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私が、ヤンデレ男に好かれた話  作者: 松花 陽
7/14

そいつは、入ってきた

私でも、何を思って彼女にこれを言ようと思ったのか、わからなかった。でも気づけらば、私は口を滑らせていた。

思い返してみれば、本錠希という少女とは、出会い方は異質であれど、結構な長い付き合いだった。一緒に過ごした時間は、昔馴染みである沙織以上にあるのかもしれないと思ってしまうほど、この少女とはかなり長く関わった。……長く関わっていくうちに、私は心の中で、彼女を許していたのかもしれない。

だからといって、ヤンデレである彼女の警戒が完全に解けたわけではない。でも、私が自分でこの事を喋ったという事は、それなりに私は彼女の事を許しているのだろう。

そして彼女は、私のこの話を聞いた後、私にこう申し込んできた。


希「……僕が、勉強教えてあげようか??」


……と。それを聞いた私は、驚いた。その申し出に私は迷う事なく、


柊「はい」


とあっさりと直ぐに承諾した。

おかしな展開だよね。求婚を迫ってくる元自殺志願者の人から、勉強を教えてもらうだなんてさ……。

それから、私は早速彼女に勉強を教えてもらう事にした。希は、私が解く問題に、間違えがあればすぐに指摘し、細かい説明を入れて正解に導いてくれた。彼の説明はとてもわかりやすく、時には物凄く複雑で難易度の高い計算や英文などでも、彼女は流れるように私のペースに合わせて教えてくれた。彼女に勉強を教えてもらっている時、私はふと疑問に思った事を彼女に聞いた。


柊「そういえば、アンタ結構賢いけど。前回のテストの平均点って、いくらなの?」


希「僕?55点だけど??」


柊「えぇ!?!?」


希のその驚きの点数に、私は思わず大きな声で叫んだ。


柊「こんなにも難しい問題がわかって、しかも応用までわかっちゃうのに全教科平均点が55点!?おかしいでしょ!?!?」

「……私よりも低いじゃない」


意味がわからなかった。今日だけで何回こう思ったかわからないけど、これに関しては今日で最も一番意味がわからなかった。


希「まあまあ落ち着いてよ。ほら、まだ食べてない饅頭あげるから食べなよ」


柊「う、うん」


そう促されて、渋々その饅頭を口に入れよく噛んで飲み込んでいく。ていうか、もともと私が出したものだからあげるって言い方はおかしいと思うのだが……?まぁ、それなりに落ち着けた私は、また彼女の方を向いて先ほどの疑問を問いかけた。


柊「……なんで、そんなに賢いのに点数が低いわけ?」


すると、希は悩むような素振りをした後、少し間を開けてこう答えた。


希「……そうだね。一番の理由としては、目立ちたくないからかな?」


柊「ふーん?どういうこと?」


私はその理由の意味がわからなくて、尋ねる。


希「僕はね、テストの点というだけの事で、目立ちたくなかったんだよ。確かに、高い点数を取ればみんな僕に注目するだろう。でもね、みんなが見ているのはテストの点数であって、決して僕自身に興味はあんまりなかったんだよ。実際、テストが配られてからのその数日後は、テスト前と同じように、誰も僕に見る気もしなかったんだ。そりゃあ、僕に友達が入れば、その人は僕自身を見てくれるけど、全然話したことない人には僕に興味は無いんだよ」

「だから僕は、テストの点数というだけで目立ちたくない。それに……今は君がいるしね!!」


そんな元気の良い声で、途端に真面目ムードが消え去っていった。一気に台無しである。


柊「あー、うん。ウレシイワァ〜」


希「なんかあまり嬉しそうじゃなさそうだね。ほら、そんな事よりも次行くよ!次は地理や歴史だ!地理や歴史は暗記すれば何とでもなるから、わからない問題がもし有れば言ってよね!すぐ指摘していくからね!」


そうして、私たちは勉強を再開するのだった。

そこからは、時間の流れが早かった。気づけば、外はもう暗くなっており、時間はとっくに七時を迎えていた。寒々しい秋風が窓の隙間を通って私たちにいらない寒さを与えてくる。


希「あらら、もうこんな時間だ。これはもう、君の家に止まるしかなくなってしまったようだね」


それを聞いて、私は僅かに寒気のようなものを感じる。さらに体が冷え込んだような気がした。そういえば、お茶飲んだら帰ってもらうつもりだったが、完全に忘れてしまっていた。こんな時間に外に放り出すわけにもいかず、かといってこの危険な女を泊めるわけにもいかなくて……。

悩んだ末私は……。

私はそのお泊まりを承諾したのだった。


柊「わかったわよ。長い事私の勉強見てくれたし、今日だけは泊めてあげる。ただし……変な事はしないでよ!絶対に、しないこと!」


希「大丈夫だって!そんなに念を押さなくてもそれくらいはわきまえてるよ!」


柊「疑わしくて素直に信じられない」


希「さーて、君は勉強で疲れただろうから今日は僕がご飯を作ってあげるね!」


柊「こら、話をそらそうとしないでよ。って、もう取り組んでるし……」


本当なら、私がお礼に料理を振る舞うのが正しいんだけど。まあ、多分言っても聞かないだろうし、させておくか。

そうして私は、ご飯が出来上がるまでの間に、さっき習ったところの総復習をするのだった。


□□□


ご飯を食べ終えた私は、また彼女に勉強を教えてもらっていた。因みに、希の料理は私よりかは下だがまあまあ美味しかった。

希は、私のやっている教科に合わせてただひたすらに教科書を読んでわ、私がわからないところを的確に当てて教え込んでくれていた。

そういえば、彼女は勉強をするのだろうか?

なんとなくそれが気になってしまったので、尋ねてみると、


希「いや、僕は勉強してないよ?だって、学校ではそういうのちゃんと教えてくれるし、教科書にも同じ事が書いてあるから必要ないんだ。あ、でも宿題はちゃんとやってるから安心してね!」


柊「……そ、そうなんだ。アンタって、凄かったのね」


そんな子供みたいな感想しか出てこなかった。なんというか、もともと謎の深い人だなとは思っていたが、今回のそれでもっと謎が深まったような気がした。あの時、希を自殺から引き離してから、希とは長い関係になる。だが、私は希の事をまるで知らない。ただ私の事だけが好きな変な女というイメージしかなかったのもあり、私はあまり彼女に興味なんてなかった。近づいて話しかけてくるから相手をしていただけだと言うのに、どうして私はコイツに心を許そうとしているのだろう……。もしかして、私も段々と変わってきているという事なのだろうか??ううん、今は勉強に集中しないと、せっかく教えてくれてる希に失礼だわ!

……それからまた私たちは勉強を続けた。しばらくして、私は頭が疲れ果てていた。


柊「あーだめだ!考え過ぎてもう頭が働かない〜!」


希「じゃあ、気分転換という事で風呂でも入ってきたら?」


柊「え?アンタいつの間に風呂なんて沸かしてたの?


希「うん!君が熱中して確認テストのページをやっている間にしてきたんだ!!」


確かに、なんかいないなとは思ったが、まさか風呂の準備をしてくれていたとは。なんと用意が早い人だろうか……。


柊「……監視カメラとか、仕掛けてないでしょうね??」


希「いや、してないけど??流石の僕でもそんな事はしないよ??それはもうちょっと、段階を踏んでからじゃないと」


柊「いきなり女子の部屋に押し掛けてきた人とは思えない発言なんだけど??あと、仲良くなっても絶対にそんな事しないからね」

「……まぁ、特に嘘は継いてなさそうだし、とりあえずは信用出来そうね」


希「僕どんだけ君に信用されてないの!?」


と、そんな彼女の叫びを横目に、私は自分のパジャマを持って洗面所の方へと足速に向かうのだった。


□□□


柊「はぁぁぁ……あったかいわ〜」


湯が溜まった浴槽に入り肩までしっかりと浸かる。風呂というのは、幸せだ。静かな空間の中、湯の水が揺れる音だけが反響する。私以外の誰もおらず、唯一一人の空間というものを絶対に味わえる場所。


柊「……やっぱり、疲れを癒すには暖かいお風呂が一番ね」


因みに言うと、私は今、念のため体にタオルを巻いている。理由は簡単、風呂場から出た瞬間にアイツに裸を見られるのを阻止するためだった。別に女同士だから、見られてもあまり問題はないと私は思っているのだが……なんとなく持っていた方が良いと、そう頭が勝手に考えたからだった。


柊「……にしても、人生や運命ってのは、何が起こるかわからないもんだね」

「まさか、重い愛情を送ってくるめんどくさい女に、普通に勉強を教えてもらうなんてさ。……なんか凄く変な関係だし、凄く疲れるけど……新鮮で楽しいなぁ」

「……まぁ、あまり油断はできないけど……」


今学校で起こっている事もそうだが。彼女は私のためなら、なんだってしようとする、そんな自己犠牲をものともしないヤンデレなのだ。どこかヒーローのような感じにも聞こえるが、ヤンデレとヒーローは違う。ヤンデレは、好きな人を束縛したりして自分の物にしようとする。だが、何故か希はそんな事をしない。けど、いつ人を殺しかけるかわかったもんじゃないのは確かだ。

とそんなことを独り心の中で呟いていた、その瞬間だった。ガラガラッと、風呂の扉が開く音がした。


柊「……え??」


私は、頭の上にいくつものハテナを浮かべながら、音がした方に視線をやった。

……すると、そこには。


希「やぁ、リホちゃん!僕も入りに来たよ!!」


柊「っ!?……ちょっと貴方ね、急に入ってこな……い。ヘッ??」


風呂場に侵入してきた希と目があったその瞬間。

奴が入ってきたと同時に視線を合わせた先に見たのは、彼女の顔ではなく腰の辺りだった。まぁそうだろう……。私は湯船で座っているし、アイツは立っているのだ。けど大事なのはそこではない。希の腰には、タオルが巻かれていた。そして、隠してあるのはその腰だけ。それから、だんだんと視線を上に上げていくと、女にあるはずの谷間が無く、柔らかいという言葉とは正反対のガッチリとした筋肉質の胸がそこにはあった。それが何を表しているのか……。

それを見た私の頭が、高速で脳を働かせて、すぐにそれを理解した。


柊「あっあああああアンタ男だったのーー!!!」


頭では理解したものの気持ち的には困惑しており理解してるけど理解してなくて私はそいつに酷く驚いた。


希「はは、そうだよ!言わなかったっけ?」


コイツは特に悪びれもせず笑顔を浮かべながら言う。私は慌てて体を湯に浸からせ、オマケにタオルも巻いて一生懸命己の生まれた姿を隠す。

なんということ、私ともあろうものが男に裸を見られるだなんて!!


柊「な、何しに来たのよ!」


希「何しにって、君の背中を流しに来たんだ!」


柊「ダメに決まってんでしょうが!!そしたら貴方に見せる事になるじゃない!!」


希「……あ!確かにそうだな。ごめん」


柊「謝んなくていいからさっさと出て行ってよ!この、このぉ………ヘンタイ!!!!」


刹那。私は近くにあった桶やら何やらを男に勢い良く投げつけた。


希「いたた!?ごめんごめん、つい君のはた…背中を流してあげようと思って」


柊「やっぱり変なことするつもりだったんじゃない!!」


希「そんなことな……うわあっ!?」


ツルッ。バタンッ!!


すると、彼は突然ビックリしたような声をあげると、そのまま後ろ向きに倒れ、気づけば勝手に気絶してしまっていたのだった。

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