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11 モゼリーの僅かな解放


「なんですって?」


 棘のある声でモゼリーを見つめる王妃の目は吊り上がっており、部屋中がピリピリとした雰囲気に包まれる。


「ひぇっ。すいません! 出しゃばりすぎました!!」


 モゼリーは思わず謝罪すると、半歩後ろに下がって身構えた。メリッサ侍女長といい、下女のユミルといい、この国の女性がキレると恐ろしいのは経験済みだ。


 だが、王妃が怒っていたのはモゼリーではなく、夫である国王に対してだった。


「もし、その予想が当たっているとしたら……。何年もモヤモヤと悩んでいたのは一体何だったのかしら!」


「一言、言ってくだされば私だって!!」


 王妃の持つ扇がピシピシと音を立てて、自身の限界が近いことを訴えている。

 その様子にビクつきながらも、コクコクとモゼリーは同意を示した。


 国王と王妃という最高権力者であっても、二人は夫婦であり家族なのだ。


 心の内を誤魔化したり、話さなかったりすれば相手に伝わらないのは当然で。


 分かってくれるだろう、察してくれるだろうと曖昧な態度を取り、伝わらないとなれば別の女性を寵愛するというのは、如何なものか、とはモゼリーも思ったのである。


 ただ、彼女の婚約者候補であるクロード殿下が側妃様の子供であることを考えると、幾分複雑な感情にもなるが。




「モゼリー姫、貴女の言ってることが正しいかまだ分からないわよね。とりあえず、私は陛下に確認してくるわ」


 絶対零度の微笑みを浮かべた王妃は言う。


 彼女の手の中にあったはずの扇は、パキンと音を立てて地面に落ちた。

 それはまるで、これからの国王の姿のようにモゼリーには思えたのだった。



 ★



 モゼリーは王妃の部屋に一人残されたまま、どうしていいか分からなかった。


 だが、王妃の侍女達にさり気なく促され、確かにいつまでも居座っていてはいけないだろう、と自分に用意されている客室へと戻った。


 部屋ではモゼリーの侍女であるリリーが、今か今かと彼女の帰りを待ちわびていた。


 その様子は、まるでいつまでも帰って来ない主人の帰りを待ちわびてしょげている子犬のようで、モゼリーは王妃から解放された後、すぐに自室に戻らなかったことを後悔したほどだ。



「姫様! ご無事だったんですね、本当によかった! 王妃様に連行されたと聞いた時は、生きた心地がしませんでした」


 リリーの目からはボロボロと涙がこぼれ落ちる。申し訳無さも手つだって、モゼリーはリリーの目頭を指で拭ってやった。


「心配かけてごめんなさい、リリー。上手くやれたかは分からないけれど、出来ることはしたつもりよ」


「姫様がご無事なら何でもいいんです!」


 リリーは泣きながら、モゼリーに抱きついた。普通なら不敬なことなのかもしれないが、モゼリーはリリーが自分をそれだけ心配してくれたことが、ただただ嬉しく、彼女を抱きしめ返す。


 それからは二人とも緊張の糸が切れたかのように、笑いあった。ガリア大国に来てから、初めて持てたとも言える安堵の時間だった。


 モゼリーはリリーが入れてくれた紅茶を飲みながら、やっと人心地つくことができたと感じたのだった。



 だが、安寧の時間は長くは続かないものなのだろう。



 時は夕刻。


 二人の安らかな時間を壊すように、クロードから夕食会への招待状を持たされた侍従が、モゼリーの部屋に着くまで。


あと少し。

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