10 王妃は乙女趣味
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「では、願いを聞いて頂こうかしら。モゼリー姫、私の部屋に来てくださる?」
「お待ち下さい! 何故部屋に行く必要があるのです!」
モゼリーへの危険を感じたクロードは思わず、声を張り上げる。
「男性には聞かれたくない話を二人だけでするだけよ」
王妃は席を立ち、モゼリーの腕を掴むと自室に向かおうと歩みを進める。
自室に赴くのは一向に構わないがモゼリーには確認しなければならないことがあった。
「あ、あの王妃様! 私は王妃様が仰るように聖女ではありませんし、願いを聞いた所で叶えられるとは思わないのですが!」
「あら? そうなの? ではクロードとの婚約は諦めるということかしら」
面白そうに笑う王妃。
モゼリーは思わず言葉に詰まる。
「嘘をつきたくなかったのです。でも、諦めたくもありません。国を背負って来ているので」
「ワガママなお嬢さんね。まぁいいわ。部屋についたことだし、私の話に付き合いなさいな。それからどうするか教えて頂戴」
王妃が自室の扉を開くと、そこにはモゼリーの想像を絶する光景が待っていた。
王妃の部屋は、一言で言えば、乙女趣味満載であった。ピンクのカーテンにピンクのベッド。
壁際には、可愛らしい人形が並び、カーペットには花柄の刺繍が無数に施されている。
当然と言えば当然のことながら、モゼリーは目がチカチカしたし、思わず王妃を二度見した。
だが、王妃はその落ち着いた雰囲気を変えることなく、侍女達を退出させる。
部屋に入るとモゼリーを席に促した。
この部屋について、尋ねたくてもなんと尋ねたらよいか分からないし、失礼に当たるかもしれないと思ったモゼリーは、動揺を押し隠しながらも王妃に従った。
「それで……お話しというのは?」
「有り体に言うとね、第三王子をもうけたいの。そうなればクロードは用済みだから、貴女にとってもいい話でしょう」
「はぁ。でも子宝は授かりものとも言いますし……」
「わからない子ね。授かるチャンスがないと言ってるの!」
ーーやめてくれ。
モゼリーはゲンナリした。
彼女はその見た目から色々誤解を受けやすいが、至って普通の未婚女性である。
男女のあれやこれやを詳しくは知らないのだし、まだ知りたくもない。
だが、相談に乗るのが今のモゼリーに出来る精一杯だ。
「あの~。第一王子は王妃さまのお子だと聞きましたけど」
「そうよ、嫁いで最初の頃はよかったのだけれど、三十代に入ってからは全く。途中からは側妃に入れあげるから、嫌がらせしてやったわ」
キリリとした眉を下げ、悲しそうにする王妃は、ただ夫を慕う妻としか言いようがなかった。
モゼリーは少しこの居丈高な王妃に同情してしまう。彼女はこの大国の女性の中で頂点に立つ女性だ。
だからこそ、何かしら理由を付けなければ、おいそれと悩みや愚痴を吐き出すことが出来ない女性なのかもしれない。
嫌がらせはいけないが。
「そうなのですか……私は全くの門外漢なのですが、ひとつ気になることがあります」
「その、夫婦の時間はこのお部屋で?」
「そうよ。王がいらっしゃる形だわ」
一度、話してしまったからだろうか。
王妃は涙を目にためて縋るようにモゼリーを見ていた。
「なるほど。ちなみに今の王妃様のドレスは落ち着いた雰囲気のものですが、普段はどのような?」
「……このお部屋を見て気付いたかもしれないけれど、私こういう地味なドレスは趣味じゃないの。陛下にも嫁いだ時にお話しして、公の場じゃなければ好きな物を着てよいと許可を貰ったのよ」
モゼリーは嫌な予感がピンピンしてくる。
「左様ですか……。ちなみに見せて頂くことは出来ますか?」
「ええ!よろしくてよ」
何故か張り切った様子でクローゼットから、王妃が取り出してきた数多のドレスを見て、モゼリーは予感が的中したことを悟る。
「一番の原因は、ドレスとお部屋かと」
王妃の怒りを買う覚悟でモゼリーは切り出した。
どのドレスも、チカチカするほどの乙女趣味で溢れていたからだ。
さり気なく置かれた夜着でさえ、真っピンクのフリフリのフリルとリボンがつけられている。
王妃が嫁いで来た十代半ばなら、このドレスを着た王妃は、可愛らしい姫君だろう。
だが、いくら美女とは言え、キリリとした雰囲気を持つ三十代半ばに差し掛かった王妃にこれが似合うとは思えない。
男性の気持ちにはなれないが、モゼリーの想像で言わせてもらえるならば。
ーー萎える、というやつではないだろうか。
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