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1 それは見合いか、侵略か

長編を書いてみたくて挑戦しました。

ゆっくり更新になると思いますが、読んで頂けると嬉しいです!


アルファポリスにも掲載しています

 昔むかし。

 周りを海で囲まれた小さな島国がありました。その島国は、海の向こうの大陸では善人の国と呼ばれるほど嘘をつくのが苦手な国民性で。

 兵士も最低限しかいませんし、戦争もしたことがありません。


 当時は後に諸国動乱の時代と称される程、海の向こうの大陸では戦争の絶えなかった時代です。


 では善人の国、オレオ島は戦わずしてどのように生き抜いたのか、その真相に迫る、そんなお話し。



 ★



 バタンッ!!!

 およそ淑女らしくない物音を立てて国王の執務室に飛び込んできたのは、オレオ島唯一の次期後継者であるモゼリー姫である。


「お父さま! ショリア国の王子とのお見合いがまたダメだったってどういうことですか? 今度こそ自信あったのに!」


「それはこっちが聞きたいよ。母親譲りの美貌を持ってして、大陸の王子の一人や二人落とすのは簡単だと言っていなかったか?」


「まぁ……!お母さまにだけ似ていればこんなことにはなりませんでしたのよ。お父さまにも似たからですわ」



 モゼリーはギロッと睨んだつもりだったが、流し目のような色香を持つ様は国王そっくりとしか言いようがなかった。


 彼女の母である王妃は、その儚げな美貌で今でも妖精に例えられる程に可憐な女性だ。

 対して彼女の父である国王は、フニャっとした面立ちが情けなさそうな印象を与えるが、ふとした時に気怠げな色香を放つ男性である。


 この二人の間に生を受けたモゼリーは、母に似た美貌でありながら儚げさはなく、父以上の色気を持ちながらも、どこか気の強そうな少女へと成長した。


 つまり、色気特化型の妖艶な美少女である。


 彼女がそのプラチナブロンドの髪を耳にかけるだけで周囲はざわめき、そのサファイアのような目で見つめるだけで失神者が出るほどだ。


 しかし残念ながら、その美貌をいかんなく発揮すればするほど、見合い相手の王子達は逃げていく。


 曰く、胸焼けがする

 曰く、浮気しそう

 曰く、愛人なら大歓迎だ などなど。


 モゼリーが自国の貴族を相手に選ぶことが出来ればよかったのだろう。見かけに囚われずゆっくり愛を育んでいけばよいのだ。


 だが、海の向こうの大陸諸国は戦乱のさなかである。平和なオレオ島も、いつ攻め込まれるか分からない。

 今は大した特産物も人口もないからと見逃されているに過ぎないのだ。

 大陸諸国の軍事技術の発展は凄まじく、侵略が始まれば外部から隔離されているオレオ島に勝ち目はない。


 だからこそ、モゼリーの夫となる人物には、大陸諸国の中でも中堅以上の国から婿入りしてくれる王子、という制約がついた。

 イザというときにオレオ島の後ろ盾となり、平時の時にも大陸の技術や文化を取り入れられたら尚良い、ということだろう。


 だが、残念ながらオレオ島には、相手側に差し出せる資源などほとんどない。しいて言えば豊かな自然が産み出す果物は甘味が強く好評だが、それだけだ。おまけに生モノなので日持ちもしない。


 それでもモゼリーには自信があった。幼少期から美しい、美しいと言われ続けてきたからだ。

 モゼリー自身は恋をしたことはなかったが、侍女達から聞く恋とは盲目になるものらしい。

 それならば自分に恋をしてくれれば、オレオ島に婿に来てくれるだろう、と考えたのだ。


 だが、現実は甘くなかった。モゼリーが狙う中堅諸国の王族で婿入り出来る男性の数は限られている。

 大陸の中でも小国の国々もオレオ島と同じようなことを考えるのだろう、婿入り出来る少ない男性に見合いが殺到したのだ。


 その中には、資源に自信のある国も清楚な王女がいる国も多数ある。そうなれば、モゼリーの存在感は霞むばかりで、アピールしようにもいつも時間が足りず帰国してはお断りの返事が届くのだ。



「お父さま……不甲斐ない娘でごめんなさい」


 少し気の強いモゼリーも連敗には心が折れかけて、素直な声が出た。

 しかし娘を慰めようと国王が声をかけようとしたその時、横で控えていた宰相が、青ざめた顔で一通の書簡を国王に差し出した。


「ん……どうした?」


 宰相の、いつもはしない不作法に顔を顰めながら書簡を手にした国王の顔も、次第に青ざめていく。



「モゼリー、ショリア国の王子とのお見合いは気にしなくていい。もっと大変なことになった。戦争か、嫌、違うな……。秒で植民地にされるかもしれん」

 

「まぁ……宣戦布告でも届きましたの?」


 ついに来たか、とモゼリーにも悪寒が走る。



「似たような物だ。お前にガリア大国の第二王子が婿入りの見合いを申し込んできた」


 想像していたのとは違う父の言葉に、思わずモゼリーは首を傾げた。


「は? 大陸の覇者であるガリア大国がですか? いったいなぜですの?」



「何故こんなまどろっこしいことをするのかは儂にも分からんが、向こうがこちらに出向くということは宣戦布告と言うことだろう」


「そうですわね……普通の見合いなら小国が大国に出向くもの。軍を引き連れて乗り込む、ということでしょうか」


「おそらくそうだろう、見合いは口実だ。ガリア大国は次々に植民地支配を広げているようだし、白旗を上げるしかあるまい」


 苦々しそうにそう呟きながらも、国王は自国の民が少しでも良い待遇を与えられるよう、宰相に降伏する際の細かな条件を作成させるよう命じた。


 助けてくれる国に心当たりもないオレオ島にとっては、そうする事が最善であった。


「まぁ、モゼリーも民のために首を捧げる覚悟をしておきなさい」


 植民地にされる土地の王族は、禍根を残さないために殺されるのが普通だ。国王は鎮痛な面立ちで娘を見た。


「……大丈夫ですわ、お父さま。いざとなれば私がお父さまとお母さまの命乞いをして差し上げます」


「だって私、愛人キャラですもの。王子の一人や二人、手玉に取ってやりますわ!」


 モゼリーが冗談めかして得意げに胸を叩きながら告げると、国王は虚をつかれた顔をして、苦笑した。


「全くお前という奴は。見合いに全敗している王女に言われても説得力はないぞ」


「まぁ! 手厳しいですわね」


 二人は空気を変えるために冗談を交わしながら笑い合う。


 モゼリーは入室の時とは真逆の美しい淑女の礼をして国王の執務室を後にした。

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