ヤンデレ妹、見参
飛びかかってきたそいつは、まず最初に馬乗りになって僕の体を押さえつけた。
妹「おかえりお兄ちゃん。どこ行ってたの?」
希「ただいま。帰ってきた兄に対して最初にする会話がそれか」
僕に飛びかかってきたこの女の子は、僕の妹の本錠四葉。僕の唯一の家族であり、たった一人の家族だ。そして、四葉も僕以外に家族がいないため、僕らは二人でずっと過ごしていた。そんな四葉と僕なのだが、妹にはちょっとした問題があった。
四葉「それで……どこ行ってたのか教えてよお兄ちゃん?答え方次第では殺すよ?」
希「別に、ちょっと友達の家に行ってただけだよ」
そう、問題というのは、妹のこのヤンデレ気質である。
四葉「それって同性の男と??」
希「うん。男」
四葉「ふ〜〜〜ん………。嘘だよね、お兄ちゃん??」
瞬間。背筋が凍りつく。
ニコニコと笑みを浮かべながら、我が妹はそう平然と見抜く。その笑った顔が怖かった。今にもやりそうな顔をしてらっしゃる。けど僕は、あくまで平常心を保ちながら、いつも通りの笑顔を浮かべた。
希「なぜ、そう思うんだ?」
四葉「だって、女の匂いがするんだもん。しかも、この日だけじゃない。最近のお兄ちゃんは毎日その匂いをつけて帰ってくる」
「……もしかして、虫??」
希「女の子の事を虫呼ばわりしちゃいけません!失礼でしょ。それに、そんなわけないだろ、ちょっと帰る途中で女の人とちょこっとだけぶつかっただけじゃないか?」
四葉「いや、それはない。そうじゃなかったらこんなに毎日同じ虫の匂いをつけて帰ってくるわけがない」
鋭い妹の言葉が、僕をどんどんと追い詰めていく。僕はそこで、さらに言い訳を重ねた。
希「実は、隣の席に女の子がいるんだよ。その子よく忘れ物をするから、たまにそれを見せてやってるんだ。だからといって、それ以上の感情があるわけじゃないぞ!」
これは嘘でもなんでもないので、言うことにした。
四葉「……どうやら、その言葉に嘘はないみたいだし、今回はそれでいいわ。勘弁してあげる」
「でもお兄ちゃん?次は無いから……ね!」
と四葉は光が灯ってない目で笑顔を向けながら、そう脅しをかけるのだった。
……まあ、僕がそれを大人しく守るわけがないのだが……。
□□□
玄関の廊下からリビングにやってくると、僕たちがいつも食事をするのに使っているテーブルの上に、妹が作ったであろう朝食が並べられていた。
ここで、補足を入れるが。妹の歳は14歳で低身長なのだが、頭が良いのでいつも学校のテストでは全教科満点を取って帰ってくる。しかも、柔道部に所属しているのもありそれなりに腕が立つし高い女子力だって持っている。まさに完璧超人といった妹だ。学校の話を聞く限りでは、男女それぞれに尊敬されており、男子からの告白も多いらしい。
四葉「お兄〜話聞いてた?てか、何もないところで何ぼーっと突っ立てるの?」
おっと、これぐらいにしないとな。
四葉にそう指摘され、すぐさま四葉の方に視線を向けた。
希「いや、ちょっと考え事をしてただけだよ」
「……んでー、なんの話だったかな?」
四葉「そうそう!見て見て、お兄まだ朝ごはん食べてないと思ったから、私頑張って作っといたんだ!」
希「なるほど、だから二つあるのか」
四葉「そうだよ!ほらほら、味の方はお兄に負けてるかもしんないけど、いっぱい愛情が詰まってるから、安心してね!」
それは物理的な意味か?それとも言葉の文か??そう考えると同時にある不安が心の中によぎり、咄嗟に確認をとる。
希「髪とか細胞とか入ってないだろうな??」
四葉「ふぇ?なんで?そんなことしたらせっかくお兄のために頑張って作ったものが台無しじゃん!私は、大好きな人にはちゃんと美味しい物を食べてもらいたいんだ!それに、お兄と私には切っても切れない血の繋がりがあるんだから、そんな事しないよ」
うん。まあまあマトモな感性の状態だな……まだ。
もう気づいているだろうが、うちの妹はヤンデレである。このように僕に固執し僕だけを愛してやまないヤンデレ系ブラコンなのだ。
だから、さっきのように僕の体に女の気配がすれば、すぐに気付くし問い詰めてくる。本当に、可愛いけど手間がかかる妹なのだ。だが、自分の一部を料理に混ぜるなんていう発想がないので、まだマトモな思考をしているからマシではある。
四葉「お兄ちゃん!!」
と、僕がぼーっとしていると。四葉は、こちらに向けて微笑みながら、テーブルの方へと促した。
四葉「早く食べよう!早くしないと冷たくなっちゃうよ」
希「……あぁ、そうだな。じゃあ早速……」
そうして僕と妹は、対面するように椅子に座り一緒に手を合わせて。
希、四葉「いただきます!!」
と、合掌する。
□□□
妹と一緒に朝食を食べ終えた後、僕は使った食器を片付けてから、少し妹に構ってやっていた。今、どのような状態になっているかと言うと、ソファーに座った状態の僕の前側に来て、手を僕の背中に回して、膝に体重を乗せられてる状態だ。
僕の妹は、ヤンデレであると同時に極度の甘えん坊だ。いつも勉強時間外の時や暇な時に、こうして毎日のように僕に抱きつきに、撫でられにやってくる。それだけ、彼女が僕の事を愛してくれているというのが、愛情を知らない僕でもなんとなく理解は出来ていた。
……でも、僕が彼女にちゃんと愛情をやれているかと聞かれれば、わからない。だって、僕は……。
四葉「おにい?もうちょっとわしゃわしゃって感じで頭を撫でて欲しいな…」
希「ん?そうか、わかった」
と、妹に言われた通りに頭をちょっと乱暴にかつ優しく撫でる。指と指の間に彼女の髪を櫛のように引っ掛けて絡まないように撫でていく。
四葉「えへえへへへ〜♪」
四葉は、さぞかし嬉しそうな顔を浮かべながら、べろ〜んっと力が抜けたようになっていた。まるでそれは、撫でろと言わんばかりに膝に乗る猫のようだった。
四葉「やっぱ、お兄最高!お兄から伝わる温かみ、体温、匂い、その全てが今私の体にチャージされていくよ…」
もう一つ付け加えよう……多分妹は変態だろう。
四葉「ねぇねぇお兄?」
希「ん、どうした??」
四葉「これからもお兄は、私の隣にいてくれる?」
と四葉は、そんな当たり前な事を突然聞いてきた。僕はそれに呆れた気持ちで「当たり前だ」と返してやった。
四葉「えへへ!お兄と家族で、本当に良かった!!」
そうして四葉は、静かに目を閉じスースーと寝息を立てて眠りに落ちた。
僕は、愛がなんなのかを本以外では知らない。妹に与えてる愛情だって、全ては小説や漫画から得た知識を元にやっているだけだ。僕の心の中は、愛情を感じる機関が損失している。無くなったってしまったのか、忘れてしまったのかはわからないが、僕は小さい頃にそれを無くした。それでも、家族を大事にしたいという気持ちはあるようで、それのおかげで今まで妹に十分過ぎるほどの愛情を与えることができていた。与えすぎたからこその今のヤンデレ妹が生まれたのだけど……。
けど、四葉は僕の妹ではない。遠い親戚の子なのである。血のつながりがあるのかどうかも怪しい。けど僕は、こうして生きている以上、果たさなければならない。
妹を大事に育てることを……。
□□□里紗穂視点
柊「あぁ〜、つっっっっっかれたーー。まさか、部屋に押しかけてくるとは思わなかったよ」
急なことでビックリしたが、まさかあんな事を私がアイツにお願いするとは……。
柊「まあ、確かに希は教えるのが上手いしすらすらと問題だって作ってくれるけど……」
いくらなんでもあちらにメリットが無さすぎる。いやまあ、希なら「君といられるだけでもご褒美だから、別にいいよ!」って言ってそうだけど……。
柊「男なんて結局、所詮は小さい奴らばかり。いつかアイツも、私の元からいなくなるのよ」
「……って、こんなこと考えちゃダメダメ。今のうちに、昨日教えてもらったところをおさらいしないと!」
そうして私は、午前から昼頃になるまで勉強に打ち込むのだった。
?「…………」
□□□希視点
今の時間は昼の13時過ぎ頃。
僕は、里紗穂にあげた人形に仕掛けた“音声拾い式小型カメラ”を使って、パソコンのモニター越しから里紗穂の姿を今日も観察していた。
希「おっ!今日も里紗穂は昼から夕方までの時間の塾に向かったようだね……よし!!僕も行こう!」
そうして僕は、ノリノリで準備していた荷物を持って、妹にバレないように今日も彼女のために外出する。今妹は、昼寝中のはずなので大丈夫だろう。
と、そう思いながら流れるようにマンションから出た。
それからしばらく歩いて、里紗穂の通う塾近くの商店街にたどり着く。ここは、初めて彼女をガラの悪い男から守ってあげたところだ。アレからもう一ヶ月も経っているのか……。本当に、時間の流れというものは早いものである。
と僕が過去に浸っていると、里紗穂の姿を見つけた。里紗穂はどうやら、僕の存在に気づいていないようだった。
よし、それじゃあ今日も彼女を守るためにストーキングするぞっと、心の中でそう意気込んだ……その時だった。
??「ねぇ、君。そんなところで何隠れてるの??」
と、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきて、そいつはどうやら僕のことを呼んでいるようだった。なんとなく誰なのかわかっているが、僕はいつもの笑顔を張り付けながらそいつの方に視線を向けた。
すると、そこにいたのは……。
沙織「へぇ〜…。アンタが里紗穂の追っ掛けくんか……意外に女っぽいのね」
里紗穂の親友の清原沙織だった。
だが、僕でもそれ以外の情報は知らず、いまいちどんな人なのか僕でもわからない奴だ。
沙織「ねぇ、ちょっと私と話をしない?どうせあなたも、私に聞きたいことがあるんでしょう」
希「なんのことですか?私とあなたは初対面でしょ。なんならお互い名前だって知らないはずだ……どこかでお会いしたことがありました?」
沙織「別に惚けなくても大丈夫。私、全部知ってるから……。あなたが毎日のようにリーホをストーカーしてることも、犯罪紛いな事もしてることもね」
希「おいおい。もしかしてそれで僕を脅すと??」
沙織「脅しではないわ。私はただ、貴方と話がしたいだけ。ほら、こうやって話している間に里紗穂もいなくなったし、どうせ盗聴器やGPSでも仕掛けてるんでしょう?一見、ワイヤレスイヤホンのように見せて隠しているようだけど、私にはわかるわよ」
と言って、僕の右耳の方に指を刺す。髪で隠れているのによくわかったものだなと感心しながら、冷静に言い訳をした。
希「……いやいや、これはただのワイヤレスイヤホンだよ。音楽聴いてただけで」
沙織「じゃあどんな曲なの?そのイヤホン貸して聞かせてよ」
希「そっそれは………」
完全に追い詰められた状態になった僕。まさか、ここまで頭が冴える人がいたとわ。彼女のスマホには、僕がストーカーをしている動画の証拠と、どこで調べたのか僕がやっている事すらも知っていた。それでも、僕はなんとか回避する作戦を考えるが……。
沙織「いいのかな〜?あなたのストーカー映像……世に出しても……?」
希「っ!?」
沙織「さぁーて、どうする?私についてくるか?警察のお世話になるか?」
こうなってしまった以上、もう逃げることはできないだろう。だとすれば、僕が選ばなきゃいけない選択は一つしか無くて……。
そうして、沙織に追い詰められた僕は、大人しく彼女の言うことを聞いて、沙織の話を聞くことになり、近くの喫茶店にそのまま連れ込まれるのだった。
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