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膿み抜き

作者: あ


 私が自分とばかり会話するようになったのは、一体いつからだろう。他人と会話するのが怖くなったからか、はたまたそんなことばかりしていたから会話が出来なくなってしまったのか。卵が先か鶏が先か――何にせよ私は他人と話すのが苦手で、嫌で、出来ない。避けているし、避けられるようになった。

 外に向かう矢印を無理やり内側に閉じ込めたら、頭蓋の内側で複雑に乱反射して、いつも頭の中がうるさくなった。だけど、一度塞いでしまった出口はそう簡単に開くことはできなくて、増幅、加速し、頭の中でわめきたてる私といつも喧嘩ばかりしている。

 出口は現在進行形で次々塞がれ続けている。必死に出口を探している沢山の矢印はやがて絡まり、ひとつの大きな塊になって、腹にまで落ちてきた。そうして腹に空洞が開くと、ひどく気持ち悪くなる。

 うごめく矢印の塊はとても便利で、必死に奥底に沈めて押し固めていた沢山のことを絡めてこそげ取って、表層にまで持ってくる。それが眼球の後ろを通るとき、ほんの一瞬、本当に嫌な、三つ子の魂百までと、今の私を構成するパーツのプロトタイプ、設計図案をちらつかせて、私は蹲るしかなくなるのだ。

 吐き出すことが出来ない。そのひとつを外に運び出し相手取って会話しようとすると、絡まった他の私までついてきて、いつの間にか二対一、三対一と増えていって、いつしか到底勝ち目がなくなってしまう。そうして私が逃げ帰ると、矢印の私は満足したように頭蓋の内側に戻って再び走り始める。

 あまりにも多くなり過ぎた。

 絵にすれば瞬きを忘れ形にならず、彼らの姿を文にしようとしたって、用意した救いの道を全く無視して、帰巣本能に従い私の辿ってきた終わりをその通りになぞってしまう。嘘の吐けないのをこれほど恨んだことは無い。だから私は幸せが書けなくなってしまった。破滅させるために幸せを描き、時には幸せを積み上げることにすら耐えられず、初めから終わりに走りさえする。

 たくさんの不幸がもう戻れない位置まで踏み出し、そこで足を止めている。沢山、沢山、私の矢印の数だけ。どうすればほどくことが出来るのだろう。どうすれば矢印の繭に隠されてしまった何かをもう一度見ることが出来るのだろう。それに爪先でだって触れることが出来れば、私の積み重ねてきた虚構を無駄にはせずに済む気がするのに。

 それとも、初めからそんなものはないのだろうか。出口がないのではなくて、ただひとりの私が頭蓋の中心で立ち止まって、苦しむふりをしているだけなのだろうか。酔いきることも出来ず、ただ蹲っている。

 完璧とは程遠い私が完璧を求めても、その完璧は不完全だ。何が怖いのかもわからず怯え、身じろぎひとつできず、息を潜めている。ここは冷たく、熱い。いつだって私の求める快適の対岸に居る。

 私は何も持っていないから、何かをつくろうと、どうにか残そうと――ゼロからゼロ以外産まれないことを知っていて、宇宙のある前のうつろを信じている。

 外を知らないくせに内側に拘るから、歪む。何処までも膨らんでゆくから、私はタイトルにいつも苦難する。それでもここにしがみつき続けている。考えない日はない。だけれど、その人の薄さ以上の厚みをつくることは絶対に出来ない。天啓だって閃きのうちだ。人智を出ることは無い。

 この世界を創った、という意味での神はきっといないし、いたとしてもそれは理の内側にいて、きっと性器に似た姿をしている。そんな気がする。


 

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