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私が、ヤンデレ男に好かれた話  作者: 松花 陽
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狂ってる

男「一体どういう嫌がらせをしたって……?そ、そんなの自分で確認したほうが早いんじゃないのか??」


僅かに怯えながらも、そう虚勢を張る根暗そうな男。僕はその男の背中にそれを押し付けながらも、片手で靴箱の中を確認する。

……するとそこには、昨日と同じように大量の画鋲が仕込まれてあった。


希「なーるほど。多分、僕の靴箱にも同じ事をしたんだろうな。だとしたら……僕ら二人は何故かお前に恨みを買われているという事か?」


と、尋ねると……その男は笑った。


男「恨み?そんな物はない。……きっと、存在しない」


希「まぁ、僕らは特に何にもしちゃいないからな。そういう恨みを買われる筋合いはない。なら、どういう目的でこれをしたんだ?……何かしらの意図があっての行動である事は間違いないだろう??」


男「あ、当たり前だ……今アンタたちは学校中で噂されている。冴えない男と塩対応の女の二人が、目立ってなかった二人がいきなり付き合ったってな」


希「……ふ〜ん?はたから見たら僕らはカップルに見えるのか、なるほどなるほど」


それは良い事を聞けたかもしれない。周りの人からしたら僕らはそういう関係に傍から見えるのか。まあ、と言ってもそれとこれとは話が別である。


男「それが、気に食わない集団がいたっていうだけです……そしてあなたたち二人は今、その集団の標的にされている」


希「所謂……イジメってやつか?」

「でも、その言い方だとまるで、私は関係ないですっと言わんばかりの発言に聞こえるのだが……?」


男「そ、そりゃあ俺は関係ねぇよ!だって、俺は指示されてこんな事をやらされてるんだよ!……指示されなかったらこんな事……」


希「指示されたからなんだよ??結局のところお前はその誰かさん達に加担したのは間違いないんだ」


指示された?脅された?……そんな事、関係ない。コイツはその行為に手を染めてしまった。共犯みたいなものだ。どう言い訳しようと、結局こいつはそいつらに協力した。そんなもの、例え先生が許そうとも、僕は許さない。僕からすれば、それは罪なのだ。そんな罪を犯してしまったのなら、断罪しなくちゃいけない。だったら、どういう方法で断罪してやろうかと考えていると……。


男「……ここで、俺に何かをしたとしても、何も意味はない……。奴らはもう、お前たちに標的を絞っている……そして、壊れるまで遊ぶ、その精神が壊れるまで……そういう奴らの集まりだ」


希「……一体、誰なんだ?そいつらは」


男「そんな事、言えるわけねぇだろ……それがバレたら次誰がイジメの対象になるのかお前はわかって言ってるのか!?」


希「…あっ??知らねぇよ。僕はお前なんていう人間クソほどどうでもいいからな」


男「お前……狂ってるよ……」


希「それをお前が言えた口かよ。……どう考えても、僕らがお前に言うべきセリフだぞ……?指示されたからって、恨みもない人間の靴箱に画鋲を仕込むなんてそれこそ狂っているとしか思えない」


男「やらなかったら次は俺がそれを受ける事になっちまうんだぞ!?」


希「だぁから、知らねぇよ。誰もお前の事情なんて聞いてねぇよ」


僕は、強くそれをそいつの背中に押し付けながら……。


希「答えて貰おうか?裏でお前に指示をした人間の事を……」


男「……その前に、一つ聞かせてくれ。アンタが今背中に押し当てているのはなんなんだ……?」


希「あぁ、これね?カッターナイフだけど??今は勿論刃をしまっているけどね……。僕はいつだってこの刃を飛び出させて刺す事が出来る。そしてお前は今、丸腰だ。どちらが優位かなんて考える必要もないだろう……?」


男「た、たしかにその通りだ……けど!!」


その瞬間、その男は無理やり僕の支配から逃れて僕に向き合った。


男「そのナイフ以上に、俺はイジメられたくないんだよ!!俺は、奴らに徹底的に精神を壊された!!」


希「そんなに怖いのか、奴らが」


男「当たり前だよ!というかなんでお前はそんなにもケロッとしているんだ!!イジメられかけているんだぞ!?精神をズタズタにされるかもしれない!痛い目に遭うかもしれない!……それなのに!どうしてお前はそんなにも余裕をこいていられるんだ!!」


それはそうだ。どうして僕はこんなにも余裕でいられるのだろう。普通に考えて、虐められる人間というのは大体怯えるもんだ。これから起こる絶望に、身をすくませてしまう。……けど、僕にはそれがない。きっと、そういう感情が欠落しているのだろう。

僕の頭の中には、結局 里紗穂りさほしかいない。ずっと里紗穂の事ばかり考えているし、自分の過去については思い出さないようにしている。だから、恐怖なんてものはない。イジメられる事も、今コイツと戦い合う事も。

ただ、里紗穂を守るために……僕は拳を握る、それだけだ。


希「……元々、五体満足で返すつもりなんてなかった」


僕は、仕方がなくカッターをポケットの中に仕舞い込みながら。


希「後悔させてやるよ。あいつらの言う通りにするんじゃなかったってな」


男「……はっ?お前、何言ってるんだよ」


そいつも、僕に拳を構えて……。


男「結局、ナイフなんて使わねぇじゃねえか!殺す……なんて言葉も、全てハッタリじゃないか」


希「お前が張本人ならば、今ここで刺し殺してもよかったが……。いわく、犯人はお前じゃないみたいだからな。……だから、今はまだ面倒事にはしたくないだけだ。……ただ、そんだけだ。何もかも終われば……またお前の元に顔を出すさ。そして、しっかりと刻みつけてやる。どういう事をしたのか、その罪を理解させる」


男「……終わらないよ。お前一人の力で何ができるんだよ!!空手を習ってる俺でも勝てなかった集団なんだぞ!!いくら力ある人間でも、集団相手に勝てるわけがないだろ!!」


希「……だから、なんだよ??」


僕は、ゆっくりとそいつに歩み寄って……。

……そして。

……思いっきり、その顔面をぶん殴った。


男「いっ……つぁあっ……!?」


その瞬間、そいつの鼻から大量の血が溢れ出た。手の甲が、ヒリヒリとしている。ま、人を殴ればこうなるわな。


希「悪い悪い。てっきり口元を殴ったつもりだったんだが。……手元が狂っちまったみたいだ。運が良かったな」


男「……どこが……だよっ!?!?お前、マジで殴るんじゃねぇよ!?」


希「逆に、マジで殴る以外の選択肢があると思ってるんですか??」


僕は、小首を傾げながら……。


希「ガキのケンカをするつもりはないんだ。……僕が持っているのはこの思いっ切りのよさだ」


相手を傷つける事も、殴る事も刺す事も何もかも……僕は何も思わない。ただ真っ直ぐに、自分が正しいと思った事をする。その決断力こそが、僕の強さだった。


希「たしかに、僕は冴えないし学校でもそこまで目立つタイプではなかったが。それでもな、お前なんかに負けるつもりなんて毛頭ねぇんだよ」


男「……っ!?!?」


そいつは、僅かにたじろいだ。恐らく、自分の想定していたケンカと全然違っていたのだろう。少なくとも、血が出るなんて思いもしなかったはずだ。だが、そんなケンカしたところで無意味だ。所詮は、ただのじゃれあいに過ぎない。僕らが今やろうとしているのは、そんな血を流す喧嘩だ。だからこそ、僕は思いっきり拳を叩き込んだ。まぁ、正直なところこんなにも腑抜けだとは思わなかったが。


希「……さぁて、やろうか。どちらかが倒れるまで、永遠に殴り続けよう」

「ま、最悪の場合……どっちかが死ぬかもな」


男「……やっやめ……!?」


……と、僅かにその男が恐怖の声音を上げた瞬間だった。


??「……待って!!」


……その、聞き覚えのある声が響き渡った。

思わずそちらに視線を向ける……すると、そこには……。


柊「……そこまでにして、希」


希「……里紗穂?」


するとそこには、里紗穂りさほが立っていた。そして、先程の男はその隙にどこかに逃げてしまっていた。追いかけようと一瞬思ったが、里紗穂がいる手前そんな事は出来ない。……だから僕は、彼女に声を掛けた。


希「どうしたのリホちゃん。こんな朝早くに登校してきてさ……」


柊「……嫌な予感がした、ただそれだけ」

「先日、私が靴箱で動揺しているところをアンタに見られた事があったでしょ?だからもしかすると、と思って……」


希「……ほぉ、やっぱりあの時靴箱に何か入ってたんだ」


柊「……気づいてなかったの?」


希「そうだね、でもなるほどね。それなら全て納得がいく……」


……つまり、僕が画鋲を仕込まれていた日にはもうすでに里紗穂の靴箱には画鋲は仕込まれてしまっていて……。そしてそれを、ずっと黙り続けていて……隠し続けていて。


希「なんで、言ってくれなかったの?」


と、思わず尋ねてしまった。


柊「……言って、どうなるの。別に何の意味もないでしょう?」


希「それでも言ってほしいと思っちゃうんだよ。……そんなに僕って頼りないの?」


柊「頼りがいがあるから、頼ろうと思わなかっただけ……。それに、あなたがこれを知ったら何やらかすかわかったもんじゃないもの。……でっ、ここに来てみたら案の定面倒な事になっていた。……それだけよ」


希「因みに聞くと、止める理由ってのはなんなの?」


柊「アンタなら勢い余って殺しかねない。……だから止めた」


希「いやいや、さっきのでそんな事をするつもりはなかったよ。……今警察沙汰になるのは御免だからね」


柊「……じゃあ何もかも終わったら、貴方は警察沙汰になってもいいって言うの??」


希「そうせざるを得ない状況ならの話だけどね……」


柊「馬鹿なの……それで貴方が捕まったら本末転倒じゃない。貴方はずっと私の傍に居るって言ったんでしょ、だったらそんなくだらない事で何処かに行かないでよ」


希「……!それってつまり、ずっと傍に居て欲しいってこと!?」


柊「ち、ちがうわよ!!そんな露骨に喜ばないでよ!!!」


しょぼん、と肩を落としてしまう。……だよな、そんな上手い話があるわけないよなぁ。


柊「……でも、よかった。本当にヤバい状況になる前で。とは言っても、相手側に怪我をさせてしまったみたいだけど……」


希「こんな事をしている時点で、どっちもどっちだよ。……それに、ちゃんとこの証拠写真も撮ってあるしね」


柊「……随分と用意周到なのね」


希「まあ、持っていて損はないからね。こういう交渉材料はさ」


柊「もしもそれが役に立たなかったら……?」


希「まぁ、その時は世間に公表して相手を社会的に殺す。……そして、現実でも地獄を見せる」


柊「社会的に殺すだけでなく、現実でも似たような事をするってどんだけ鬼畜なのよ……」


希「それだけの事をしたんだからそれだけの罪を受けて当然だと僕は思うけどね」


柊「……て言っても、画鋲を置かれてるだけなんだけどね……」


希「それがダメなんだよ。僕だけならまだしも、あいつはリホちゃんの靴箱にもそういう嫌がらせをしたからね。だから、教えてやらないといけないんだよ。誰のフィアンセに手を出しているのか」


柊「別にまだ私は貴方の女になったつもりもなければ、フィアンセになったつもりもないのだけど??」


希「えっへへ、どうだったっけ!」


柊「都合の良い頭な事で……」


と、里紗穂は呆れるように息を吐いて、そして僕に言った。


柊「とりあえず、今回の件でもう少し話そう。ここは案外一目に付いちゃうから、私の教室で」


希「はーい!」


ま、朝が早いとはいえもしかすると目撃されてしまう可能性もあるからな。だったらさっさと移動する事にしよう。にしても、やっぱり里紗穂はかっこいいし可愛いなぁ……などと、そんなよこしまな事を考えながら僕は里紗穂の隣を歩いて教室に向かうのだった。

はぁ〜〜…やっぱり幸せだなぁ。こうやって里紗穂と一緒に歩くのは。

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