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2 私のどこを気に入られたのでしょうか

 その日、オレオ島は緊張に包まれていた。ガリア大国の第二王子、クロード殿下がやって来るからだ。


「リリー、さぁ、思いっきり美人にして頂戴!」


 モゼリーは、最近城に入ったばかりだがドレスやお化粧、髪結いのセンスがいい侍女のリリーを重宝しており、今日も元気に彼女を指名した。


 だが、当のリリーは涙目だ。


「姫様……」


「そんな顔しなくても大丈夫よ、リリー。ガリア大国だって鬼ではないのだから臣下のあなた達には何もしないはずよ」


「違います、姫様! 私は姫様のことが心配で」


「……ありがとう、リリー。でも、それなら尚更綺麗にして貰わなくちゃ!どうせなら散るには惜しい美人だと思われたいわ」


 モゼリーがリリーの涙を拭いながら微笑むと、リリーはその色香に顔を赤らめた。


「分かりました。このリリー、全力を尽くさせて頂きます!」



 リリーの全力は凄かった。

 いつもの見合いであれば、どこかしら清楚さや可憐さを演出しようとするのだが、今回は違う。

 色気と妖艶さに、元々センスのある彼女が全力投球した結果、出来上がったのは傾国の美女である。


 モゼリーが鏡を覗くとそこには、国を滅ぼしそうな悪女が微笑んでいた。



 ★


「ガリア大国、クロード殿下がご入来されます!」


 国で一番豪華な謁見の間にて、オレオ島の王族は臣下の礼をして待っていた。

 漂う緊張を物ともせず優雅な足どりで入って来た人こそ、ガリア大国のクロード殿下である。彼は艷やかな黒髪を一つにまとめ、ルビーを思わせる赤い目を持つ精悍な青年であった。


 モゼリー達は、予想に反して少人数ともいえる護衛しか連れてこなかったガリア大国の王子に期待していた。最小限の被害ですみそうだ、と。


 それを決定づけるようにクロードはモゼリーの前で立ち止まると、嬉しそうに微笑みを浮かべる。


「初めまして、国王夫妻。初めまして、モゼリー姫。」


「お初にお目にかかります、クロード殿下。」


 そう声をかけられたこと以外、モゼリーには出番がないはずだった。


 だが、お日柄がよく〜だとかありきたりな社交辞令が終わっても植民地の話が出てこないので、形ばかりでも見合いをするのか? と思った国王はモゼリーにアイコンタクトする。


 モゼリーも心得たもので、


「クロード殿下がよろしければ、ガボゼにお茶の準備をさせてあります。ご案内しても?」


 モゼリーは自分が出来るだけ美しく見えるように微笑んだはすだ。それなのに、クロードはそれまで浮かべていた微笑みを急に引っ込めると無表情になった。


 おまけに顔をフイっと背けて言う。


「いや、案内は結構だ」



ーー今か? 今から殺られるのか!?



 国王と王妃、モゼリーの心の声が一致した瞬間である。



「俺はモゼリー姫を気に入った。姫さえ良ければ婚約したいが、どうだろう?」



「え、こんやく? しんりゃく(侵略)の間違いじゃなくて?」


 モゼリーが少しすっとぼけた、アホな子みたいな声で返事してしまったのも無理はないだろう。



「何を言っている? 見合いに来たつもりなのだが。俺が気に入らないか?」



「め、滅相もありません!気に入りました、す、すごく!!!」



「……ならばよかった。国王陛下、実は今回の見合いは俺の意向で成立したものなのだ。」


「姫との交流とガリア国王との顔合せを兼ねて、二週間後、姫に我が国まで来ていただきたい」


 チラリと目を向けられた国王は、飛び跳ねそうな心臓を押さえて答える。


「も、もちろんでございます。御心のままに」



「そうか。では、一月ほどでガリア国王から結婚許可をとり、必ず姫を無事に帰すと約束しよう」


「娘を宜しくお願いします」


 モゼリーは自身が二週間後にはガリア大国に行かなければならないことに驚き、すぐさま許可を出した父親を睨んだが、当の本人はヘラリと笑うだけである。


 そうこうしているうちに、国王の返答を受けたクロード殿下は軽く頷くと、忙しい身の上のためこのまま帰国するという。

 国王夫妻には何故か分からないが助かった、という安堵の空気が漂い始めたが、モゼリーがそれをぶった切る。


「あ、あの! 私のどこを気にいられたのでしょうか?」


 娘の発言に気をやりそうな王妃とそれを支える王。

 それでもモゼリーは聞かずにはおけなかったのだ。

 だって初めて成功したお見合いなのだから。



「顔と……性格だ」



 だが、その回答に。

 モゼリーのオレオ島生き残りをかけた戦いが始まることを、彼女はまだ知らない。



 ★



「ねぇ、お父さま、お母さま。顔と性格が気に入ったって本当かしら?」


 国王の執務室にて。クロード殿下から貰った回答に納得のいかないモゼリーは、両親を執務室まで引っ張ってきた。


「分からん。今日のお前は親の欲目を差し引いても引くほど美しかったが、それだけだ」



「そうよ! 私はすっごく綺麗だったけれど、性格? ほとんど話してもいないのに」


 訳が分からない、というようにモゼリーは両手で頭を抱える。


「言葉の綾ってやつじゃないかしら? ほら、見た目から性格を想像することってあるでしょう。私も昔はよく、か弱い令嬢を期待されたわ」

 

 王妃の言葉に国王は力強く頷いた。


「確かに王妃は、か弱く見えたからな! だが実は芯が強い所が魅力なのだ。それを見抜けぬ男の多いことよ」



「惚気話は後で聞くわ、お父さま。うーん、じゃあ今日の私はどんな風に見えるのかしら?」


 その言葉に国王夫妻は固まる。

 国王はなんとか、声を絞り出した。


「まぁ、あれだ、妖艶だったな」


「妖艶な女性ってどんな性格?」



 言葉が出てこない国王に変わって答えたのは、大の小説好きの王妃だ。


「……物語では悪女だったりするわね」


「悪女……。私、悪女ではないわね。良くも悪くもない普通の王女だと思うわ」



 シーーーーン


 まるで効果音が付いたかのように、執務室は静まり返った。



「ねぇ、もしかしてクロード殿下は悪女がお好きなのではないかしら? 普通の王女だったら幻滅するのではなくて?」


ーーそんなことはないのではないか、と国王は思ったが。



「……きっと幻滅なさるわ! オレオ島はまだ首の皮一枚で繋がってるのよ、モゼリー!」


「は、はい。お母さま。」


「今からお母さまのお部屋にいらっしゃい! 大陸で人気の最新刊が届いているの。一緒に悪女とは何なのか、勉強しましょう!」


 風のようにモゼリーは連れ去られていったのだった。

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