間話 モエナの告白
あれは、どう言うことだったのだろうか。
モエナは、先日の伯爵家の職業適正の儀のことを思い出す。
「どうしたのですか?」
モエナの様子を見かねた司祭の男が、尋ねる。
「いえ、先日の儀式のことで」
「ああ、貴族であるにもかかわらず、下級クラスの商人であった少年のことでしょうか?」
「ええ。そうです」
「何か気になることでも? おそらく、不倫の末、生まれたのでしょう。珍しくもない」
そう。下級クラスなだけであれば、母親の不倫であれば説明がつく。実際、そう言ったケースは表沙汰にはなっていないがいくつか例がある。ここ最近、ゲルトのレオンへの態度は、自身の子供でないと言う思いからきたものであった。それでも、人によれば酷いと思うかもしれないが、ゲルトにとっては血筋こそが絶対であった。
しかし、モエナは司祭の男の言葉を聞いても、まだどこか悩んでいる様子だった。
「? どうしたのですか? まだ、何かあるのですか?」
「……実はですね」
モエナはぽつりぽつりと話し始める。
「たしかにあの時、商業系適正を示す青の光が輝いたのです。そして、神託が聴こえるはずだった」
通常、儀式の際、職業系統の適正に応じた色の光が発せられ、どのような職業なのか司祭に神託があるはずなのだ。そこはいい。ただ、モエナには、何も聞こえなかった。
「な、なんと!」
「ですが、神託が聞こえないなど。今までになく……咄嗟に商人だと言ったのです」
「……少し、文献を漁ってみましょうか。何か手掛かりがある可能性もある」
「はい。そうですね。探してみます」
「私も手伝いましょう」
「そ、そんな。ポルク司祭のお手を煩わせるなど」
モエナは、司祭の男ーーポルクの言葉に慌てた様子で遠慮する。
「いえ、私も気になることがありますので」
「それであればお言葉に甘えさせて戴きます」
「はい」
こうして、ポルクとモエナの神殿の蔵書を漁る日々が始まった。
レオンの出立の1月前の話であった。