二人だけの記憶
柊「まさか、こんなところで会うなんてね」
?「よ、よぉ……里紗穂……」
柊「久しぶりね、目白。中学校ぶりね」
この男の名前は、目白柳。小学校からの幼馴染で、元……恋人だ。
柊「にしても、相変わらずのイケメン顔で安心したわ。随分と女子達から告白をされてるんじゃない?」
目白「まあ、そうだな。……その、折角ここで合ったんだし、ちょっとお茶でもしていかないか?」
柊「なにそれ、もしかしてナンパ?イケメンなのにダサいわね」
目白「違うよ!ただ、君と久しぶりに話がしたいと思っただけで…」
柊「わかってるわよ。アンタがそういう奴じゃないって事くらい。いいよ、少しだけ付き合ってあげる」
まだ塾の時間まではまだ結構ある。早くきて次の授業の予習をするつもりでいたけど………今日ぐらいゆっくりしたって別にいいだろう。それに………聞きたいこともあるしね。
そうして私は、目白についていくのだった。
□□□喫茶店
店の扉を開けると、カランカランッと感じのあるパイプチャイムの音がこの店の中に反響する。
柊「ここは?」
目白「最近見つけた僕の行きつけの喫茶店だよ。マスター、いつものやつを!彼女には緑茶と、なにか餡蜜かなんかをお願い!」
マスター「はい、かしこまりました」
と、返事をするとマスターと呼ばれていたそのお爺さんは、手際良くコーヒーを淹れて私のお茶と一緒に持ってきてくれた。
マスター「目白君、今日はチョコレートケーキがおすすめなのだが??」
目白「では、それでお願いします」
マスター「わかりました、すぐお持ちしましょう。そちらの連れのお嬢ちゃんも、すぐに甘味を持ってくるからね」
と言って、お爺さんは調理室の方へと消えていった。
柊「なんというか……凄いわね、アンタ。手慣れてる感じがするわね」
目白「まあ、ここの味に惚れたからね」
柊「マスターとの会話なんて、もう常連みたいな感じだったけど?よくココには来てるの?」
目白「うん。コーヒーがとても上手くて、それからずっとココ一筋なんだ」
柊「相変わらず、苦いコーヒーが好きね」
目白「そういうリーホは、相変わらずお茶しか飲まないのな」
柊「いいでしょ、好きなんだもの。それに、先に頼んだのはアンタでしょ?」
目白「ははっ……確かにそうだね。でも、僕が言わなくても自然にお茶を頼んでただろ?」
私はその答えに黙秘で返す。「なにか言えよ」と言ってきたが……。とりあえず緑茶を口に含んで誤魔化した。
柊「っ!?!?この緑茶、凄く美味しいわ……!!」
目白「フフン!だろ?」
なんで目白が得意げなのよ。と言おうと思ったがめんどくさいのでやめておいた。
目白「………なあ、里紗穂?聞いてもいいか?」
突然、空気が重くなるのを感じた。だが、これはわかっていた事だった。
だって私たちには、どんなに普通に接し合えても、埋まらない溝が存在するのだから……。
柊「……なに?」
そうして彼は告げる、その問いを……。
目白「どうして、あの町から離れたんだ?」
柊「………」
目白「確かに僕たちの間にはいろいろ合った。お互い辛い目に合ってきた……でも、あの町から離れる必要はなかったはずだ。どうして……?」
柊「じゃあ……じゃあアンタは、話してくれるの?」
目白「っ!!!?」
私がそう言うと、彼は顔を曇らせて口をつぐんだ。それでも私は、彼に対し追い打ちをかけるように、言葉を続けた。
柊「どうして、あの時別れようなんて言ったの?長年付き合ってきたのに……どうして、どうして理由も言わず別れようなんて言ってきたのよ!」
「私は……あの時の私は、本当に目白のことが好きだった。でも、あれからもう私は、あなたを好きになれなくなった……でもこれは、あなたのせいじゃない。これは、私の心の問題…。別れ話をされただけで、アンタを本当に嫌いになったりしない……」
「教えてよ……どうしてあの時、別れを切り出してきたのか?」
目白「………ごめん」
彼は、それだけしか言わなかった。それだけ言って、ずっと押し黙ったままなにも言おうとしない。
私は思わず嘆息しながら……。
柊「……わかったわ。そこまで何も言いたくないなら……もう私からは聞かない……」
目白「本当に、ごめん……」
柊「………」
目白「………」
重苦しい空気だけが残り香のように辺りに纏わりつく。あまりの気まずさに、私は早くこの場を離れたくて立ちあがろうとしたその瞬間。
マスター「お待たせしました。チョコケーキと期間限定の抹茶タルトでございます」
すると、空気を読んでくれたのかタイミング良くお爺さんがケーキを持ってきてくれた。すると突然……。
マスター「君たち、見てください」
柊と目白「えっ?…ぷっ!あははは!!」
とマスターに促された通りにそちらを向くと、突然マスターがとんでもない変顔を披露し 店の中だと言うのに私たちは不覚にも大声で笑いこけてしまった。
マスター「ほら、またさっきの明るい顔に戻りましたね」
柊と目白「……えっ!あっ確かに……」
マスター「せっかくの甘い物を前にして、そんな顔しちゃダメですよ。もっと笑顔になれる話で笑い合いましょう。それでは、ごゆるりと……」
と言って、マスターはカウンターの方へと戻っていった。
柊「ふふ、面白いマスターね」
目白「そうだな。よし、とりあえず食べようか」
柊「うん……そうね」
その後、マスターの出してくれたタルトをいただいたけど……それはもう凄く美味しかった。抹茶のところはそれ特有の苦味が良く出ていて、下のカスタード生地と相性が良くとても甘くていい苦みをしていて…。タルト生地もそこまで固くなく食べやすくて、二つの味がよく活かされている良いケーキだった。
柊「美味しかったぁ」
目白「だな」
柊「っと、そろそろ塾の時間が迫ってきたわ。それじゃ、私はこれで失礼するわね」
目白「あぁ、気をつけてな」
柊「あぁ、じゃあな」
最後にマスターにも一言言って、私はその店を後にするのだった。
柊「私は、わかってるから………あの時の事………全部」
でも、彼の口から直接聞かなければいけないと思ったから、私は聞いた。そして、また子供のときみたいな友達の関係に戻れたら……なんて。そんな叶わない夢をみる。
そうして店から出た私は、小さくそう呟いて……塾に向かって再び歩きだしたのだった。
□□□数時間後
希「……でっ??どこにいってたの?」
柊「えーっとぉ〜…」
塾が終わった直後のこと、今日の講習も終わり帰ろうと下に降りると……笑顔の圧力を向ける希が目の前に立っていた。流石に目が合ってしまっては変に逃げたりすることなどできなくて、大人しく希の元まで自ら近づく。
そして、この状況という訳である。
柊「別に……そのまま塾に向かっただけだけど??てか、アンタならそのくらいのことわかるわよね?なんで聞いてくるのよ?」
希「カマかけてみようと思ってさ。いや実は、ちょっと補導されかけちゃってさ!はははっ!」
柊「えっ!アンタが!?」
いやでも、冷静になってみればされてもおかしくはない……か??だけど、尾行や気配抹消が上手いコイツが警察にそう簡単にバレたりするだろうか?私にはちょっとそれが考えにくかった。
希「僕だって完全に気配を消せるほど人間辞めてないよ〜!流石に目ざとい人にはバレちゃうからね」
柊「そう言われればそうね。でも、う〜〜〜ん……」
希「ほら、そんなことよりもさ。早く帰ろう!今日やってた勉強のこと教えてあげるからさ!」
柊「だ、大丈夫よ!今日は送るだけでいいから!」
希「えー!なんで……!上がってもいいじゃん!」
柊「アンタそう言ってまた泊まろうって魂胆でしょ?流石に連続は私も嫌よ」
希「バレちった?まあ、正解といえば正解だけどねー」
と言いながら、いつもと変わらない満面な笑みを向ける希。それに私は、いつも通りのため息を吐いて………いつもの日常会話を繰り返した。
希「大好きだよ!(ぼそっ)」
アパートの辿り着いたと同時に、急に自分の耳に小声でそんなことを言われ、なんとも言えない何かが私の体を震わせた。驚いたと同時に、何故だかゾクッとした感覚もあった。いや、急にこんなことをされれば誰だってビクッやゾクッしてもおかしくはないだろう。うん、絶対そうに違いない。
そう自分に言い聞かせながら、仕掛けてきた希の方に視線を向ける。
柊「急に何するのよ希?!」
希「ごめんごめん!求婚のやり方を変えてみたんだ!どう?僕の声、とってもよかったでしょ??」
柊「ビックリと同時になんか嫌な気持ちになったわ。出来ればもう二度としないでほしい」
希「そうだね……僕のデートのお誘いにOKしてくれたら、やめてもいいけど??」
柊「するわけないでしょうが!!」
そう憤怒した私は、ドンドンと音を立てながら自分の部屋に戻り、厳重に鍵を閉めるのだった。
あーもう!私耳が凄く弱いのに。アイツにバレちゃったかな…私の弱み?バレてない、といいのだけど。と、心配しながら
□□□希視点
希「……あれれ。怒らせちゃったかな??」
沙織の話じゃ、里紗穂はゼロ距離で急に囁かれるのが弱いと聞いて試しに求婚囁きをやってみたのだが……。弱いのは本当らしいが、どうやら逆に彼女を怒らせてしまったらしい。
希「これは、高頻度でやるべきじゃなさそうだな。とりあえず、妹も待ってることだし、そろそろ帰るかな」
今日も今日とて、かわいい里紗穂。いつか、君が僕なしじゃ生きられなくなる時が、僕はとても待ち遠しいよ。だから、それまで今は……君のそのツンデレを堪能しよう。
??「………。」
僕は背後から誰かに見られていることも知らずに、そのまま帰路を辿っていくのだった。
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