表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で王位継承争いに巻き込まれた(字下げ版)  作者: しゃもじ
最終章 アレクシスの婚約者と王位継承争い
51/52

第十一話 王位継承争いの決着

 スカイドラゴンの討伐で、近衛騎士への被害はなかった。勿論オーウェン殿下も無傷。完全勝利だ。


 ベンジャミンは、王太子殿下の命令で謹慎処分となった。不満を漏らしかけたが、父上に殴られ黙らされていた。父上はそれ以降ベンジャミンには触れず、黙々と仕事をこなしていた。


 俺達はあれ以降、討伐に出ていない。

 アルフ殿下も不満を漏らすことなく、ベティさんと一緒に訓練を続けている。


 数日後、残りの魔物は領軍と冒険者で対応可能と判断され、俺達は王都に帰還することになった。マックス達もブリスト伯爵領に帰還する。



 ◇



 王都に帰還し、陛下に報告を行なった。陛下から労いの言葉を頂き、討伐軍は解散となった。


 数日後、陛下に呼び出された。ベンジャミンの処罰に関する件だそうだ。母上も参加を許可されたのだが、父上に任せると言い欠席を選んだ。謹慎処分の経緯は父上から説明されており、覚悟はしているのだろう。


 当日迎えに来たのはトーマスさんだ。父上は既に城にいるので、一人馬車に乗り城へ向かう。道中トーマスさんから話しかけられる。


「王太子殿下は、あの夜の出来事を陛下に話されました」


 オーウェン殿下達の命を狙った件だ。


「どうも貴族会議の後、カミラ様が似たようなことを叫び散らしていたらしいです」

「オーウェン殿下やカール殿下が死ねばいい、という話ですか?」

「死ねという言葉ではなかったそうですが、殿下達がいなければという意味のことを仰っていたようですね」

「それをベンジャミンが聞いて、行動に移したということですか?」

「そこまでは不明です。ですが、可能性は否定できません」


 推測以外の何物でもないか……


「それで、陛下はどうなさるおつもりですか?」

「その件に関しては、証拠もないので処分なしです」

「そうすると、今日は命令を無視して戦場から逃げ出した件のみでの処分ですね」

「そうなります」

「最悪の事態は免れそうですね」


 死罪ということはないだろう。


「安心されましたか?」

「死んだら母上が悲しみますから……それに、兄ですし」

「……そうですね」


 トーマスさんは優しい声で答える。

 馬車は城に到着し、話し合いが行なわれる部屋に移動した。


 ◇



 部屋には、オーウェン殿下、カール殿下、バミンガム侯爵、ウェルズ侯爵、マンチェス侯爵の五人と、数人の近衛騎士がいた。

 俺はウェルズ侯爵に話しかける。


「ウェルズ侯爵。魔の森の方は落ち着いたのですか?」

「ええ。後は冒険者ギルドに任せれば大丈夫そうです」

「それは良かったです」

「ご協力に感謝致します」


 笑顔で話を終え、席に座る。すると隣の席のバミンガム侯爵が話しかけて来る。


「アンジェリカから聞いたぞ。今回も活躍したそうだな」

「俺じゃなくて『俺達』ですね。アルフ殿下やリア達も一緒に戦いましたから」

「相変わらずだな、お前は」


 バミンガム侯爵はそう言って肩を竦めると、すぐに真面目な顔に変わる。


「ベンジャミンについてはどう考えている?」

「処分は当然ですので、陛下がどんな判断を下そうと文句を言う気はありません」

「姉上は?」

「父上に全て任せるとのことです」

「……そうか」


 バミンガム侯爵にとっては、ベンジャミンも甥だ。気にかける部分はあるのだろう。


「アレク様は御立派ですな。王家の血の影響が強いのでしょう」


 会話に入ってきたのはマンチェス侯爵だ。好々爺のような顔をしているが、その言葉は随分といやらしいものだ。暗にウェルズ侯爵やバミンガム侯爵を批判しているのだろう。

 ウェルズ侯爵が苦々しい顔をしている。

 オーウェン殿下やカール殿下も顔をしかめている。


 すると、陛下が部屋に入って来た。王太子殿下と父上も一緒だ。

 三人が席に座り、話し合いが始まる。


「忙しい中すまない。連絡した通り、今日はベンジャミンの処分についてだ」


 陛下が話し始める。


「詳細は省くが、最初にドラゴンの咆哮が鳴り響いた際にあいつは撤退を選択した。それは良い。しかし、オーウェン達が戦っている横を素通りして、敵を押し付ける形でそのまま撤退を続けた」


 到着翌日の内容だ。


「本人は気付かなかったと主張したそうだが、本当かどうかは分からない。仮に本当だとしたら、小隊長としては論外だ」


 全員が頷く。


「次は更に問題だ。数日後再びドラゴンの咆哮が鳴り響いた。この時は事前に対応が決められ、集合することになっていた。しかし、あいつはそれを無視して町へ逃げ帰った」


 陛下は顔を苦々しい顔にものに変える。


「その時あいつはトーマスに対し、『ドラゴンの相手はお前達の仕事だ。俺には関係ない』と言ったそうだ。騎士達も聞いている」


 父上もその時のことを思い出したように顔を歪ませる。


「魔物の脅威を前に、王族や貴族の立場のものが言って良い発言ではない」


 陛下はそう言って全員を見回す。


「皆の意見を聞きたい。ベンジャミンをどうするべきだ?」


 陛下は自分の判断を言う前に、俺達に意見を求める。

 最初に口を開いたのはマンチェス侯爵だ。


「オーウェン殿下達に魔物を押し付けたのが故意かどうかですな。故意なら死罪は免れないでしょう」


 王太子殿下の目が厳しいものに変わる。俺とトーマスさんの証言を事実と認めれば、死罪になる可能性はある。だが、王太子殿下もそうしたくはないのだろう。


「故意という証拠はない。その件で死罪にするのは無理だな」


 陛下が否定する。やはり俺達の証言はなかったことにするようだ。俺の証言が実の兄を死罪に追い込むことにならず、今更ながら安心する。


「爵位剥奪というところではないでしょうか? 発言内容からして、王族、貴族としての資質があるとは言えません」


 王太子殿下が発言する。ここが落としどころなのだろう。

 バミンガム侯爵、ウェルズ侯爵、オーウェン殿下、カール殿下も賛成する。


「アレクの意見は?」

「陛下の判断にお任せします。弟としては、死罪を免れることを望みます」

「そうか……」


 陛下は頷いた。父上に意見を聞くことはしない。先に話し合っているのだろう。父上の耳に俺達の証言が届いていれば、死罪にすべきと主張したかも知れない。


「皆の意見は分かった。ベンジャミンは男爵位を剥奪し、王都以外の別の場所に預けることにする。バミンガム侯爵、頼めるか?」

「承知しました。ベンジャミンは私の甥でもありますから」


 バミンガム侯爵は頷き、陛下の依頼を受け入れる。

 バミンガム侯爵領か……クラリスに迷惑がかかるな。


「……陛下」


 ウェルズ侯爵が静かに陛下に話しかける。


「何だ?」

「ベンジャミンはウェルズ侯爵領で預からせてください」


 皆が驚きの表情を見せる。ウェルズ侯爵は真剣な表情をしているが、意図が分からない。


「……何故だ?」

「ベンジャミンがああいう性格になった一番の原因は、カミラの影響でしょう。そして、カミラの性格はウェルズ侯爵家の教育によるものです。バミンガム侯爵に任せて良いことではありません」


 沈黙が訪れる。

 お婆様は陛下の第二夫人だ。実の兄とはいえ、公然と批判したのは驚いた。


「……私はウェルズ侯爵を引退します。そして、ベンジャミンの再教育に専念しましょう。責任を持って一兵卒から鍛え直します」


 ウェルズ侯爵は陛下を真っすぐに見据え、陛下は返答に悩んでいる。

 そんな中、マンチェス侯爵が発言する。


「よろしいのではないですか? 確かにベンジャミンはカミラ様の影響を大きく受けております。そのカミラ様を放置し続けたのはウェルズ侯爵本人ですから」


 俺は不快感を禁じ得ない。間違いではないかも知れないが、ウェルズ侯爵だけの責任でもない。


「何故あんな状態のカミラ様を放置し続けたのか……」


 マンチェス侯爵は周りが見えていないのだろうか? この場の全員が顔をしかめ、不快感を表に出している。それは陛下も例外ではない。


「……黙れ、マンチェス侯爵」

「はっ?」

「カミラを放置したのはウェルズ侯爵だけではない。私も同じだ」


 陛下がマンチェス侯爵を見る。その目は睨んでいるようにも見える。


「それに、その方も同罪だろう」

「なっ、何故でしょう? 私はカミラ様とは関係がありませんが?」

「ローズマリーを煽り続けたではないか! カミラと対立するように!」


 陛下が怒鳴り声を上げる。

 マンチェス侯爵が驚愕の表情を浮かべる。


「ローズマリーは自分が第一夫人であることを強く主張し、カミラはそれに反発した。王太子とウィリアムが生まれてからは、対立に拍車がかかった」


 陛下の言葉には悔しさが籠っている。


「アイリーンが成長するにつれ、ローズマリーは落ち着くようになった。しかし、カミラとの関係が修復されたわけではない」


 陛下の独白は続く。


「私はカミラと良好な関係を作ることを諦めた。カミラの性格が原因なら、責任はウェルズ侯爵だけではなく私にもある。無論、貴様も同罪だ」


 マンチェス侯爵は愕然としたままだ。反論したいのだろうが、反論すれば陛下の怒りを買うだけだろう。


 陛下は俯き長く息を吐き出すと、顔を上げウェルズ侯爵を見る。


「ウェルズ侯爵の気持ちは分かった。ベンジャミンのことは任せる。だが、自分一人の責任などと思うな」

「……はい、ありがとうございます」


 ウェルズ侯爵が頭を下げる。

 続いて陛下は王太子殿下に顔を向ける。


「私も引退する」

「はっ?」


 陛下の突然の引退宣言に王太子殿下が驚く。


「お前が周囲の貴族だけでなく、広く交流を持とうとしていることは知っている」

「……はい。ミュラから指摘され、考えを改めました」

「それで言い。私が出来なかった――いや、やらなかったことだ」

「……陛下?」

「派閥争いなど不要だ。お前のやり方でやれば良い」


 陛下の言葉に一瞬呆然としたものの、王太子殿下は顔を引き締める。


「……承知しました」

「正式な王位継承は来年の貴族会議の席だ。それまでに権限の委譲を進める」

「分かりました」


 陛下はマンチェス侯爵に視線を向ける。


「貴様も引退したらどうだ?」

「私も!? な、何故?」

「跡継ぎは派閥争いに熱心ではないだろう? 貴様が引退した方が、新しい王がやりやすい」

「しかし、それは……」

「フンッ、王命を下してやってもいいぞ?」

「!?」


 陛下はマンチェス侯爵を鼻で笑う。

 侯爵は悩んでいたが、最後は諦めたように引退を受け入れた。


 その様子を見ていた父上が口を開く。


「ベンジャミンの教育に一番責任があるのは私です。私も責任を取って公爵位を返上し引退します」


 父上は力なく引退を申し出る。だが――


「駄目だ。次期王として、ウィリアムの引退は認められない」

「兄上……しかし」

「ウィリアムは簡単に引退出来る立場にない。……引退したいなら、自分の代わりが務まるように、カールを教育してくれ」


 王太子殿下がそう言うと、カール殿下は笑みを浮かべて父上に顔を向ける。


「御指導よろしくお願いします。叔父上」


 そう言ってカール殿下は頭を下げる。


「……分かった」


 父上は納得し、引退を取りやめた。

 そして、王太子殿下はオーウェン殿下に顔を向ける。


「オーウェン」

「はい」

「お前を次期王太子とする」

「はい。王太子の立場に恥じぬよう、一層努力します」

「正式発表は来年の貴族会議だ」


 オーウェン殿下が次期王太子に決定した。

 この時――


 俺の王位継承争いが完全に終了した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ