何の取り柄もない小国の姫などを?と訝しげにはされていたが、詳しい話はクロードから聞くと言う。

 しかしながら、今は遠征に出てしまったというので、モゼリー達は客間を与えられた。



「リリー、クロード殿下は本当にお忙しい方なのね」


「第二王子ではありますが、側妃様のお子なので、何かと良いように使われやすいのでしょう」


「そういうものなのかしら。ねぇ……クロード殿下がお戻りになるまでに作戦を始めてもいいわよね?」


「もちろんでございます。お戻りの際に悪役令嬢の様な王女だ、と城中の噂になっている方が好都合というものでしょう」


「そうよね!では、作戦第一から始めましょう。リリー、証人も必要だから城の侍女達に大量のお皿を運ばせて頂戴」


「畏まりました。手配致しますね」


「オホホ。お主も悪よのぉ」


「オホホホ。姫様こそ」


 悪役令嬢作戦に期待に胸を高鳴らせたモゼリーとリリーは悪い笑みを浮かべて互いを見つめ合う。

 だが、もし第三者がいれば二人の溢れ出る小物感に苦笑してしまっただろう。


 こうしてモゼリーの悪役令嬢作戦はスタートしたのであった。

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