潜入開始 1
「転送完了しました」
シノビサクラさんの声に静かに目を開くと、目の前に建物が目に入った。
「随分と立派な建物だけどここはどこですか?」
「そこはターゲットの少女が通う学校です。場所は裏門の辺りになります」
声はすれどシノビサクラさんの姿はない。
「今回、私は音声だけのサポートになります。緊急時以外は直接の干渉は控えるようにマスターからの命令です」
「そうなんだ、いつも助けられてるから今回は僕自身で頑張ってみるよ」
ちなみに、マスターとは師匠のことである。
「それでその少女は今どの辺にいるの?」
「記録されているタイムラインでは教室で授業中です」
「了解、そこまでのルート案内をおねがいできるかな?」
「問題ありません。案内を始めますがその前に、認知転換プログラムを展開しください」
「ああそれそれ、、忘れるところだった」
「しっかりしてください」
目を閉じて意識を集中させる。
コンバージョン開始・・・・認知変換・・・・不可視。
これで完了。
特に外見的に変化はない。これはあくまでも自分を認識した人が、設定に合わせて認識する魔法みたいなものである。
不可視というのは文字のとおり見えているが、存在はないと認識するように設定しているので、気づかれない。ただ音声や物理的に消せるわけではないので注意は必要だ。
「まずはターゲットの確認したいかな、タイムラインでどこにいるか教えて」
「現在は2階の通常教室で授業を受けています。ナビを始めます。まずは校舎脇を抜けて正面へ入口へ向かってください」
「了解、ありがとう」
シノビさくらさんの指示に従い校舎の正面へ出てその豪華さを更に目の当たりにした。
迎賓館のような凝った装飾と校舎へ続く庭は綺麗に整備され、ここは学校なのかと疑いたくなるほどの気品があった。
「ここは本当に学校なのかな?間違ってない?」
「間違っていませんよ。もともとここは貴族や有力者の御子息、御令嬢のために作られた学校のようです。時代が変わってその風習は廃れているようですが、優秀な生徒が多いのは変わらないようです」
「へえ、僕は孤児だったしそんな優秀でもなかったから完全に無縁の世界だね」
「その通りですね。迷いなく同意です」
いや、少しくらいお世辞を言ってほしかった。
「あなたは今のままが一番素敵ですよ」
やっぱり恥ずかしいのでお世辞はいりません。
「ターゲットは2階のAクラスに所属しています」
シノビサクラさんの案内で校舎を迷わずに進んでいく。
ただ校舎内も外見同様手の凝った装飾が多くみられ、妙な居心地の悪さを感じた。
「その先を左に曲がればターゲットのいる教室になります」
早速ドアのガラス後に教室をのぞいた。
「えっ・・・・・」
思わず声が漏れた。