第八話 具体的な方策と懸念事項
三人の間で、仮の婚約が成立した。
「正式な婚約は早い方が良いかしら?」
「どうだろうね。学生の間は黙っていた方が、周囲も静かそうだけど」
「それはあるわね」
二人が今後の方策を話し合う。発表すれば騒ぎ出すのは間違いないので、セラの言うとおり黙っているのも手だ。学園にいれば、外部の雑音は遮断できる。
「両親にだけでも、考えを伝えておく?」
セラの質問にリアが少し悩む。
「セラとアレクはそれでも良いけど、お母様に話したら多分漏れるわね」
「侯爵が追及するか?」
「聞かれ続けたら黙っているのは辛いと思うわ。お母様は優しい人だけど、強い人ではないから」
ミュラ様は確かにそういう人だったと思う。小さい頃はよく話していたが、最近はあまり会っていない。
「それなら三人とも黙っていた方が良いな。ミュラ様にだけ話さないというのは、出来ることならしたくない」
話すなら同時の方が良いだろう。俺の言葉に、二人が優しく微笑む。
「そうだね」
「そうしてもらえると助かるわ」
二人が俺の意見に同意したことで、両親には当分話さない方針に決まる。周囲に動きがなければ、学生の間はそのままで良いだろう。
「あ、でも……」
セラが何かに気付いたように声を出す。
「何か気になることでもあるのか?」
セラは少しだけ真面目な顔で話し始める。
「正式な婚約を遅らせると、心配事も出てくるよ」
セラがそんなことを口にする。心配事とはなんだろう? 無茶をしそうなのは、ベンジャミンかお婆様くらいだが。
「兄上が何かするとか?」
「違うわよ」
違うらしい。俺の質問を冷たく否定する。
「入学式の後、女子生徒に囲まれていたじゃない」
「あら、そうなの?」
「満更でもなさそうだったわ」
「あら、……そうなの」
そっちか……
二人が訝し気な視線を向けて来る。リアの視線が少しだけ怖い。
縁談の説明をしておいた方が良いだろう。
「入寮前に縁談の手紙を大量に預かった。彼女達はその相手だと思う」
「へえ……縁談……」
リアが詰るように言い、二人の表情が一層険しくなる。
「縁談申し込みの大半は第二夫人狙いだ。俺がリアと結婚して王位に就くことを想定している。婚約が成立した場合の方がうるさくなるぞ」
「……本当に?」
今度はセラが疑うように言う。女子生徒に囲まれたいと思われているのだろうか?
ここは潔白を主張するべきだろう。
「俺は彼女達と結婚する気はない」
明確に否定すると、二人の表情が少し和らぐ。
「それなら良いけど……アンジェリカからも声を掛けられていたよね?」
「あら、アンジェリカも? 彼女は確か婿を取る立場よね?」
リアの言うとおりだ。
熱心なのは彼女のように、婿を取る立場の令嬢だろう。
「アンジェリカは俺を婿に欲しいという縁談だ。他に二人、婿取りの縁談がある。全員新入生だ。これから顔を合わせることになる」
「断るのよね?」
「当然だ」
リアの質問に肯定の返事を返す。二人を妻にすると先程宣言したばかりだ。婿に行くはずがない。
「でも、簡単に諦めるかな?」
「正式に婚約するまでは難しいかも知れないな」
セラの懸念は正しいと思う。リアとの噂がある中で、縁談を申し込んで来ているのだ。簡単に諦めてくれるわけがない。
「あまり執着されるのは、彼女達にとっても良くないわね」
「他に良い相手がいれば、それが一番良いんだけどね」
「単純に俺の魔法力目当てなら、有望そうな学生を鍛えるんだけどな」
リアとセラの言う通り、早めに他の男を見つけた方が良いだろう。自分の代わりを見繕うのもどうかと思うが、俺が縁談に応じないのは確定事項だ。出来るなら良い相手を紹介したい。
「アレクの代わりなんて……そんな学生いないよ」
「いるぞ。男子寮で少しだけ話をしている」
「いるの!?」
セラが驚いている。隣のリアも少し驚いた表情だ。偶然か必然か……実は二人見つけている。
「そんな人、同じ年齢にいたっけ?」
「記憶にないわね」
セラとリアは貴族のパーティーにもちゃんと出席しているので、同学年の貴族のことは頭に入っている。まあ、強くなるのはこれからなので、心当たりがなくても無理はない。
「それより、女子生徒への対応だな」
俺が話しを戻すと、二人も男子生徒の話題を止める。
「そうね。アレクを婿に欲しい理由を聞いてから考えましょう」
「それ以外の子達は、気にしなくていいの?」
「アレクが王を目指さないと言えば、その内諦めてくれるわ」
大半の令嬢は俺が王位につく前提だから、その対応で十分だろう。実際、王位に拘っているのはお婆様くらいだ。セラはリアに頷きを返す。
方策が決まった所で、セラが疑問を投げかける。
「ところで、アンジェリカ以外の二人って誰なの?」
俺は二人の令嬢について話をした。
二人は少し話をしてみると言って、三人だけの内緒話は終了した。