ヤンデレ講師
翌日の教室にて……。
今僕は、自分の教室で里紗穂のための問題を作っていた。この前、里紗穂の持ってきた雇用契約書に僕はサインをし、その日から僕は彼女だけの家庭教師へと昇級した!勉強を教えるという理由でずっと近くにいられるのだ!昇級と言わずしてなんという!
??「随分とご機嫌じゃない、青のりくん」
心の中でここまでの状況説明をしていると、急に隣から声をかけられる。僕はそいつの悪口のようなあだ名にツッコミをせず、普通に言葉を返す。
希「校内で声をかけてくるなんて、珍しいこともあるんだな、裕香」
先ほど僕に対して青のりと呼んだ彼女の名前は伊藤裕香。いつも白衣を着ており、いつも無表情なストレートヘアーの茶髪の女。自称天才発明家を語っており、僕の隣の席だ。
裕香「別にいいでしょ、青のりだって話しかけてくることあるじゃん」
希「“契約”の時、だけどな。あと、お前に教科書貸すときくらいだな。……そういえば、頼んでたものはもうできたのか?」
裕香「えぇ、一回失敗したけど。なんとか要望通りのものを作り上げることができたわ。いつなら受け取れる?」
希「今日の放課後の商店街辺りのヤーソンっていうコンビニの前。ちょうどその近くで用事があるからそれが終わったら取りに行くよ」
裕香「わかった。もちろん、代金も忘れずにね」
希「わかってるよ。ちゃんと言われた通りの額揃えてくるから安心しろ」
とそんな会話をコソコソとしていると……。
別クラスの男「伊藤さん!」
急に別クラスのとにかくイキったイケメン君が意気揚々と彼女に話しかけてきた。さっきまで僕と話しているのが見えなかったのか、はたまた彼女以外に眼中に無いのか、こんなクラス中に晒された場で男は裕香に何かを伝えにきたようだ。
イキイメ君「伊藤さん!君のような美しい女性は、この俺にふさわしい!どうかな、俺と付き合う気はないかい?」
うわお。まさかこんな場所で堂々と告白をするとは……随分と自分に自信があるようだ。僕から見ても、こいつの容姿は果てしないほどに整っていた。どうやら、自信満々に言ってみせただけのことはあるようだ……けど。
裕香「……お断りよ」
イキイメ君「エエエェぇぇぇぇーーーっっっっっっ!!!」
あまりのショックだったのか凄い顔で絶叫する男。
裕香「悪いけど私、男に興味ないのよ」
イキイメ君「なっなんと!?この池崎葛道が振られただとー!!」
お前そんな名前だったのかよ。と、後に忘れるであろう名前に、そう内心でツッコミをする。
裕香「どうしても付き合いたいなら、クレーンのように首を伸ばして、重い物を持ち上げられるようになったら考えてあげるわ」
葛道「遠回しに死ねと??」
希「やめとけイケメンくん。コイツ生粋の重機好きで、変人なんだ」
裕香「そっ、だから諦めてほしい」
葛道「ふふふふふふふっ……」
裕香「??」
葛道「フハハハハハハハッ!!」
なんだコイツ、急に高笑いしだしたぞ。
葛道「まあ別にいいさ!俺にはまだまだ未来の彼女候補がいっぱいいるからね…。言っとくが、決してモテないわけではないからな」
それ言ってる時点でモテないって宣言してるようなもんなんだが、それは??
裕香「気になったので聞くが、その候補というのは誰々なんだ?」
葛道「まず、後輩の実里ちゃんだろ。あとは、三年の山島先輩に生徒会副会長の二ノ宮ちゃん!あっ、塩対応の柊ちゃんもいいよね!」
希「………はっ??」
瞬間、そいつに向けて強い殺気を放つ。
葛道「なっ、なんだよ??今にも俺を殺しにかかりそうなその目は??」
「あぁそうか!君は確か最近柊ちゃんに付き纏っていると噂の女だな!」
希「残念ながら男だ」
葛道「頭がいいはずの俺が、二択で外すだと……!!」
男であることに驚くのかと思えば、そいつは斜め上の結果で驚愕した。どんだけショックなんだよ。と思いながら僕はそいつの肩に手を乗せる。
希「誰にだって間違いはあるものさ。それをバネにして進め。……あと、里紗穂のことを狙うのも間違いだから僕の気が変わらないうちに取り消しな」
葛道「………はい」
とびっきりの笑顔で僕はそいつを慰める…そいつにだけ伝わる圧を出しながら。そいつの肩から手を離し解放すると、一瞬でさっきの感じに戻り何事もなかったかのように男は教室から去っていった。
裕香「慰めと見せかけての脅しとは。流石は青のり、やることが違う」
希「嫌な種は早めに潰すに限るしな」
裕香「私も同じ考えだ。君と話すようになって半年以上経つが、どうやら私たちは結構馬が合うようだな」
希「えーー…僕はお前じゃなくて里紗穂と心を通わせたいよー」
裕香「わかりやすいくらいに嫌な顔をするな。…私だって傷つく時は傷つくのだぞ」
希「それはすまんな」
裕香「謝らなくてもいいよ。本当は全く傷ついてなんかいないからね(キャピ)」
だろうな、と僕は心の中でそうツッコミをしながら、イライラを頑張って鎮めるのだった。
彼女との話が終わったと同時にちょうど良いタイミングでチャイムの音が鳴りだした。そうして、すこし遅れて入ってきた先生が授業の合図を呼びかける。
先生「それでは授業を始める。号令の前に……伊藤くん、準備物は?」
裕香「あっすいませんセンセー、今日も忘れましたー」
といつものやる気のなさそうな声音でだらしなくそう伝える。
先生「またか〜……おい本錠くん、今日も貸してあげなさい。あと、君からも彼女に持ってくるよう言っといてくれ」
いや自分で言えよ、と思ったがそういえばこいつめんどくさいことは覚えない奴だったわ。1番身近そうな人がネチネチと言ってくれた方が効果があると先生は思ったのだろう。
………全く、めんどくせえ。
裕香「いつも悪いな青のり」
希「そう思うなら持って来い」
言っても聞かないだろうけど、とりあえず言っとく。まあ、僕も諦めてるからこの一回で僕の注意喚起は終わるんだけどね。
そうして今日もいつも通りの学校生活を送り……
□□□
……放課後になった。
裕香「今日もあの子のところかい」
希「そうだね。これから図書室に向かうんだ」
裕香「青春だね〜」
希「それじゃ、また後で」
裕香「あぁ、あとでな」
そうして、僕はその場を後にするのだった。
早歩きで僕が図書室に到着すると、扉の向こうから二人の話し声が聞こえてきた。一人は里紗穂だとすぐにわかったのだが、もう一人の方は僕の知らない人の声だった。僕はそこで足を止め、リュックの中からイヤホンを取り出し耳にはめる。そして、盗聴を開始しようとした…‥しかし。
希「…まじか」
どうやら、彼女に盗聴器の場所がバレてしまったようだ。なんにも聞こえてこない。流石は里紗穂!と褒めたいところだが、今はそんなことよりこの声の主が誰なのかが僕は気になってそれどころじゃなかった。
仕方ないので、扉に自分の耳をくっつけて物理的な盗聴を試みる。
希「………」
とても仲良さそうな話し声が聞こえる。どうやら里紗穂と話しているのは女の子ようだ。ホッとする反面、僕の頭には少しの疑問符が浮かんだ。
学校で一人も友達のいないボッチの里紗穂がなぜ今になって人と仲良くしているのか?いや、友達を作るのに時期とかそういうのは関係ないか。それに、これは里紗穂に非常に失礼だ。
だって、僕がいるんだから彼女がボッチなわけないじゃないか!誰だよボッチって言った奴…………あっ、僕か。
と自分の脳内でそんな一人芝居を繰り広げる。
流石にこれ以上待たせる訳にもいかないなと思った僕は気持ちを切り替えて、元気良くその扉を開けるのだった。
□□□
希「リーサホッ……お待たせ!」
私がとある女の子と話していると、希がいつも通りの高いテンションで図書室に入ってきた。頼むから音量を下げてほしい。
女「あっ、それじゃあ私はこれで。またね」
その女の子は、なにかを察したのか荷物を急いでまとめて部屋から出て行った。
希「さっきの子は?」
案の定、彼はそのことについて聞いてきた。私はそれに、嘘偽り無く答える。
柊「別に、ただの知り合い」
希「え?友達じゃなくて……?」
柊「今日初めて話したばっかりだからね。そんなちょっと話したくらいで友達認定しないわよ」
希「ふ〜〜ん……因みに、“僕は”友達以上の認識だよね!」
柊「アンタは私につく変態よ。友達でもなんでもないわ」
希「酷いなぁ〜里紗穂。僕はこんなに君のことを一途に愛しているというのに。あと、変態じゃなくてヤンデレね!」
柊「気にするところそこなの!」
希「まあ、そんなことは置いといて………はいこれ」
と言って、希はリュックの中から私のために作った数枚くらいのプリントを私の前に出した。
柊「えっ!?もう作ったの!まだ……そんなに経ってないのに!?」
どう考えても普通ではないその速さに、私は唖然とする。とりあえずパッとその用紙を見てみるが、最近の以外にも少し前にやった分野までも事細かに記してあった。しかも、応用まである。
この男……抜かりが無さ過ぎる。
希「まだまだこれは序の口さ、これからどんどんと上げていくよ!覚悟しててね」
柊「わっわかったわ。あっ、そうそうこれ!」
希が作ったプリントを見て、私は自分のバックの中から先日渡されたプリントを彼に渡した。
希「これは、前に君に渡したプリントだね。うん、確かに受け取ったよ」
柊「うん、頑張って解いたわよ。でも、どうしてあんな簡単な問題ばかりにしたの?あんなの中学生でもわかるわよ」
彼に渡したプリントの問題は、まるで試されているかのような簡単なものばかりだった。少し応用とかも混ざってはいたけれど私からすればこのくらいは簡単だった。
希「だってこれは、君の勉強力と基礎がどの程度身に付いているかの確認のテストだからね」
「ほら、数学とかの公式って基礎が頭に入ってないと見ただけじゃ何にもわかんないじゃん?」
柊「まあ、そうね」
希「つまり、そういうことだよ。だから、次に渡すプリントはこれを元に君の苦手やわからないところをやっていこうと思う。んで、ちょっとずつそれを潰して行くってわけ」
なるほど、それにはそういう意図があったのか。もう少し考えればわかったかもしれないことに私は気付かされた。
柊「意外だったわ。そこんところは適当なのかなって思ってたけど、案外真っ当に家庭教師してるじゃん」
希「まあねー…真面目にしないと解雇される可能性もあるしね。それに、あの書類って親に頼んで作ったものでしょ?ならちゃんとやらなきゃでしょ。いつもふざけたように笑って見せてるけどさ、これでもやる時はちゃんとやる男だぜ!」
柊「ありがとう、とても頼もしいわ」
希「へへっ、僕も君の役に立ててすごく嬉しいよ!というわけで、結婚してください!」
柊「しません」
ガーンっという効果音が聞こえてきそうなくらいショックを受ける希。まあ、すぐに立ち直るんだけど。
希「ダメか〜、いけると思ったんだけどなぁ」
なにをどう考えればいけると思ったのだろうか??
柊「ほら、さっさとやるわよ勉強!まずは今日の復習からよ!」
希「アイアイサー!!」
そうして今日も、私は勉強をするのだった。
「面白い」と思ったら、下にある☆☆☆☆☆から応援おねがいします!
良かったと思えば星5つ、つまらないと思ったら星一つ、正直に思ったことで大丈夫です!
ブックマークもしてもらえると本当にうれしいです!
何卒よろしくお願いします!
あと、Twitterを「甘堕乱」という名前でやってます。よければそちらも見に来てください!