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12 クロードの葛藤

 突然、二時間後に開かれる夕食会で誘われたモゼリーは急いでイブニングドレスを身に着ける。


 リリーは短時間で美しく化粧直しを施し、何とか夕食会の時間ギリギリに会場に着くことが出来た。





 だが、そこでモゼリーが見たものは。




ーー新婚夫婦のようにイチャイチャしだした、国王と王妃であった。



 ちなみにクロードはまだ来ていない。




「はい、あーーん♡」


 王妃に前菜をあーーんをしてもらい、やにさがっている国王の左頬には、パーで叩かれたであろう赤い手形がついていた。




ーーこの二時間の間に何があったんだろう。




 一人傍観者として眺めることしかできないモゼリーは心で軽くイチャラブカップルに毒づいた。

 何を見させられているのか分からないままに、侍従に案内されて席につく。




 少し遅れて到着したクロードも、初めて目にしたであろう、王と王妃のイチャつきぶりに若干の動揺を隠せないようで、思わず二度見していた。

 その後モゼリーに気付いた彼は、もう一度イチャラブカップルを一瞥し、互いに苦笑をかわす。




「おぉ! クロードも来たか。先に食べ始めて済まなかったな。では夕食会を始めようではないか」




 声だけは威厳を保っている国王の言葉を合図に夕食会はスタートした。




 モゼリーは初めて見る、ガリア大国の本格的なフルコースに舌鼓をうつ。


 一つ一つが繊細な細工をされているかのようなアラカルトは、オレオ島にはないもので、その美しさも舌触りの良さも、貴重な体験だった。


 最後のデザートが運ばれ、そのシャーベットの原材料である桃がオレオ島の物であると説明を受けた。


 モゼリーに対しての尊重の姿勢を国王夫妻が見せたのである。






 デザートを食べ終えた後、おもむろに王妃が口を開く。




「モゼリー姫、貴女には感謝しているわ。私の長年の悩みは解決してよ」



 王妃の発言に大げさに頷く国王。




「おぉ! そうであった、モゼリー姫のおかげだったな。約束通り、二人の婚約を認めよう」


 こうして、モゼリーとクロードの婚約は整うこととなった。


 あまり現実味はわかないが、無事に難局を乗り越えたことにモゼリーは安堵する。





 だが、反対に。


 喜びながらもクロードは自身の心にモヤモヤしたものを抱えてしまった。



 この度、婚約が無事に整ったのは、モゼリーのおかげで。



 モゼリーのためなら何でも出来るなどと思っていた彼にとって、自分は何一つとして彼女のために力になれなかったという事実が突きつけられたのだから、当然であった。





 本当にこんな自分が聖女とも言われる彼女に相応しいのかと。



ーー彼女は俺と結婚して、本当に幸せになれるのか。




 今は良くてもいつか。


 大国の第二王子等という肩書だけは立派な役立たずな男だと、失望されるのではないか。



 数年後に不幸な結婚だったとモゼリーに思われるのではないか、とモンモンと考えることを辞められない。





 夕食会が終わり、婚約者としてモゼリーを部屋にエスコートできる幸せを感じながら、だがどこかもどかしい気持ちで、彼女と共に廊下を歩く。





 作り笑顔で歓談を続けながらも、それまで他国との戦いを生き抜いてきた男としての自信に陰りが差してきたことに、クロードは焦りを隠すことはできなかった。





「モゼリー姫、やはりこの結婚は考え直した方が良いのではないだろうか?」




 そんなことはない、とただ否定の言葉を聞きたくて、人を試すような情けない台詞が口をつく。





 だが、当のモゼリーはその大きな瞳を更に見開いてただクロードを見つめるだけだった。

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